第20話 デスナイト

『どれくらい掛かりそうだ?』


『全て回収するのに五分は掛かると思います』



 5階層のボス部屋の前まで辿り着いた俺は現在、1階層ごとに設置されている魔物が来ない休息エリアで休みながら魔力の回収を行っていた。



 ドラゴンクロー、ドラゴンフライ、ドラゴンテール、ドラゴンスケイル、それらの技は全て魔法ではなく純粋な魔力を圧縮した無属性魔法であるため時間を掛ければ魔力を回収することが出来る。



『ドラゴンブーストを使い過ぎたのは反省点ですね』


『一度体外に霧散した魔力の回収は難しいからな。残りの魔力量をしっかりと計算する必要がある』


『はい』



 ここに来るまでに何度もドラゴンブーストを使用してしまったがそれでも魔力はまだ残っている。次のボス戦は厳しいものにはなるだろうが何とかなるだろう。



『そういえば、まだ新しい技を教えてなかったな』


『新しい技ですか?』



 竜神クロノス様から唐突に新しい技と言われ一瞬首を傾げるが俺はすぐにその意味を理解した。それはここに来るまでの道中での会話でこの身を小さな竜に変えることが出来たら新しい技を教えてくれるというものだった。



『どんな技を教えてもらえるのですか?』


『この技は我も愛用していた技でな、腕を振り抜くと同時に爪の先から魔力を飛ばし遠距離斬撃を発生させる技、名付けるならドラゴンスラッシュと言ったところだな』


『ドラゴンスラッシュ』



 これまでの経験からか何となく技のイメージは理解出来る。ただ、正確に飛ばせるかや威力に関しては実際に使ってみないことには分からない。



『これから戦う敵に試してみるとします』


『うむ、頑張るのだぞ』


『はい!』



 それから30分ほど休んだ俺は体の感じを確かめてからボス部屋の扉を開けたのだった。




◇◆◇◆




「懐かしいな」


『デスナイトか、今の其方にとっては良い相手だな』



 円形のドーム状になっているボス部屋の真ん中に立っている魔物、デスナイトを見て懐かしさが込み上げてくる。これまでのスケルトンとは違う灰色の体に黒く汚れた軽装の鎧。手に持つ剣と盾もこれまでのスケルトンたちが持っていたものとは違いしっかりとした作りになっている。



「ドラゴンクロー」



 俺が臨戦態勢を取ると同時にデスナイトも反応を見せる。言葉こそ発さないものの赤く光る目と構えられた剣を見れば敵対の意思を持っているのは明らかだ。



「魔力障壁」


『飛ぶ斬撃か』



 素振りでもするかのように宙に向けて振るわれたデスナイトの斬撃はしかし、距離など関係ないと言わんばかりに俺目掛けて飛んでくる。



 これがこのダンジョンのデスナイトが脅威たる所以。高い近接能力に加え距離を取ろうにも飛ぶ斬撃で攻撃されてしまう。さらには、



「ドラゴンショット」



 ぶっちゃけただの魔力弾ことドラゴンショットを放つも今度は左手の盾によって弾かれてしまう。



『近距離戦を得意としながら飛ぶ斬撃と魔力を弾く盾で遠距離にも対応してくる。厄介だな』


『はい、でもだからこそ戦う意味があります』



 昔の俺ならデスナイト相手に一人では手も足も出ず数人掛かりで押さえつけるのがやっとだった。でも今は違う。



 再びデスナイトの剣に魔力が集まるのを感じ取り俺も右手のドラゴンクローにいつも以上の過剰な魔力を集中させる。



 まずは力比べだ。



「ドラゴンスラッシュ!くそ、」


『練度の差で推し負けたか。まぁ、仕方あるまい』



 竜神クロノス様の言う通り今の一撃は完全に練度の差で押し負けてしまった。左手のドラゴンクローで弾き落とせるまでには威力を低下させられたが相殺は出来なかった。



「ドラゴンフライ、ドラゴンテール、ドラゴンスケイル、次は近接戦だな。ドラゴンブースト」



 背中はの羽から魔力を放出しその推進力を利用して一気にデスナイトとの距離を詰めそのままドラゴンクローを振り向く。だが、やはりと言うべきか俺の放った攻撃は簡単にデスナイトの剣によって受け止められてしまう。



「重い」



 一撃でドラゴンクローが破られるということはなかったがそれでもデスナイトの一撃は相当に重たい。恐らく、今のドラゴンアーマーくらいなら一撃で破られそうだ。



 幾度か剣と打ち合う中で自身の火力不足を痛感する。きっと竜神クロノス様なら高火力の一撃でこの程度の相手瞬殺してしまうだろう。だが、今の俺にそこまで高威力の技は使えない。



 でも、そんな俺だからこそ出来る戦い方というのもある。



「吹き飛べ、ドラゴンストーム」



 羽に魔力を込め全力でデスナイト目掛けて解き放つ。それはまさしく風圧であり風魔法でもないのにデスナイトを後ろへと飛ばすことに成功する。そして、この隙があれば一気に攻め立てることが出来る。



「行くぞ!ドラゴンブースト」



 羽から魔力を放ち一気に飛ばされたデスナイトへと接近するとそのまま回転し尻尾による一撃をお見舞いする。



「ドラゴンナックル」



 さらに体勢が崩れた所へ顔面に渾身の拳を炸裂させ、よろけた所にハイキックを放ち再び拳を振るう。蹴る、殴る、叩く、飛ばす、打つ、ドラゴンブーストによって底上げされた攻撃の嵐が容赦なくデスナイトへと降り注ぎどんどん耐久力を削って行く。



「ドラゴンストーム、ドラゴンスラッシュ」



 ボス部屋を任されてるだけあって流石に硬い。これだけ攻撃しても倒れてくれないのは想定外だ。けど、手数の多さでも防御力でもこっちの方が上回っている。決着が付くのも時間の問題だろう。



 そこで俺は自分の中にある違和感に気が付いた。そう、何か違う気がするのだ。確かにデスナイトとの戦闘の中で新しい技を使うことは出来たし成長も実感出来た。それは素直に嬉しいしこの戦いに価値があることの証明でもある。



「あの頃はもっと必死だった」


『何故技を解く?』



 竜神クロノス様に言われて自身の体を見てみると今まで纏っていた筈の技の数々が解けていて気が付けばドラゴンアーマーだけになっていた。別に魔力が切れた訳ではない。そう、これは自分の意思だ。



「前の世界で俺はユリウス兄さんに並び立とうと必死でした。剣を振る度に腕は痺れ敵の攻撃に恐怖していた。でも、目標がさらに高くなった筈の今は自然とそう言った感情はありません。俺はここに力を誇示しに来たんじゃない。強くなりに来たんです。だから、この状態で戦います」


『確かに勝ちの決まった戦いに意味はない。これまでに培われた其方の守りは経験値を奪ってしまう。ならば、存分にやるが良い。それもまた経験だ』


「はい!」



 それから、俺とデスナイトの本当の意味での死闘が幕を開けたのだった。

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