終わった世界の修復者

嵐猫

第1話 終わった世界

「ははっ、遂にこの時が来た。今日を持って私は真の神となるのだ!」



 目の前で高笑いをする少女を見て俺は世界の終わりを予感する。誰あろう、この少女こそは世界を破壊し創世の神々を殺した最悪の魔王、エイミー・ロゼットである。



「なぁ、お前も楽しみであろう。勇者の弟、アレン・ツール」


「………」



 もはや、言葉を返す気力すら湧かない。俺から全てを奪い去ったこの魔王にも、何も出来ずに見ていることしか出来なかった自分自身にも嫌気が差す。



「心は壊れてない筈だが反応がないのは悲しいなぁ。まぁ、この儀式が終わればお前も用済みだ。殺してやるから安心せよ」



 本来なら、殺されると聞いて恐怖を覚える筈なのに俺の心にそんな感情は湧いてこない。寧ろ、早く死にたいとすら思っている。



「神獣バハムート、嘗て魔神ゼブラが創り出した世界に終焉をもたらす獣。こやつを取り込むのにどれほど苦労したことか」



 神獣バハムート、それは創世の神々と呼ばれる五柱の中で魔物を創り魔族を産み落としたとされる魔神ゼブラによって創られた最悪の獣。大昔に本当に世界を滅ぼし掛け神々によってこの森に封印されたとされているがこいつが言うのだからきっとそれは真実だったのだろう。



「そうじゃ、折角だからお主には世界の真実と我の目的を語ってやろう。冥土の土産というやつじゃ」


「………」


「お主も知っておろう、この世界は元々五柱の神によって想像された。あらゆる物質を創り出しこの星を創世した女神マリア。創られた世界に法則を与えて星としての機能を構築した獣神アニマラ。時間の概念を生み出し世界の終わりを阻止する機能を持つ竜神クロノス。全ての魔法を司り世界の発展と星のエネルギーの循環を担う霊神フィラー。そして、全ての魔物を創り生態系を生み出した魔神ゼブラ。これくらいはお主でも理解はしてるであろう」



 この世界に住むものなら誰もが知っているべき常識だ。もっとも、その神々はもうこの世界に居ないわけだが。



「種族についての説明も今更じゃがしてやろう。魔物を作り出した後、世界の発展を願った神々はそれぞれの特性を反映した種族を創った。女神マリアは人間を、獣神アニマラは獣人を、竜神クロノスは竜人を、霊神フィラーはエルフを、魔神ゼブラは魔人を、そしてここからが人類の蛮行と神々の世界の話じゃ」



「初めは順調じゃった。神々の生み出した人類は魔法と共に発展の歴史を辿りそれぞれの創造神を崇める国を創り豊かな暮らしを実現した。しかし、そんな平和は長くは続かなかった。それは、歴史を知るお主なら容易に想像が付くであろう。そう、戦争じゃ」



「初めは些細なことじゃった。お互いの崇める神のどちらが凄いのか、信仰対象の違い故に起こった諍いはやがて戦争へと発展し人種差別を生み出した。当然、神々はそれを良しとはしなかったが世界を想像して力を使ってしまった神々が好き勝手に人類に干渉出来る訳もなく戦争は激化の一途を辿った」



「発展を願い生み出した己の種族が多種族を差別し嬉々として殺害する。その現状に耐え切れず一番初めに力を取り戻した魔神ゼブラは既に人類に見切りを付けておった。その結果生み出されたのがこの地に封印されている神獣バハムートという訳じゃ」



「魔神ゼブラの目的は順調に進んで行った。神獣バハムートは魔神ゼブラが己の力の全てを注いで生み出した魔物。人類如きが相手になる筈もなく十日で世界は一度滅んだ。じゃが、神竜クロノスが力を取り戻したことにより世界は巻き戻った」



「お主だって聞いたことくらいはあるのではないか?竜神クロノスの持つ逸話の一つ、時戻し。世界の時間を巻き戻す権能。竜神クロノスはその権能を使いたった一人で他の神々が目覚めるまでの時間神獣バハムートと戦い続けた」



「竜神クロノスと神獣バハムートの戦いの余波により世界はボロボロとなったが他の神々が力を取り戻したことにより形勢は大きく傾いた。五柱の神を相手どれるほど神獣バハムートは強くはなかったのじゃ。結果として、神獣バハムートは封印されることとなったがその封印が厄介極まってるのじゃよ」



「神獣バハムートは仮にも最強の魔物、封印をするための場所ですら慎重に選ばなければならぬ。そこでまずは女神マリアが封印に最も適したこの森を創り、そこに獣神アニマラが星に悪影響が出ないように法則を書き換えた。そうして、最高の封印場所を作り後は霊神フィラーによる最上級の封印魔法で封印を施し世界に安寧がもたらされたのじゃ」



「しかし、その後処理により神々は再び力を使い果たしてしまった。女神マリアは戦いの余波により壊れた世界の修復を、獣神アニマラは壊れた生態系や星の機能の修繕を、竜神クロノスは時戻しの権能と一部種族の復活を、霊神フィラーは封印魔法による負荷と一部の魔法の消滅を、そして魔神ゼブラは力の大半を使い果たし当時の魔王が安置した」



「のぉ、勇者の弟。ここまで話せば我の言いたいことが理解出来るのではないのか?」


「クソが、」



 理解したくはない。それでも理解してしまった。何故、目の前の魔王エイミー・ロゼットが多くの種族を虐殺し神々を殺したのか。一魔王でしかない彼女にどうしてそんなことが出来るのか。



「お前、神を喰ったのか」


「左様、我は既に魔王ではなく魔神であるのだ。そして、神獣バハムートの封印を解き取り込むことで完全体へと至る」



 狂っている。ただただ狂っている。力を欲し破滅するものは歴史上でも数多く存在している。だが、勇者である兄を殺し本当に世界を破壊する者など誰が想像出来るだろうか。



「女神マリアと獣神アニマラが死んだことでこの森は封印場所としての機能が損なわれ、霊神フィラーが死んだことで封印魔法は大分弱まった。後はこの封印を解き我を頂点とした新たなる世界を創るのじゃ」



 その後、封印が解かれた神獣バハムートを取り込んだ魔王エイミー・ロゼットは本当の意味で世界を支配した。そして、俺にも終わりの時がやって来た。



「さぁ、勇者の弟よ。この新世界にお主の居場所はない。その宝珠を呑み込み自害せよ」


「言われるまでもない。こんなゴミみたいな世界で生きるくらいなら俺は死を選ぶ」



 新たに作られた国、大魔帝国ジャスカルタの玉座の前で俺は死を迎えたのだった。



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 本日から新たに『終わった世界の修復者』を投稿していこうと思います。面白いと思っていただけたらブックマーク、評価をお願いします。


 基本的には水曜日と土曜日の週2回の投稿を考えていますが、仕事の都合上投稿頻度が落ちることもありますのでご了承ください。

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