サイダーのように、アオクハジケル

彩希 文香

プロローグ

第1話 

 テレビコマーシャルの影響なのか、陽依奈ひいながそれを思い出す時、真っ先に浮かべるのは、青みかがったガラス製のコップに並々と注がれた無色透明の液体とその中に湧き上がってくる小さな泡の数々。そのは、まさしく、夏のイメージそのものだ。

 甘い液体と爽やかな酸味が混ざり合う中で空気を含んだ粒が口いっぱいに小さく踊り出し、やがて飛び跳ねる。普段よりも意識し、舌に力を込めて、それらを喉の奥に一気に流し込んだ。

 未だかつてない、不思議な飲み物を初めて味わった、遠く過ぎ去った、暑い日の昼下がり。両目を右開き、コップを持ち上げては照明器具に反射する液体をしばらく観察し、「これは、なに? おいしい!」なんて、思いのまま声にしたのち、急いで再び、コップを口に運んだ。父親も含め、周りにいた家族は全員、柔らかい笑みを浮かべながら、陽依菜のそんな動作を見ててくれていて、誰もが優しい眼差しを自分に注いでいた。皆の視線に気が付いた陽依菜は、ちょっとだけ恥ずかしくなり、照れながら苦笑したっけ。

 あの夏からもう何年も経つというのに、今でもサイダーを飲む度、目の奥でその光景が映し出される。

 高校生活、二回目の夏休み。繰り返される夏を満喫するはず、だったのに———。自分の身に何が起こっているのか、正直、さっぱり、分からない。けれども、もう、こうなったら仕方がない。一瞬、一瞬をめいいっぱい、過ごそう。

 陽依菜は、この夏、サイダーのようにアオクハジケル………。

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