5年の間に変わった国の形

 カイルが5歳の時に、7国を統一したオズマリア王国は、オズマリア帝国と名を改めた。5年という月日は、国の形を大きく変えることとなる。かつて、7国あった国の国境線は、取り払われて、国民の行き来は、自由となり、国は豊かとなる。そうなると当初は、侵攻してきたオズマリア国家に対し、少なからず嫌悪を抱いていた者も、信奉者に変わる。そして、一番初めにオズモンド皇帝の子を孕ったデザート王国の元王妃ウォーター、60歳の出産である。子供を産む機能が役目を終えていた筈なのだが性豪であるオズモンドの精を浴び、身体が活性化したのだろう。見た目の変化も凄まじく20代でも通用する程であった。その発表をカイルが知ったのは、6歳の時の国営放送であった。オズモンドの隣に出産を終えたウォーター夫人が子を抱いて挨拶したのだ。

「この国に住む我が民たちよ。待望の子が産まれた。ワシは数多くの子を成しているが誰もが女であった。だが此度、待望の男児が産まれたのだ。これは実に喜ばしいことである。それに伴いウォーターは、我がオズマリア帝国の皇后となった。今まで我が妻を務めていたシスは、側室へと落とした。そして、デザート地区に住む全ての国民よ。ウォーターが我が王妃となったことを喜ぶが良い。お前たちは、永久帝国市民権を得る。毎月の税金を4分の1免除だ。これ以降、我が王妃となったウォーターを蔑むことは許さぬ。そして、元デザート王国の兵たちよ。奴隷から解放してやろう。ワシに仕える気概のある者は、帝都に来るが良い。そうでない者は、何処へなりと行くが良い。ついては、デザート地区の民たちを守る魔物壁の建設だが週休2日制給与2万Gで雇ってやろう。働く気概のある者は、近くの兵に言うのだ。ウォーターよ。お前からも愛する我が国民たちに挨拶を」

「かしこまりました。親愛なるオズモンド皇帝陛下様。この度、オズモンド皇帝陛下様との男児を設けたウォーターです。デザート地区の皆様には、私が早くオズモンド皇帝陛下様との子を成さぬ為に苦労をかけました。ですが、これで、我が国の未来は、明るくなりました。皆で魔物からの襲撃に備えようではありませんか。オズモンド皇帝陛下様の御心のままに」

 そんな国営放送を聞いた6歳のカイルは、ランダスに聞く。

「じいちゃん、あの綺麗な人がオズモンド皇帝陛下様の奥さんなの?」

「(そんなまさか?ウォーター様は、心の底からオズモンドなどを愛しておられるのか?あのような侵略者を本気で)」

「じいちゃん、おーい、聞いてんのか?」

「あっすまんすまん。どうしたのじゃルイスよ」

 ランダスは、人前では、ルイスと呼び。2人きりの時は、カイルと呼び記憶を取り戻させようと頑張っていた。

「あの綺麗な人がオズモンド皇帝陛下様の奥さんなの?」

「あぁ、そうじゃよ」

「元デザート王国って何?」

「昔、そう言う国があったのじゃよ。そこの出身ってことじゃよ」

「そうなんだ。オズモンド皇帝陛下様ってカッコいいね。僕もあんな風に」

「なりませぬ。あのような男を目指しては、なりませぬ」

「どうしたんだよじいちゃん。そんなに声を荒げて」

「いや、なんでもないんじゃ。なんでもないのじゃ。ただ、オズモンド皇帝陛下様を目指して、危ないことに巻き込まれてほしくないだけじゃよ。お前のじいじとしてな」

「そっか。わかった。次は、あの石を運ぶんだね」

「あぁ(全ての記憶を失うということは、ある意味幸せなのかも知れんのぅ。忘れたいと思っても忘れられぬ。それにこの歳ともなれば、忘れたくない大事な思い出もあるのじゃからな。それにしてもウォーター様ですらあのような状態。イーリス王妃様は、大丈夫であろうか」


【オズマリア帝国】


「キリンよ。お前もワシの子を孕って幸せであろう」

「はい。オズモンド陛下様。ですが、妊娠している間は、アレを控えるというのは、少し寂しいです」

「お腹の子が大事なのじゃ。わかってくれ。それ以外でならこうやって相手をしてやるゆえな」

「あっあぁん。そこは感じすぎちゃって、欲しくなっちゃうんです」

「そうかそうか。じゃが無事に我が子を産むまで我慢じゃ」

「あっあぁん。早く産まれてよ。オズモンド皇帝陛下様の愛が欲しいのおぉぉぉぉ」

「(くっ狂ってる。ウォーター王妃様もキリン王太子妃様もこんなに簡単に屈するなんて、ドゥライ王様があんまりではないですか。ファイン、この世の終わりのような世界でも生きていかねばならないことを許してください。カイルの安否が分かるまでは)」

「そうであった。ウォーターよ。約束を果たそう。息子は2人とも亡くなってしまったゆえ孫に逢いたいのであったな。キリンも付いてくるが良い。感動の対面とやらをさせてやろう」

「(王族でも子供は殺してないのね。ならカイルにも。でも逢うためには、コイツに屈して子を成す必要があるってこと。それは、それだけは、絶対にできないわ。なんとかカイルの安否を知る方法があれば良いのだけど)」

 しかし、帰ってきた2人の様子は、ますますおかしいものとなっていた。

「どうした。せっかくの感動の対面であっただろう。酷いことでも言われたのか我が妻ウォーターよ」

「はい。バァバは、売国奴だ。国を売った愚かな王妃だと。そんな、人間と話すことはないと。あんなのは、私の孫ではありません。それに私にはオズモンド皇帝陛下様とこの子が居ます。あんな孫はもう要りません。オズモンド皇帝陛下様、どうぞいかようにもなさってください」

「私も同感です。あんなクソ生意気なガキは、私の子ではありません。とっとと処分を」

「(どんな、悲惨な目に遭えば、我が子を要らないといえるのだろう。どんなに酷い言葉を吐かれたとしても、血の繋がった大事な我が子ではないかしら。それをもう必要ないとか処分とか。人の命をなんだと思っているのかしら)」

「我が妻にそのようなことを言うなど許せん。せっかく許して養子に迎え入れてやろうと思っていたのだが。そういうことなら仕方ない。おい、近衛兵よ。あのクソガキどもを研究施設送りにせよ。どのような人体実験をしても構わんとな」

「はっ」

 実は、この時、彼女たちは、実の子供に会ってはいない。精巧なホログラムで作られた子供に罵詈雑言を浴びせられる。反乱分子ゆえ閉じ込めているので、そこのマイクから話しかけてくださいと言えば、オズモンド皇帝陛下様に強く依存してしまった彼女たちは、逆らわない。そして、それがホログラムで作られた偽物でも気付かない。では、本物の子供たちはどうなっているのか?

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