第54話 呼び出し(2)

【前書き】


復活!


   ◇◆◇◆◇◆◇



 図書室に着くと、案の定、待っていたのは狭山カコさんだった。

 室内には数人の生徒がいて、チラチラと僕を見ているのが分かる。

 その視線に気づかない振りをして、カコさんに近づく。


「ひでお君……」

「カコさん」

「ここじゃ、あれだから……」

「うん」


 カコさんに連れられ、図書室の奥へ向かう。

 図書委員である彼女は慣れた様子で、本棚の間を迷いのない足取りで進んでいく。

 誰も立ち寄らない場所。僕もここまで来るのは初めてだ。


「ここなら、大丈夫だから」


 誰も気がつかないよな場所に、ドアがあった。

 カコさんにうながされ、部屋に入る。

 小さな部屋に長机がひとつ。それに椅子がふたつ。


「ひでお君、来てくれてありがとう……座って」


 椅子に座ったカコさんの向かいに僕も腰を下ろす。

 だが、それきりカコさんは俯いて黙り込んでしまう。


「えーと、カコさんって呼べばいいかな? それとも、マヤさんの方がいいかな?」

「カコで……いいよ」

「じゃあ、カコさんで」


 そこで会話が途切れる。

 俯いたカコさんは緊張しているのか、耳まで赤くなっている。

 僕も慣れないシチュエーションで心臓がバクバクだ。

 気まずい沈黙が流れ――。


「あの」「あの」


 思い切って声をかけたら、被ってしまった。


「じゃあ、カコさんからどうぞ」「ひでお君からどうぞ」


 またもや、被る。

 お互い顔を見合わせ、プッと吹き出す。

 それをきっかけに、緊張が解け、二人で笑う。

 僕は手を前に出し、カコさんに譲る。


「どうやって話そうか、ひと晩考えたんだけど、ひでお君の顔を見たら、全部忘れちゃった」


 それは僕も同じだった。

 だけど、それで不安になったり、心配になったりはしない。

 むしろ、いつも通りの自然体を取り戻した。

 彼女の笑顔のおかげだ。


「僕も」


 カコさんは僕の言葉にはにかむ。


「上手く話せないかもしれないけど、ゴメンね」

「ううん。カコさんのペースで良いよ。今日は予定を入れてないから」


 カコさんは大きく目を見開いた。


「私のために、時間をとってくれたんだ」

「うん。僕にとっても大切な時間だから」

「ひでお君にそう言ってもらって嬉しい」


 カコさんは俯きかけるが、すぐに顔を上げ、僕の瞳に視線を合わせた。


「私、中学の頃から、ひとりぼっちだったんだ」

「うん」

「クラスのみんなと話が合わないんだ。オシャレとか、恋愛とか、興味がないから」

「あー、僕も同じ。佑くらいしか話す相手いないよ」

「だから、高校に進むときも怖かった。また、一人だったらどうしようって」

「…………」


 僕には佑がいたから平気だった。

 佑が常に僕の隣にいてくれたから。

 もし、佑がいなかったら……。

 僕もカコさんと同じ思いだっただろう。


「入学式の日、ひでお君が勇気をくれたの。木の上で困っていた猫ちゃん。あれは私と一緒なんだ」


 正直に言うと、カコさんからDMをもらうまでは、そのことをすっかり忘れていた。

 言われて思い出したけど、その相手がカコさんだったことまでは覚えていない。

 女子には苦手意識があったけど、あのときは自然に振る舞えた。

 ちょっと、格好つけてしまったかもしれないけど。


「ひでお君が助けてくれた。ひでお君が同じクラスにいたから、私はひとりぼっちでも平気だった」


 強がりじゃないと、伝わってくる。


「ひでお君は私によく話しかけてくれるよね」

「そうだね」

「私がかわいそうだったからかな?」


 カコさんは不安そうに尋ねる。

 僕は首を振って否定する。


「僕も女の子と話すのが苦手なんだ。でも、カコさんは平気だった」


 ただのクラスメイトではないけど、友人と呼べるほど親しいわけでもない。

 他愛ないちょっとした会話しかしてこなかったけど、カコさんとの会話は嬉しかった。


「小学校の高学年の頃かな。女子にバカにされたんだ」


 それが女子に苦手意識を持つようになったきっかけだ。


「いつまでもヒーローなんて子どもみたい、ってね」


 ショックだった。

 みんなが成長して、大人になろうとしているのに、僕だけ取り残されたような気がした。


「それ以来、自分から女子に話しかけなくなったんだ」


 男子も同じようなものだった。

 ただ、佑だけが僕を否定しなかった。


「でも、カコさんとは自然と話が出来た」


 クラスメイトは皆、格付けして、ラベルを貼る。

 陽キャだとか、陰キャだとか。クラス内カーストがどうだとか。

 一度、陰キャだと認識されると、そのポジションが確定し、誰も話しかけようとしない。


 僕はその外側にいたし、佑もそうだった。

 そして、カコさんも――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『呼び出し(3)』

長らくお待たせしましたが、ようやく体調も良くなりました。

明日から毎日投稿頑張ります!


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