第47話 霧島キラリ(3)
佑と下校中のときだ。
「おう、お前らがひでおと佑か。ちょっとツラ貸せよ」
いかにもな不良に絡まれた。
まったく面識のない相手だ。
コイツの他にも3人の男。
そして、その後ろでイヤな笑みを浮かべている女の子は同級生。
トップカーストグループのリーダー霧島キラリさん。
えーと…………どういうこと?
ポカンとしていると、不良の男が凄んでくる。
「キラリに恥をかかせやがって」
「なんのことです?」
とぼけてるわけではなく、本当に思い当たる節がない。
彼女との接点は先日、誘われて、断っただけ。
恨まれるほどのことじゃないと思うけど……。
となると――。
佑はやけに嬉しそうな笑顔。
ああ、佑がなんかやったんだな。
こういうことは、ままあるので、驚かない。
「霧島さん、この前、忠告したと思うんだけど?」
「ふん。私のことバカにするから、こうなるのよ」
「答えになってないよ?」
佑の笑顔がさらにノリノリになる。
あ、これ、ブチ切れてるやつだ。
男たちはともかく、霧島さんは大丈夫かな?
「じゃあ、遠慮しなくて良いんだね」
「
「おう、遊んでやるぜ。ついてこい」
「ひでお、とっとと終わらせちゃおうぜ」
「うん」
佑は自ら率先して路地裏に入っていく。
その後の他の男たちと霧島さんがついてくる。
「で、なにしてくれんの?」
佑が心太を挑発する。
「なに、調子に乗ってんだよ」
心太が拳を構える。
危機を感じた僕が前に出ようとすると、佑に手で制された。
心太が殴りかかってくる。
佑は避ける振りもせず、男に顔を殴られる。
いや、ただ殴られたわけじゃない。
殴られた瞬間に身体を後ろに反らしていた。
見た目ほどのダメージは受けていない。
「そんだけ?」
上から目線な態度に、他の3人もプチッと来たようで、一斉に殴りかかってくる。
これも佑はギリギリかすらせる程度。
そして、ある程度やられたところで、腹を殴られてぶっ飛ばされる。
いや、殴られるタイミングに合わせ、自分から後ろに飛んだんだ。
「よし、俺の役目は終わった。後はひでおに任せる」
佑の意図は分かった。
正当防衛にするためだ。
僕は佑をかばうように、前に出る。
「お前が相手だな、
「ダンジョンヒーローとか言って調子に乗ってんなよ」
「いくらダンジョンで強くても、ここでは意味ねーぞ」
「ボコボコにしてやる」
四人は僕を取り囲む。
彼らは勘違いしている。
彼らが言う通り、ダンジョンでの身体能力は、ダンジョン外では発揮できない。
今の僕のスペックは普通の高校生並み。
多少は鍛えているけど、その程度だ。
だから、4対1なら、一方的にボコれる――そう考えたのだろう。
でもね、身についた戦闘技術は外でも使えるんだ。
4人とも格闘技をやってるわけでもなく、連携も稚拙だ。
いっせいに襲いかかってくるが、それを全回避するのは目をつぶっても出来る。
攻撃が当たらないことにイライラしたようで、どんどん大ぶりになってくる。
その分、回避が簡単になるのだが――そんなことも分からないようだ。
このまま、相手が疲れるまで待っても良いんだけど――。
「佑、これ、どうすれば良いの?」
「怪我しない程度にやっちゃって」
「わかった」
なら、脳震盪あたりがちょうどいいかな。
1。2。3。4。
顎を軽く撫でてやると、四人とも意識を失った。
軽くしておいたので、後遺症は残らないはずだ。
「えっ!?」
驚愕する霧島さんの肩を佑が軽く叩く。
「そっ、そんな……」
「あーあ、だから、忠告したのに。残念だったね。今日で霧島さんの人生はお終いだね」
霧島さんはその場にへたり込んでしまう。
「ひでお、帰ろうぜ」
「うっ、うん」
佑の後をついて、表通りに出る。
「あの人たちどうなるの?」
「4人は傷害罪」
「佑は怪我してないよね」
「なに言ってんだよ。殴り飛ばされて、大怪我しただろ?」
「えっ、……いや、うん」
「バッチリ録画しておいたから、民事でもガッツリ貰おうかな」
やっぱり、佑を敵に回すのは怖い……。
「キラリさんは?」
「霧島の弱みをいくつか握ってるからね。社会的には死んだも同然だよ」
「やり過ぎじゃない?」
「霧島は裏で色々やってたんだよ。それに以前、一度忠告はした」
「そっか……」
霧島さんが僕に声をかけてきたときのことだろう。
佑がこう言うのなら、それなりの悪事を働いていたということか。
なら、かわいそうだけど、仕方がないかな。
「ああ、本当はひでおを巻き込みたくなかったんだけどな。だから遠慮はしない」
――翌日。
学校に行ってみると、霧島さんの姿はない。
担任が言うには、彼女は退学したそうだ。
そして、その晩、霧島さんがやっていたらしい動画チャンネルが大炎上し、本人特定やらなんやら、大変な騒ぎになったた。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『池袋東口ダンジョン(1)』
霧島さん退場!
やりすぎ?
4人組が分からない人は、名前を検索するといいよ
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