第40話 八王子ダンジョン(8)

 ヒーローアラートが緊急事態を告げる。

 俺は慌てて変身。

 現場へと駆け出した――。


 それから遅れて、通信機に連絡が入った。

「総員、最深部サル山へ急行。キング誕生の可能性アリ。最大限、警戒せよ」


 八王子ダンジョンではいくつかのイレギュラーが起こりうるが――今回のは考え得る限り最悪の事態だ。

 一秒でも早く現場に――俺はギアをひとつ上げる。

 今までは木の枝や根っこを避けて走っていたが、それらを全部無視、力業でぶっ飛ばしていく。


 ――レッドライン。


 八王子ダンジョンは浅部と深部のふたつに分けられている。

 その境を示すように地面には赤い線が引かれ、木には赤い旗が立てられている。

 浅部は初級者でも戦える難易度。

 だが、深部は下層並みの危険度となる。


 そして、深部の最奥。目指す場所はそこ――サル山だ。


 ここに出る猿モンスターの特徴は、極めて組織化された集団だということ。

 それもピラミッド型の権力構造を形成している。

 浅部に現れるワイルドモンキーはその最下層。

 一番弱い個体である分、頭を使って罠を仕掛けるのだ。


 そしてレッドラインを越えると出現するのが――アグレッシブモンキー。

 ワイルドモンキーのひとつ上の位。下から二番目の猿だ。

 コイツらは筋力が高く、好戦的で、探索者を見かけると襲ってくる。

 普段あまり探索者が入らない縄張りに入ってきた俺に向かって、アグレッシブモンキーどもが殺到してくる。


 周囲の木々に成る果実――ワイルドベリーがたわわだ。

 やっぱりな、連絡があった通り、これはヤバい事態だ。

 それにしても、襲ってくるアグレッシブモンキーの数が多すぎる。


「ヒーローソードッ!!」


 いちいち相手にしている時間はないので、スピードを落とさずに、剣で撫で斬りにしていく。

 ヒーローはできるだけ武器を使わずに肉弾戦をするべき――というのが俺のポリシー。

 だけど、今はそんな悠長なことは言ってられない。


 奥に進むにつれ、アグレッシブモンキーの密度が濃くなっていく。

 剣で倒すのも追いつかなくなってくる。

 もうサル山は見えてきた。


「ヒーロージャァァァンプッッッ!!!」


 低く屈んで、斜め上に跳び上がる。

 久々に本気のジャンプだ。

 一般人の走り幅跳び記録は約9メートル。

 ヒーロースーツを身に纏った俺は一回で500メートル跳べる。


「ヒーロージャァァァンプッッッ!!!」

「ヒーロージャァァァンプッッッ!!!」


 某配管工のように三段ジャンプを決め、サル山の麓にたどり着いた。


「ダンジョンヒーロー!!」


 高さ30メートルほどの岩でできたサル山。

 サル山とその周囲には200体近くのサルがいる。


 サル山周辺の平地ではすでに20人ほどの探索者がファイティングモンキーと戦ってきた。

 ファイティングモンキーはアグレッシブモンキ-よりひとつ上の位だ。


 アグレッシブモンキーより強い上、戦闘技術も兼ねそろえている。

 個々は中層レベルだが、集団になると高い戦闘技術と巧みな連携で下層モンスター並みの強さだ。


 ファイティングモンキーと戦うときはそれ以上の人数であたれ――それが鉄則だ。

 それなのに、この場所にいるのは100体以上のアグレッシブモンキーだ。


 そして、この戦闘でなによりも厄介なのが――。


「うわあ」


 アグレッシブモンキーと戦ってきた探索者に飛んできた岩が直撃する。

 サル山の上からスローモンキーが投げてきた岩だ。


 サル山攻略には、平地での近接攻撃と、上から飛んでくる遠距離攻撃を同時に相手にしなければならない。

 まさに攻城戦だ。


「おい、ヒーロー、状況は?」

「あまり良くないな」


 遅れて虎夫がやって来た。

 50人の優秀な探索者が揃っているとはいえ、パーティーを組んでいるわけではないので、即席の連携で挑まねばならない。

 この場所で一番強いのは虎夫だ。

 後、下層でも十分通用しそうなのは10人にも満たない。


「ダンジョンヒーロー様」


 リリスもやって来たが、その顔は青ざめている。

 彼女くらいの強さの探索者だと、取り返しの付かない怪我を負いかねない。

 どうすれば良いのか。

 俺は最善の手を選ぶ。


「虎夫、指揮してくれ」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『八王子ダンジョン(9)』


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