第37話 八王子ダンジョン(5)
「ダンジョンヒーローさん。お願いがあるのですが」
「ああ、今はひでおでいいですよ」
「ひでおさん、俺たちに罠のことを教えてもらえませんか」
「良いですよ。この後の撮影しようと思っていたところなので」
「ありがとうございます!」
もともとは一人でやろうと思ったけど、彼らがいるなら協力してもらうのも良いかもしれない。
「良ければ、生徒役をやっていただけませんか?」
三人は相談するが、今度はすぐに意見が一致したようだ。
「是非、やらせてください」
「モザイクはどうしましょう?」
「ナシで良いです!」
三人とも興奮気味だ。
最初の女性と同様、「ダンジョンヒーローの動画に映れるぞ」と喜んでいる。
「じゃあ、早速ですが、撮影を始めましょう。演技はいらないですから、普通に自然体でいてください」
それから簡単な打ち合わせを済ませ、撮影を開始する。
配信端末を操作し、まずは自分を映す。
「これからひでお流の罠講座を始めます」
それから三人を映す。
「今日は、生徒役として三人の探索者に協力してもらうことになりました。まずは自己紹介をお願いします」
「
「
「
ガタイのいい猛
特徴的な髪型の直雄。
眼鏡をかけた信太。
ちなみに、リーダーがダミ声なのが猛で、「ママ~」と叫んていたのが直雄、休憩時に目でピーナッツを噛んでいたのが信太だ。
「三人とも今日が八王子ダンジョン初めてで、罠にはまったく慣れていないです」
三人がコクコクと頷く。
「では、早速――」
罠講座を開始する。
「ワイルドモンキーの厄介なところは、さっきのように罠を作ることです。たとえば――」
僕は周囲を見渡し、それを発見。
1メートルほどに近づいて、三人に尋ねる。
「この辺りに罠があるんですが、見つけられますか?」
三人はキョロキョロと地面を探す。
しばらく探しても発見できないようだ。
「いや、全然、分からないです」
「まったく見つからないです」
「本当にあるんですか?」
首を振る三人に指し示し、配信端末に罠をアップで映す。
「ここですね。下草を結んで輪っかを作ったヤツです。引っかけて転ばせる罠ですね」
「あっ、本当だ」
「全然、気がつかなかった」
「普通に歩いていたら、引っかかってたな」
三人は驚き、それから、納得したような反応を示す。
その罠を剣で突っつき、それから、ふたつに斬り裂く。
「罠自体はたいしたことないのですが、見通しの悪い森の中で、罠に気がつくのは初心者にはなかなか難しいんですよね。他にも――」
落とし穴や丸太が落ちてくる罠を紹介していく。
その度に三人が良い反応を示してくれる。
うん。三人に手伝ってもらって正解だったかも。
今回の動画は初心者向け講座という意味も兼ねているので、見つけ方や解除方法を丁寧に説明する。
「とまあ、こんな感じで、他のダンジョン下層なんかにある致死性の高い罠に比べれば、かわいいものです。あっ、良い罠がありました。三人は少し離れていてください」
僕が蔓を切ると、木の矢が飛んでくる。
それをキャッチして配信端末に向ける。
「矢が飛んでくる罠ですね。この通り、速度も威力もこの程度なので、キャッチしても避けてもどっちでもいいです」
三人が「おおお」と感心する。
「見えたか?」
「気がついたら飛んできた」
「なんで、あんなに簡単にキャッチできるんだ?」
この説明だと、罠はたいしたことがないと油断させてしまうかもしれないので、ちゃんと罠の危険さを伝えるのも忘れない。
「下層でも矢の罠がありますが、飛んでくるのは時速200キロ超えの鋼鉄の矢です。頭に喰らうと即死しかねないので、慣れるまでは注意が必要です」
初見のときは、僕もビックリした。
戦闘中だったので、少し反応が遅れたけど、咄嗟に屈んでモンスターに突き刺さったから、結果オーライだったのを思い出す。
「いや、意味が分からないっす」
「常人には無理っす」
「死ぬっす」
三人ともブンブンと首を振る。
「ダンジョンでは常に周囲を見回すようにしましょう。慣れると『ここら辺にありそう』って分かるようになるのですが、最初のうちは全神経を集中した方がいいですね」
よし、これくらいで撮れ高は十分かな。
出口にも近いところまで来たし。
ここらで締めよう。
「以上、ひでお流の罠講座でした。ご協力いただいたお三方、ありがとうございました」
「いえいえ、僕ら何もしてないっす」
「むしろ、こちらがお礼を言いたいっす」
「貴重なお話ありがとうございました」
これで撮影は終わりだ。
「ご協力ありがとうございました。出口はすぐなので、そこまで送りますね」
時計を見ると2時。
残り3時間。
さて、次は何を撮ろうか。
三人と別れ、撮影を再開しようと思ったのだが、ヒーローアラートが鳴った。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『八王子ダンジョン(6)』
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