第35話 八王子ダンジョン(3)

依頼を受ける人数が3人だけだとさすがに少なすぎるので、50人に変更しました。

といっても、他の探索者が話にからんでくることはありません。


   ◇◆◇◆◇◆◇


「あの、ちょっとお訊きしたいことがあるのですが――」

「なっ、なんでしょう?」


 僕は配信端末を指差す。


「今の救助シーンを動画に使っても良いですか?」

「えっ……」


 彼女の顔に戸惑いが浮かぶ。

 罠にハマったところをみんなに見られるのは恥ずかしい。

 予想はしてたけど、やっぱり嫌がられるかな。


「もちろん、モザイクはかけますので」

「いっ、いえ」


 彼女が顔を横に振る。

 そうだよね――と諦めたところで、僕の顔を見て察したのか、彼女が口を開く。


「違うんです。出るのがイヤじゃないんですっ!」


 さっきの困惑が嘘のように、彼女は目をキラキラと輝かす。


「ダンジョンヒーローさんのチャンネルに出られるなんて光栄です。モザイクなんかいりません」

「そっ、そうなの」


 身を乗り出して食らいつかんばかりの彼女に、僕は圧倒されて思わず後ずさりしてしまう。

 相手にグイグイ来られるのは苦手だ。


「では、ありがたく使わせていただきますね」

「はいっ! 動画楽しみにしてます。知り合いにも宣伝しますので」


 みんなに自慢できるなあ――と彼女が呟く。

 周囲に宣伝してもらえるのは嬉しいな。


「上級探索者が巡回しているけど、必ず間に合うとも限らないので、気をつけてくださいね」

「わかりました。ダンジョンヒーローさんも頑張ってくださいね。応援してます!」

「それでは、失礼します」


 ブンブンと手を振る彼女に別れを告げ、僕はその場を後にする。

 彼女から離れたところで、僕は配信端末に向かって話しかける。


「というわけで、今回の依頼内容は罠にハマった探索者の救助です」


 少し間をおいてから、説明を続ける。


「八王子ダンジョンは上層を卒業して、中層を目指す探索者向けの場所です。僕も最初の頃はお世話になりました」


 上層で楽に戦えるようになり自信がつく頃。

 自分の力を過信し、油断してしまう頃。

 この段階が一番危ないといわれる頃。

 痛い目を見て、厳しさを学ぶ頃。


「ここに出現するモンスターはワイルドモンキーという小さい猿型モンスターだけで、中層を目指すレベルなら楽に倒せる相手です。あっ、ちょうどいいですね」


 視界に入ったワイルドモンキーに駆け寄る。

 せっかくなので、撮れ高に貢献して貰おう。


 ――ウキャキャ。


 突然現れた僕にワイルドモンキーは驚いた声を上げる。

 僕は棒立ちになって、ワイルドモンキーに隙を見せる。


「ワイルドモンキーの攻撃は単調で、パターンも少ないです」


 爪で引っ掻く。

 体当たりする。

 噛みついてくる。


 僕はそれを躱しながら、解説する。


「こんな感じなので、簡単にしのげます。それにHPも50ぐらいなので――」


 ワイルドモンキーの腹を軽くパンチ。

 失神したワイルドモンキーを抱え、配信端末に映す。


「倒すのも簡単です」


 見えやすいようにトドメを刺す。


「どうってことないですよね?」


 上手く撮れたかな?

 念のために、三匹くらい同じように撮影する。

 これくらい撮っておけば大丈夫かな。


 このダンジョンでワイルドモンキーとの戦闘は脅威ではない。

 やっかいなのはワイルドモンキーの習性だ。

 それを説明しようと思ったところで――ヒーローアラートが警告する。


 また、変身し俺は駈け出す――。


 そういえば、ヒーローアラートのことも説明しないとな。

 それにファストパスの件も。

 今日は話すことがいっぱいある。

 忘れないようにメモしてあるから、救助しながら順番にこなさないといけない。

 空き時間が多いかと思っていたけど、実際にやってみると結構時間がかかる。


 全力で走り、1分もかからないうちに、救助要請があった場所に駆けつける。


 ――うわ、エグいな。


 今度は男性三人組みパーティーだ。

 すぐに命にかかわるわけではないが、彼らが置かれた状況はキツい。

 下手したらトラウマものだ。

 早く助けないと。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『八王子ダンジョン(4)』


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