第34話 八王子ダンジョン(2)


「ひでおは生配信か?」


 ダンジョンに入るところで虎夫が尋ねてきた。


「いえ、今日は録画するだけです」


 今日の依頼は待ち時間が多くなると思う。

 ライブでその間を繋ぐだけのトークスキルを僕は持っていない。

 ソロのときは視聴者ゼロの無言配信が大部分だったけど、大勢に観られる今はそういうわけにもいかない。


「リリスはどうすんだ?」

「私も今日は配信しないかな。使えそうな場面があったら録画するくらい」

「そっか、じゃあ、バッタリ出会っても問題ないな。まだ配信ってのに慣れてなくてよ」


 虎夫は自分が配信に映るのに抵抗があるみたい。


「一応、エリア分けしとくか」


 相談して、それぞれの担当エリアを決める。


「じゃあ、また後でな」

「後でね」


 二人は自分のエリアに向かって歩いて行った。


「さてと」


 ライブではなくても、やることの共通点は多い。

 ダンジョンが背になるように端末をセットし、まず最初は――。


「皆さんこんにちは。ひでおのダンジョン配信チャンネルのひでおです」


 配信端末に向かって、いつもの挨拶。

 だいぶ慣れてきたので、噛まずに言えた。


「僕の配信にお越しいただき、ありがとうございます」


 テンプレ挨拶を終えて、次は動画の趣旨について。


「今日は協会依頼のために八王子ダンジョンに来てます」


 端末を操作してダンジョン見えやすいようにする。


「では、早速ですが、ダンジョンに入ります。歩きながら、依頼について説明します」


 ダンジョンに入り、風景を映しながら、話していく。


「八王子ダンジョンは有名なので、すでに依頼内容にピンときてる方もいるかと思います。依頼内容は――」


 そこまで言いかけたところで、腕輪がブルブル震え、ピカピカ光り、ピーピーと鳴る。

 この腕輪は先日紹介した『ヒーローアラート』。

 佑特製のダンジョンガジェットだ。


「いきなりですが、『ヒーローアラート』が発動しました」


 配信端末に腕輪を見せる。


「ごめんなさい。説明は後回しにして、今から救助に向かいます」


 佑が言うにはヒーローアラートはまだ完全ではなく、一部の機能しか使えない。

 だけど、今回の依頼にはそれで十分だ。


「ダンジョンヒーロー。変身ッ!!」


 いつものポーズとともに、ダンジョンヒーローへと変身する。

 そして、ヒーローアラートが示す方向に向かって走り出した。


「いた」


 目標の探索者を発見。

 近づいて声をかける。


「大丈夫か?」

「きゃああ、助けてください~」


 声の主は足首につるが絡みつき、逆さ吊りにされている女性。

 スカートだったら大変な姿だ。

 ズボンで良かった。


「今下ろす」


 女性は高さ3メートルほどの場所に吊られている。

 俺は軽く膝を曲げ――。


「ヒーロージャァァァンプッッッ!!!」


 からの。


「ヒーローチョォォォォプォォォ!!!」


 そして。


「ヒーローキャァァァッチッッッ!!!」


 飛び上がり、蔓を切り、女性をキャッチ。

 空中でクルリと一回転して、華麗に着地を決める。

 よっぽど怖い思いだったのか、女性は俺にしがみつき「ひいい」と怯えている。


「安心しろ。もう大丈夫だ」


 なだめるように、優しく声をかける。

 彼女は声に反応して、俺の顔を見る。


「あっ、ダンジョンヒーローさん!?」


 彼女は驚きのあまり固まってしまった。

 彼女が再起動するのを待ってから声をかける。


「落ち着いたか?」

「はっ、はい」


 コクコクと頷く女性を見て、もう大丈夫だと判断し、地面に下ろす。

 彼女の頬は赤く染まっていた。


「あっ、ありがとうございました」


 彼女がお礼を述べるが、どこか上の空な様子だ。


「礼は不要だ。困っている者がいれば助ける。それがダンジョンヒーローだ」


 では――と黙って去れば格好いいのだが、今日はそういうわけにもいかない。

 俺は変身を解除して、ひでおに戻る。


「あの、ちょっとお訊きしたいことがあるのですが――」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『八王子ダンジョン(3)』


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