第31話 仲間佑(3)

「それで、早速明日のリストだ」


 佑がタブレットを見せる。

 ファストパスを使って行ける場所のリストが表示されている。

 僕はそのリストを眺め、ある一件で目が止まる。

 いかにもヒーローに相応しい一件だ。


「どこがいい、ってまあ、一択だよな」

「うん、ここ。八王子ダンジョン」

「そう言うと思ったぜ。行ったことあったよな?」

「うん。何回か」


 八王子は人気のダンジョンで、都心から離れているにもかかわらず、いつも大勢の探索者がいる。

 特に休日ともなればなおさら。

 ヒーローとして活動するには持って来いだ。


「明日は日曜だし、ピッタリだろ?」

「そうだね」


 明日は適当にどこかのダンジョンで配信しようと思っていたが、これは渡りに船だ。

 八王子ダンジョンなら、配信内容も面白くなるだろう。

 単調な配信にならなくて済んだことにホッとする。


「じゃあ、協会に連絡しておくな」

「ありがと」

「良い話だったろ?」

「ビックリしたけど、嬉しかったよ」

「うし、この件はこれで終わりだ」


 タブレットを佑に返す。

 明日のことが楽しみだ。


 そのためにも、早めにコメント返信を終わらせなきゃ。


「まだ時間かかりそうか?」

「日付が変わるまでに終われば良いんだけど……」

「うわ、すげー量だな」


 佑がコメント数を確認して声を出すが、あまり驚いている様子はない。

 それよりもどこか嬉しそうだ。

 僕としても大変さよりも、みんながこれだけのコメントを残してくれた喜びが上回る。

 これだけ多くの人に興味を持ってもらってるんだ。

 とくに、「楽しかった」というコメントは励みになる。


「配信するたびに増えていくよ」

「まあ、あんまり無理すんなよ」

「先に寝ててもいいよ」

「いや、起きてる。勝手にしてるから、ほっといていいぜ」


 佑はタブレット、紙のノートとペンを取り出し、ベッドに横になる。

 タブレットに表示された英語で書かれた論文。

 僕が見たこともない記号が並んだ数式。

 さっきの質問タイムで答えていたジャーナルだ。


 佑はデジタル機器を完全に使いこなすけど、ノートを取るときやアイディアを考えるときは、タブレットではなく、紙とペンというアナログスタイルだ。

 意外に思って尋ねたことがあるが――。


 ――人間は手で物を握ってきた。猿の頃からな。紙も紀元前からだ。だからペンと紙が脳とつながってる。人間の脳がデジタル機器に慣れるのは数百年、先だ。


 なんだか分かるような、分からないような答えが返ってきた。

 だが、それが妙に佑らしい答えで納得させられてしまう


 3分もしないうちに佑は論文に集中し、僕は彼の視界から閉め出される。

 いつものことなので、とくに気にしない。


 二人で過ごすことは多いけど、大半は二人別々のことをしている。

 相手に気を遣わなくていいから、佑と過ごす時間は楽で楽しい。

 僕もコメント返信を再開する。


 背後から聞こえるスラスラというリズミカルな音。

 しばらくすると音は止み、またしばらくして鳴り始める。


 その音に心地よさを感じながら、コメントをひとつずつ読んでいく。

 ほとんどが「いいね」とか、「すごい」とか、ひと言感想。

 それらには手作業で「イイね」をつけていく。

 佑は「自動返信プログラ作ろうか?」と言われたが、視聴者のみんなには僕の気持ちを届けたい。

 だから、時間がかかっても、ひとつひとつタップしていく。


 ただ、これもいつまで続けられるか分からない。

 このままフォロワーが増え続ければ、いずれ限界を迎えるのは明らかだ。

 それでも、出来る限りコメント返信は自分でやりたいと思っている。


 コメントの中には、配信で拾いきれなかった佑への質問がある。

 それらにも答えられる範囲内で返事をする。

 さすがに「今日のパンツの色は?」みたいなのはスルーだけど。


 ――しばらく続けてるうちに、気になるコメントがあった。


「あっ、小坂マヤさんだ……」





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『仲間佑(4)』


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