第29話 仲間佑(1)


「お疲れ」

「佑もお疲れ。本当に配信初めてだよね?」

「嘘ついてどうすんだよ」

「まあね。でも、すごい慣れてる感じだったから」

「人前で話すのは慣れてるからな」

「ガジェット開発絡み?」

「そんなところだ」

「いい加減、教えてくれない?」


 配信でも言ったけど、佑がどこでどうやってるかは不明。

 聞いてもはぐらかされるばかりだ。

 というか、佑はプライベートなことはあまり教えてくれない。

 つき合っている彼女とかは紹介してくれるんだけど、実家のことなんかは頑なに拒む。

 だから、僕は佑の返事に驚いた。


「いいぜ」

「ホント?」

「水曜は学校休みだろ? そんとき教えるわ。10時から夕方まで空けといて」

「ええ、嬉しいな。楽しみにしてるよ」

「他の奴には絶対にナイショな。教えるのはひでおだけだから」

「もちろんだよ」


 僕にとって佑は一番の、特別な友人だ。

 社交的な佑は僕と違って交友範囲が広いのに、僕を一番として扱ってくれるのはすごく嬉しい。


 ――俺がヒーローひでおの一番のファンだからな。


 佑に落胆されないためにも、僕はこれからもヒーローとして恥じないように生きていきたい。


「安心しろ。今でもひでおは俺の一番のヒーローだ」

「顔に出てた?」

「丸わかりだよ」


 そう言って、佑は笑う。


「それより腹減ってるだろ。メシ買ってくる。何がいい?」

「じゃあ、ハンバーガー。佑の聞いたら食べたくなっちゃった。注文しちゃうね」


 ゴミ箱には佑が食べた容器が捨てられている。

 空になったとはいえ、匂いは残っている。

 僕の胃は配信中からハンバーガーを受け入れる気が満々だ。


 僕はスマホアプリでモバイルオーダーする。

 モッツァレラの辛いバーガーでセットはいつも通り。


「佑もなんか食べる? 今日は奢らせてよ」

「グァバジュース、ポテト、オニオンリング。Lサイズで」

「おっけー」


 注文を済ませ、オーダー画面のスクショを佑に転送する。


「じゃあ、行ってくる。さきに風呂に入ってな」

「わかった」


 佑が戻ってくるまで20分くらいかな。

 今日は疲れたし、少しのんびり入るか。


「戻ったぞ」

「ありがと」


 佑がテイクアウトしてきたバーガーなどをテーブルに並べる。


「乾杯」

「乾杯」


 佑はグァバジュース。

 僕はアイスティーだ。


 今日を振り返りながら、食べていく。

 佑は配信前に食べたはずだが、気にせずに食べている。


「オニオンリングって美味しいけど食べづらいよな」

「途中でオニオン出て来ちゃうよね」

「最後の衣だけも美味しいんけどな」


 そんな会話をしながら、遅かった夕食が終わる。


「佑もお風呂入りなよ。僕はコメント返信しとく」

「おう。アンチコメント気にするなよ?」

「うん。佑の言葉、覚えてるよ」

「ならいい」


 ――「好き」の反対は「無関心」だ。「無関心」な奴を「好き」にさせるのは難しい。そもそもこっち向いてないからな。だけど「嫌い」な奴は「好き」に出来る。そして、「嫌い」だった奴こそ、「好き」になったら熱烈なファンになってくれる。ライバルとタイマンして仲間になるの王道だろ?


 僕が配信を始めるときにもらった佑の言葉だ。

 以前も少ないながらも、アンチコメントはあった。

 だけど、気にせずにいられたのは佑のおかげ――というか、ほとんどが「無関心」だったから、そっちの方がキツかった。


 それが今はこれだけ多くの人に見てもらえている。

 アンチでも大歓迎だ。


 佑は慣れた調子で、タンスから自分の着替えとタオルを取り出す。

 ヒーローがバレてからは初めてけど、以前から佑はよく泊まりに来ている。

 だから、いつ来ても大丈夫なように、佑用の着替えやタオル、歯ブラシなどはおいてある。

 それに合鍵も渡して、「いつ来ても良いよ」って言ってある。

 僕は佑の合鍵はもらってないけど、佑は実家暮らしだからしょうがない。


「そうそう。風呂上がりに話がある」

「いい話? 悪い話?」

「どっちがいい?」

「えっ……」


 驚く僕に向かって、佑はいたずらっぽい笑みを向ける。

「冗談。いい話だ。んじゃ」


 佑は片手を振ってから風呂場に向かった。

 すごい気になるけど……今はやることをやっておかないと。


 ひとりになった僕は今日の配信アーカイブを開き、コメントをひとつずつ目を通し、返信していく――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『仲間佑(2)』



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