第25話 上野毛ダンジョン(3)


「カコさん!」

「ひでお君!」


 同じクラスの狭山カコさん。

 唯一、僕に声をかけてくれる女子だ。

 まさか、彼女も探索者だったとは。

 ビックリしている僕以上に、彼女は驚いていた。


「ひでお君が助けてくれたの?」

「僕がっていうか、ダンジョンヒーローがね」

「ありがと……」


 助けた方も助けられた方も知り合いというのは、なんとなく恥ずかしい。

 このままだと気まずい沈黙が流れそうなので、僕はなんとか話題をひねり出した。


「怪我はない? ポーション飲む?」

「大丈夫。ちょっとネバネバするけど」

「どこまで覚えてるのかな?」

「糸でグルグル巻きにされたとこまで。顔までやられて息ができなくなって……」


 結構ギリギリだったみたいだ。

 まあ、多少手遅れになっても、僕が持ってるポーションでなんとかなったんだけどね。


「救援課に連絡したから、彼らが来るまで待ってよう」

「うん」

「アイツらに心当たりは?」

「今日、初めて会ったの。パーティー組もうってしつこかった」


 やっぱりね。

 僕が思っていた通りだ。


「断ったら、どこかに行ったんだけど……」

「蜘蛛を連れて戻ってきたと」

「うん。気がついたらやられてた」


 レインボースパイダーは下層中部で現れるモンスターだ。

 下層に入ったばかりのここには現れない。

 イレギュラーの可能性も考えたが――。


 ――おら、助けてやろうか?

 ――恩返ししてくれるんなら、助けてやるぞ。


 二人の下卑た声とニヤニヤ顔で、そうではないとすぐに分かった。

 だから、さっきのように行動したんだ。

 カコさんの話が、僕の予想通りだったと証明する。


 カコさんはおとなしい。

 そういうタイプをターゲットにしたのだろう。

 ずいぶんと慣れた様子だったから、これまでも同じようなことをしてきたに違いない。

 相手が泣き寝入りすると見越して。


 あまり怒らない僕でも、ぶん殴ってボコボコにしてやりたくなる。


 だけど――ヒーローの役目は悪を討つことであって、悪を裁くことじゃあない。

 二人の処遇は探索者協会に委ねる。


「お待たせしました。大丈夫ですか?」


 10分ほどで数人の協会職員が到着した。

 入り口からは僕がダッシュしても30分かかる距離だけど、協会には特別な方法があるそうだ。


「コイツらですか?」

「ええ、そうです」

「詳しい話を――」


 僕とカコさんの二人で、補いながら説明する。

 話が進むにつれ、職員の顔が険しくなっていく。


 モンスターのなすりつけ、立派な探索者規則違反だ。

 今回のように悪質だと、一発でライセンス取り消し。

 その上、殺人未遂で実刑を喰らうことになるそうだ。


「お二人とも無事で良かったです。余罪もありそうですし、コイツらにはしっかりと罪を償わせるので、ご安心ください」


 失神している二人にゴミ虫を見る目を向け、職員が僕たちに告げる。


「後日、事情聴取に協力していただきたいのですが、よろしいですか」

「もちろんです」

「はい」

「ご協力、感謝いたします。今日はこれで解散。自由にしてもらって構わないのですが、どうしますか?」


 職員が問いかけてきた。

 僕がカコさんを見ると、状況を察してくれたのか、彼女は小さく頷いた。


「ゴメン、配信があるから、先に帰らせてもらうね」

「うん。私も楽しみにしてる」

「カコさんは職員の方と一緒の方がいいかな?」

「うん。まだ、さっきのが……」


 落ち着いているようだけど、肌が震えている。

 無事だったとはいえ、あれだけの思いをしたのだ。

 トラウマにならなければいいのだが……。


「僕でよければ、いつでも相談に乗るよ」

「ありがと」


 彼女のこわばりが少し溶けた気がする。


「では、彼女のことよろしくお願いします」

「はい。責任を持って、地上までお連れしますので、ご安心ください」


「じゃあ、カコさん、またね」

「うん、またね」


 僕は皆に背を向け、走り出す。

 状況説明やらなんやらで、思わぬ時間を食ってしまった。

 配信に間に合うかどうか、ギリギリの時間だ。


 佑に怒られそうだな――。


「また……助けてくれた」


 カコさんが小さな声で呟いたようだが、離れていく僕はなんと言ってるかまでは聞き取れなかった。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『狭山カコ(1)』


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   ◇◆◇◆◇◆◇


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