第24話 上野毛ダンジョン(2)

【前書き】


間に合いました!


   ◇◆◇◆◇◆◇



 僕は声のもとに向かって走り出した。


「こっちだ」


 ダンジョン入り口の方へと駈ける。

 女性の声がだんだんと近くなっていく。

 この感じだと、下層入り口付近みたいだ。


 あと少し、というところで声が途絶えた。


「間に合ってくれ」


 全力で飛ばして、声のした部屋に駆け込むと――。


「おら、助けてやろうか?」

「恩返ししてくれるんなら、助けてやるぞ」


 下卑た笑い声を上げる二人の男性探索者。

 金髪と編み込み。

 ガラの悪そうな二人だ。


 二人の視線の先を見ると、そこには――。


「レインボースパイダーか」


 体長3メートルの蜘蛛型モンスター。

 攻撃方法はカラフルな糸を吐き出して、相手を絡め取る。


 そして、今、まさに誰かがグルグル巻きにされている。

 声の主に違いないが、身動きが取れず、口を塞がれ、くぐもった声を上げることしかできない。


 状況は把握した――急がないと。


「ダンジョンヒーロー。変身ッ!!」


 ダンジョンヒーローが探索者を助けるのは、基本的に助けを求められたときだけだ。

 力を持たぬ一般人なら別だが、探索者の場合は話が違う。

 少しピンチになったからといって、気軽に誰かに頼るようでは探索者は務まらない。

 そんな甘い気持ちでは、いずれ取り返しのつかないことになる。


 虎夫をギリギリまで助けなかったのは、彼の探索者としての矜持を尊重したからだ。

 彼は初心者ではない。熟練の探索者だ。

 彼はギリギリまで自分の力でなんとかしようとした。

 探索者としての誇りを示した。

 だからこそ、俺は踏ん張った――飛び出したくなる気持ちを必死で押さえ込んで。


 だが、命の危険にさらされている場合は別だ。

 求められなくても、俺は助ける。

 後で、文句を言われても構わない。

 それがヒーローの生き方だからッ。


「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」


 変身した俺はピンクスパイダーから女性に伸びる糸に向かって――。


「ヒーローチョォォォォプォォォ!!!」


 手刀で糸を断ち切る。

 そのまま糸を掴み、女性に巻き付けられた糸を巻き取っていく。


 1メートル。

 2メートル。

 3メートル。


 女性の上半身があらわになる。

 半ば解放された女性はケホケホと咳き込む。

 目が回ってしまったかもしれないが、これで命の心配はない。


 俺はその糸を男たちに向かって投げる。

 糸は二人をまとめて拘束した。

 これで逃げられない。


 ――さあ、後は蜘蛛退治だけだ。


 ようやく俺の乱入に気がついたレインボースパイダーは、俺に向かって糸を吐き出す。

 俺はそれをキャッチして引っ張る。

 ピンクスパイダーは8本の足で踏ん張るが――綱引きは俺の勝ちだ。

 こっちに向かって飛んでくるピンクスパイダーに向かって――。


「ヒーローカウンターアタァァァァァクッッッ!!!」


 拳が顔にめり込み。

 プツンと糸が切れ。

 巨体が吹っ飛ぶ。


 ごおぉん――と音を立て、壁に衝突したピンクスパイダーは絶命した。


 糸まみれの男たちは必死にもがいているが、糸から脱出できずにいる。

 それを確認してから、倒れている女性の元へ歩み寄る。


「大丈夫か?」


 声をかけるが返事はない。

 呼吸は問題ないので、そのうち目を覚ますだろう。

 糸の切れ端がいくつも付いていて、顔はよく分からないが、俺と同じくらいの若い女性だ。

 勝手に顔に触れるのもどうかと思い、下半身の糸だけを切断する。

 目立った怪我はないようだ。


 女性の無事に安心した俺は、男たちに近づく。

 だいたいの事情は察した。

 男たちは俺を見上げて、怯えた顔をする。


「ちっ、違うんだ」

「なあ、助けてくれよ」


 なにが違うんだ。


 コイツらは探索者だが――悪だ。

 ダンジョンヒーローは悪を見逃さない。


 手刀を二発。

 男たちの意識を刈り取った。


「ふう」


 俺は変身を解除し、ひでおに戻る。

 それから通信機を取り出し、ある番号にかける。

 呼び出し音がなってすぐ、相手が出る。


「こちらダンジョン救援課です。どうなさいましたか?」

「実は――」

「分かりました。すぐに向かいます」


 これで探索者協会の人間がやってくる。

 後の処理は彼らに任せよう。


 しばらくして、女性が目を覚ました。


「大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございます」


 声もしっかりしている。

 後遺症もなさそうだ。


 女性は顔に張りついた糸を剥がしていく。

 そこに現れた顔は僕がよく知っている相手だった。


「カコさん!」

「ひでお君!」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『上野毛ダンジョン(3)』


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   ◇◆◇◆◇◆◇


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