第15話 霧島キラリ(2)


「ひでお、ちょっと野暮用だ。また、明日な」

「う、うん」


 スッと立ち上がり、鞄を掴むと佑は教室を出て行った。


 佑はいつもは人好きする笑顔で誰とも親しくつき合える。

 だけど――佑はたまに、ああいう顔をする。


 どうするつもりなんだろう?


 今まで何度かあの顔を見たけど。

 その理由を尋ねても、佑はいつも教えてくれない。

 きっと今回も僕の知らないことをするんだろう。


 さてと、これ以上教室にいる意味はないので、僕も帰り支度を始める。

 必要なものを鞄に詰め、教室を出ようとしたところで――。


「田中くん……」


 同級生の女の子に声をかけられた。

 自信満々の霧島さんとは違って、どこか遠慮するような、か細い声だった。

 彼女も立ち上がり、鞄を掴むところだった。


「狭山さん」


 彼女も僕と同じで、教室では目立たない存在。

 僕は彼女のことをほとんど知らない。

 髪はショートカットで眼鏡をかけて、いつも本を読んでいる。

 そして、成績優秀。学年でもトップクラス。

 僕が知っているのはそれくらいだ。


 それでも、彼女は僕にとって特別な存在だ。

 この教室で僕に話しかけてくれる唯一の女子だから。


「頑張ってね」

「うん」

「田中くんは田中くんだから」


 それだけ言うと、彼女は恥ずかしそうに顔を赤くする。


「バイバイ」

「うん、また、明日」


 教室を出て、狭山さんと別れる。

 僕は下校するために下駄箱へ。

 図書委員の彼女は図書室へ。


 彼女との会話はいつもこれくらいの他愛のないものだ。

 それでも、さっきの嫌な気持ちを忘れさせてくれた。


 彼女の背中を見送りながら、佑との会話を思い出す。


 ――クラスに目立たない女子がいるとしよう。

 ――彼女はメイクしたらとんでもない美少女で、スカウトされて有名モデルになったとしよう。

 ――お前はその子にどうする?


 もしも、狭山さんが……いや、別になにも変わらないな。

 少なくとも僕は。


 そんな考えを打ち払い、僕は帰宅した――。



   ◇◆◇◆◇◆◇


 オレは教室を出て行った霧島たちの後を追う。

 三人との距離が縮まったところで、彼女たちの背中に声をかける。


「ねえ、霧島さん」


 だが、彼女は聞こえない振りだ。

 もう一度、今度はさっきより大きな声で――。


「霧島さん」

「なに?」


 三人はピタリと足を止め、霧島がうっとうしそうに振り向く。

 トゲを隠そうともしない表情。

 さっきのことで怒っている。

 気の弱い相手だったら、それだけで萎縮してしまう。

 だけど、オレにはまったく効果ないよ。


「霧島さんにちょっと話があるんだ」

「別に私はアンタと話すことはないんだけど」


 煩わしそうな彼女に、オレは笑顔を作る。

 悪人がカモに向ける笑顔だ。


「えー、霧島さんにとってもいい話なんだけどなあ」

「じゃあ、ここで話しなさいよ」

「できれば二人きりの方がイイと思うよ。オレにとっても、霧島さんにとっても」


 オレは上から目線で答えると同時に、彼女にスマホの画面を見せる。

 他の二人には見えないように。

 ぴきりと彼女の顔が割れる。

 期待通りの反応が得られた。


「どうする? オレはここで話してもいいけど?」


 彼女は悔しそうに唇を噛む。

 だが、それも一瞬。

 すぐに笑顔を作り上げ、他の二人に――。


「ごめんね。今日は先に帰ってて」

「え~、気になる~」

「わたしも~」

「本当にごめんね。後でちゃんと話すから」

「しょうがないな~」

「仲間くん、頑張ってね」


 二人はこちらを気にしながらも、去って行った。

 オレが霧島に告白するとでも思ってるようだ。

 この手のヤツらはすぐに色恋に結びつけたがる。

 脳味噌がお花畑だ。


「ほら、行くよ」


 霧島は背中を向けて歩き出す。

 オレはがその後をついていくと、彼女は空いた部屋に入る。


「それで、どういうつもりよ。弱みでも握ったつもり?」

「これのこと?」


 先ほどと同じ画面を彼女に見せる。

 カラオケで数人の男女とともに、彼女が飲酒喫煙してる画像だ。


「それとも、こっちの方がいいかな?」


 スマホを操作して、別の画像を選ぶ。

 彼女が男と抱き合い、キスをしているヤツだ。

 相手は有名な男性配信者。


「ああ、後、霧島さん、裏アカやってるよね。そっちもスクショしてあるよ」


 顔を真っ赤にした彼女は、パッと腕を伸ばす。

 オレはその手をサッと躱して――。


「スマホを奪ってもムダだよ。クラウドにバックアップ取ってるから」


 彼女は唇を噛み、ギュッと両手を握りしめ、オレを睨みつける。


「いやだなあ。そんなに身構えないでよ」

「なにが目的?」


 オレは彼女の質問には答えない。


「霧島キラリさん、いや、キラキラチャンネルのキラリンって呼んだ方がいいかな?」


 オレの言葉に、彼女の顔が青ざめる。

 赤くなったり、青くなったり大変だな。

 でも――さっきのことは許容できない。


「別に霧島さんを脅してどうこうってつもりはないよ。ただ、ひでおに近づかないこと。それさえ守ってくれれば、オレはなにもしない」

「……わかったわよ」

「よかった。よかった。お互い納得がいく結論でよかったね」


 それだけ告げ、オレは教室を出る。

 伝えることは伝えた。

 これ以上、彼女とかかわる気はない。

 ひでおに近づきさえしなければ、どうでもいい存在。

 さっきの画像も保険として確保しておいただけだ。


 ひでおには、まだまだ正義の味方でいて欲しい。

 大人の汚い世界を見せ、幻滅して欲しくない。


 ひでおはヒーローに憧れ、この年になってもその気持ちを持ち続けている。

 ひでおが憧れるヒーローは作られた正義の味方だ。

 それくらいはひでおでも知っている。

 それでも諦めずに正義であろうとする。


 そんなひでおが――オレにとってのヒーローだ。

 眩しく輝くひでおこそが、オレの憧れだ。


 ようやくひでおのヒーローが始まった。

 誰にもジャマさせるもんか。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

『キラキラチャンネル』はダンジョン配信じゃなくて、カリスマJK的なおしゃれ配信チャンネルです。

キラリちゃんは退場、かな?


次回――『神保町ダンジョン(1)』


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