第14話 霧島キラリ(1)
週明けの放課後、教室で佑と話をしていた。
「ねえ、なんか、見られてない?」
「ああ、さっきからチラチラ。お前のこと気にしてるな」
「えっ? 僕?」
クラストップカーストの女子グループ三人組。
その中でもリーダーである霧島キラリさん。
彼女がこっちに向かって歩いてきた。
「ねえ、ひでお~。これからカラオケ行くけど、一緒に来ない?」
「えっ?」
霧島さんが満面の笑みで問いかけてきた。
僕と話したことなんてないのに、親しげというか、遠慮がないというか。
彼女は美人だ。学校で一、二を競うほど。
モデルをやっているとか、やっていないとか。
が。
彼女の目の奥に、僕はなにか不快なものを感じる。
「あー、ごめんごめん。ひでおは今日、俺と遊ぶ予定なんだわ」
戸惑っている僕の代わりに佑が返事をすると、霧島さんの目つきが一瞬――変わる。
だが、彼女はすぐに元の笑顔に戻って、僕に視線を向ける。
「そっかー、じゃあ、明日、空けておいてね」
バイバーイと手を振って、彼女はグループの元へ戻っていった。
「佑、ありがと」
「気にすんな。お前が断ったら、角が立つからな」
「うん」
佑の言う通りだ。
そこまで考えて、咄嗟に動いてくれた。
いつも僕を助けてくれる頼もしい友人だ。
「なあ、たとえばだけどな――」
周囲に聞こえない小声で佑が尋ねてきた。
自然と顔が近づく。
「クラスに目立たない女子がいるとしよう」
「うん。なんの話?」
「まあ、聞けよ」
唐突な話だったけど、佑が意味のない話をするはずがない。
「彼女はメイクしたらとんでもない美少女で、スカウトされて有名モデルになったとしよう」
「うん」
「お前はその子にどうする?」
「えーと、今まで接点なかったんだよね」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、なにも変わらないよ」
「どうして?」
「別に有名になっても、ならなくても、その子はなにも変わってないでしょ。もともと、付き合いがなかったのに、いきなり行動を変える理由がないんだけど。それに僕、人と話すの苦手だし」
「さすがは、ひでお! 俺の心の友だ!」
佑が嬉しそうに僕の肩をパンパンと叩く。
そして、真剣な表情で話を続ける。
「でもな、そうじゃない奴がいるんだよ。いや、程度は違ってもほとんどがひでおとは違うんだよ」
佑の目つきがちょっと怖い。
なにか思うところがあるんだろう。
「霧島はひでおに用があるんじゃない。一躍時の人となった有名配信者が目当てなんだよ」
「ああ、そういうこと」
だから、なんの接点もない僕に話しかけてきたのか。
「有名人と知り合いだと、自分の価値が上がるって思ってるんだよ。霧島のことだから、お前の彼女まで狙ってるかもな」
「ええ、そこまで?」
「女は怖いぜ~。騙されんなよ」
「うっ、うん」
女性経験の乏しい僕は、肯定も否定もできない……。
「佑はどうなの? 僕が変わって、佑も変わる?」
「どう思う?」
「佑は変わらないと思う。佑が霧島さんみたいだったら、そもそも僕のことなんて放ってるよね」
佑とは小学校1年生の頃からの付き合いだ。
あの頃、男子は皆、ヒーローに憧れた。
ヒーローごっこで遊び、じゃんけんで負けて悪役になると、本気で悔しがった。
でも、時がたち、学年が上がるとみな、ヒーローは
いつまでも本気でヒーローに憧れる僕をガキ扱いし、みんな僕から離れていった。
そんな中、佑だけが変わらず接してくれた。
――俺はもうヒーローに興味ないけど、ずっとヒーローに憧れてるひでおのことは嫌いじゃないぜ。
――つーか、ひでおは面白い奴なのに、気づかない奴らがアホなんだよ。
「とりあえず、今日はなんとかしのいだけど、明日からどうしたい? アイツ、しつこいぞ」
「う、うん……」
佑がいたから助かったけど、もし、一対一で迫られたら、そのまま押し切られてしまいそう。
「ひでおは霧島のこと、どう思ってるんだ?」
「うーん、嫌いとまでは言わないけど、なんか苦手。ときどき見せる視線があまり好きじゃない」
「そうだな。それが分かってたら大丈夫だと思うけど、なんかあったらすぐに俺に言えよ」
「ありがと、助かる」
「まあ、霧島だけでなく、同じように考える奴はこれからも出てくる」
そうかも。面倒だなあ。
「よし、じゃあ、俺が手を打ってやろう。貸しひとつな」
話がひと段落したところで、佑が教室の入り口に視線を向ける。
なんだろうと振り向くと、ちょうど霧島さんたちが帰るところだった。
「ひでお、ちょっと野暮用だ。また、明日な」
「う、うん」
スッと立ち上がり、鞄を掴むと佑は教室を出て行った。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
さあ、佑のターンです!
次回――『霧島キラリ(2)』
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