第4話 咲花リリス(2)

 絶体絶命のピンチ――。


 だけど、不思議と怖くなかった。

 諦めた命が――つながった気がした。


「危ないッ!」


 ふわりと浮く感覚――すっと柔らかく着地する。


「大丈夫か?」

「はっ、はい!」


 彼に抱えられたのだ。

 私の身体をそっと下ろしながら、私を気遣う声――優しく、強く、頼もしい声だ。


 私はもう、なんの心配もしていない。

 恐怖心はどっかに消え去り、安心感だけが全身を駆け巡る。


 彼はオーガに向かって立つ。

 その背中は大きく、揺るぎない。


「悪しきモンスターから探索者を救うダンジョンヒーロー、ここに見参ッ!」


 テレビで聞いたようなセリフ。

 特撮ヒーローみたいなポーズ。


 あまりにも場違いすぎる。


”ヒーローキター”

”ダンジョンヒーローw”

”なに、コイツwww”

”でも、強そうだぞ”

”リリちゃん、危なかった”

”誰でもいいから、オーガやっつけてくれー”

”ここで倒せば、マジモンの英雄”

”つーか、同接ヤバくね”

”12万超えてる!”

”頑張れー”

”頑張れー”

”信じてるぞ”

”リリちゃんを助けてくれー”


 でも、ふざけてるんじゃない。

 彼は真剣だ。

 本物のヒーローみたいに。


 私は彼の姿から目を離せなかった。


「ええい、成敗ッ!」


 彼はオーガに駆け寄り――。


「ヒーローパアアアアンチィィィ!!!」


 ――ズドォオォオン。


 彼の拳がオーガの土手っ腹を貫き、オーガが倒れる。

 たった一撃で、変異種オーガを倒しちゃった。


”うおおおおおお”

”おおおお”

”ぽおおおおお”

”わあああああ”


 配信端末をチラリと見ると、もの凄い勢いでコメントがつけられていく――。

 お祭りになるようなイベントがあったときには、滝のようにコメントが流れる。

 今回はそれ以上だ。私の配信で一番のコメント量。バズ間違いなしだ。


”かっけえええ”

”強ええ”

”強すぎだろ”

”変異種オーガをワンパンとか”

”意味不明の強さじゃん”

”どっかのSランク冒険者だろ”

”覆面キャラか”

”リリちゃんを助けてくれてありがとー”

”最初は変人かと思ってたけど、マジで感謝”

”リリちゃんの命の恩人”

”感謝感謝”

”多謝”

”サンキュー”

”テンキュー”


「ふぅ」


 彼はひとつ息を吐く。

 それに合わせて、私の緊張も和らいだ。


「あっ、ありがとうございます!」


 座ったままの体勢で、私はお礼の言葉を述べる。

 声が上ずってしまった。

 心臓の音が聞こえそうなほどドキドキしている。

 死の淵から生還した喜びか。

 それとも――。


「怪我はないか?」

「足をくじいちゃいましたけど、回復薬があるので」

「そうか」


 若いような、貫禄のあるような。

 不思議な声だった。

 柔らかく、穏やかな口調。

 心が温かくなる。


 私は回復薬で怪我を癒やして立ち上がる。


「あなたに助けてもらわなかったら、私、死んでました」


 頭を下げると、目から涙がこぼれた。


「このお礼は必ず返しますので」

「不要だ。困っている人がいれば助ける、それがダンジョンヒーロー。見返りはいらない」

「せめて、お名前だけでも」

「俺はダンジョンヒーロー。他の名は持たぬ」

「ダンジョンヒーロー様……また、お会いできますか?」


 彼――ダンジョンヒーロー様は首を横に振る。

 心がギュッとわしづかみにされ、切なさがひと筋こぼれる。

 目元を拭う私に、ダンジョンヒーロー様は心配そうな声をかけてくれる。


「後は一人で大丈夫か?」

「はっ、はい」

「では、失礼」


 現れたときも突然だったが、去るときも突然だった。


 恩に着せることもなく。

 自慢げに振る舞うこともなく。

 必要以上にベタベタすることもなく。


「かっこいい……」


 きびすを返して、彼は立ち去る。

 その背中は名乗った通り、ヒーローの背中だった。

 私はいつまでも、見えなくなっても、しばらくの間、彼の後ろ姿を見つめていた。


「はっ!」


 しばらくたって我に返る。

 見蕩れてぼうっとしてしまったが、今は配信中だった。


「ごめんね。みんな」


”無事で良かった”

”ふぅ。ひと安心”

”リリちゃんが生きてて良かった”

”今回はヤバいかと思った”

”生還おめでとう!”

”りりたーん!!”

”お姉様ー”


 私の無事を喜んでくれるコメントが流れる。


「ちょっと、今日はもう配信できる状態じゃないから、ここで終わりにします。また、見てくださいね」


”おつおつ~”

”乙”

”またねー”

”バイバーイ”

”ノシノシ”


 配信端末を操作し、配信を終了する。

 配信終了後はふわふわとした高揚感がある。

 だけど、今日はいつもと違う感覚だ。


 普段なら配信終わりに、「高評価、チャンネル登録お願いします」と言うのだが、それすらも忘れていた。

 なぜなら、私の頭の中には、視聴者のみんなではなく、彼だけしかいなかったから。


「ダンジョンヒーロー様…………」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『掲示板回(1):咲花リリス総合スレ』


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m



   ◇◆◇◆◇◆◇


【宣伝】完結しました!


『前世は冷酷皇帝、今世は貴族令嬢』


TS、幼女、無双!


https://kakuyomu.jp/works/16817330650996703755


   ◇◆◇◆◇◆◇


【新連載】


『主人公? 悪役? かませ犬? 俺が転生したのは主人公の友人キャラだっ!』


鬼畜ゲーに転生し、ゲーム知識とプレイヤースキルで無双ハーレム!


https://kakuyomu.jp/works/16817330655366308258


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る