私、不器用なんです。

薬研軟骨

不器用な少女

「私、不器用なんです。」


そう語り始めた少女の顔には不安気な表情。

相対している養護教諭は、生徒の間で非常に人気だ。怪我の手当や体調不良の看病だけでなく、こうして生徒個人の相談に親身に乗ることから、赴任からすぐに人気者となった。


「なるほど...具体的には?」

「中学2年生辺りから、なんだか周りとは少し違うような気がして。テレビとか本とかで不器用な人の存在は知っていたけど、まさか自分には当てはまらないだろうと思ってたから...。そこから今の高校に入学して、中間テストを受けて確信したんです。.....だって、

____だって、少しも勉強してなかったのに、学年1位になっちゃったんですよ!?」


そう叫ぶと少女は泣き崩れた。養護教諭は唇を噛み締めると、そっと彼女の背中を撫でた。


「大丈夫よ。落ち着いて。周りのお友達には勉強せずに1位になれたことは言った?」


「いいえ、言ってない...言えないですよ。でも、多分勘づかれてるんです。勉強だけじゃなくて、体育の体力テストも学年女子1位だし、美術の授業でも先生から部活に勧誘されたり...。もちろん、運動の習い事や絵画教室なんて通ったことはありません。その上、顔も黄金比率そのままですから...。時間の問題かもしれないです。」


「そっか...それは大変だったね。これから、空いてる時間に出来るだけここに来れるかな。生徒のみんなには内緒でね。私と担任の先生とあなたで、これからどうするかを話し合っていきましょう。」


「先生.....!、ありがとうございます、私、本当に不安で.....将来のこととか、友達のこととか.....本当にありがとうございます、頑張ります!これからよろしくお願いします!」


そう言って彼女は保健室を出た。

養護教諭は小さくため息をついて、PCから検索エンジンを開いた。


「不器用 大人になったら」


検索結果には、「不器用は幼いうちから直すべき!」「不器用な人は、どこに行っても採用されない!?」「【悲報】不器用な俺、ニートになる」などとネガティブな言葉がびっしりと敷き詰めてあった。




____そう、価値観が今までの歴史とまるっきり変わった現代では、生まれつき飛び抜けた才能を持っている人間は疎まれてしまうのだ。人は皆平等に生まれ、努力をし自力で伸ばした才能が評価されるべきと考えられている。先ほどの彼女のような、生まれつき何でもできる人間は血汗涙を垂らす努力を知らない。彼女は人間離れしている___人間として生活することに「不器用」なのだ。


「手始めに、授業時間内は全部睡眠か間食の許可を出してもらわなきゃな。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私、不器用なんです。 薬研軟骨 @y4g6n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ