跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。
kouei
第1話 愛妾を迎えた夫
足元は断崖絶壁。岩肌に打ち付けられる波音が轟く。
「この夕日を見に、よく二人でここに来たわよね。モートン」
私は切岸にひとり立ち、目の前に広がる海と沈みゆく夕日を眺めていた。
来る度に、このオレンジ色に染まった海の美しさに見惚れていた。
「…でも今日は、真っ赤な血の海のようね…」
私は
「あなたがプレゼントしてくれたこの靴、気に入っていたわ。あなたの瞳と同じ紫色の石が散りばめられていて、とてもきれいなんだもの。けど…もう…いらないわ…」
靴を見ながら一筋の涙が零れ落ちた。
「さようなら…モートン…」
別れの言葉の後に残されたのは、紫色の石が輝く靴と波の音だけだった…
◇◇◇◇
―― 数時間前 ――
「タラをモートンの愛妾にする。結婚して1年過ぎても妊娠の兆候が見られないのだから仕方あるまい」
そう言い放ったのはグリフォンド伯爵家現当主であるお義父様。
その隣で頷いているのはお義母様。
勝ち誇ったように笑みを浮かべる侍女のタラ。
義父の言葉をただ、黙って聞いている夫のモートン・グリフォンド。
そして、その様子を他人事のように眺めて聞いているのがモートンの妻である私、リサーリア・グリフォンド。
「リサーリア、あなたも納得してくれるわよね?」
反論するなと言わんばかりの圧を感じるお義母様の言葉。
「…はい」
もしここで“納得できない”と言えば、お義母様はタラを愛妾にするのは止やめるのだろうか。そんなはずないわよね。思わず両手を握り締めていた。
嫁いでから繰り返し『跡継ぎ、跡継ぎ』とそればかり言っていた
モートンは先程から一言も話さないし、私の方を見もしない。
それもそのはず。タラが愛妾になる事は彼も了承している。
その事は私も知っていた。
だって昨夜、私は義父と義母とモートンの会話を聞いてしまったのだから。
夜中に目が覚めると隣に寝ているはずのモートンがいなかった。
ご不浄かと思ったが、待てど暮らせど戻ってこない。
心配になり屋敷の中を探していたら、義両親の部屋から明かりと会話が漏れて
いた。
そこにはモートンもおり、義父にこう言われいてた。
「では、分かったな。タラをお前の愛妾にする」
「…承知致しました」
承知致しました承知致しました承知致しました承知致しました承知…
その言葉だけが頭の中をぐるぐる回っていた。ショック…? いえ、そんな軽い言葉では言い表せられない衝撃だった。
だってあなたは言ってくれたじゃない。
「この結婚は確かに家同士の利益のための婚姻でもあるが、君とは良い夫婦関係を築いていけると思っている。そして僕は夫として君を決して裏切りはしないと誓うよ」
モートン、そう言ってくれていたのに。その時私はあなたに恋をしたのに…っ
それなのに、こんな形で裏切られるなんて…!
当然、貴族同士の結婚に跡継ぎが必要な事は私も分かっている。
そのための愛妾を持つ場合がある事も分かっている。分かっていたけど…でも! こんな簡単に受け入れるなんて…っ
しかも、私には全く全然ひとっっっっっ言もなく…!
私の存在価値って何? 跡継ぎを産めなきゃ用なしなの!?
けど…事前に分かっていて良かった。今初めて聞いていたら、ショックで泣き崩れていただろう。
そんなところ、死んでもタラには見せたくなかった。
さっきからニヤニヤしながら私を見ているタラ・スキーニー男爵令嬢。
スキーキー家は代々グリフォンド家の侍女として仕えていた。
◇◇◇◇
私が嫁いでくる数か月前、今まで働いていたタラの母親の体調が悪くなり、代わりにタラが侍女となったらしい。
タラは私がここに嫁いだ時から、私に対して陰湿な嫌がらせを繰り返していた女。
朝、顔を洗うために用意される水やお風呂の水が氷のように冷たいのは当たり前。髪を整える時は、髪が半分なくなるのでは…と思うくらい乱暴に
自分の立場を考えて、やんわりと注意はして見たけれど、私の言葉を聞く耳はない様子。
一応グリフォンド家の嫁と侍女の立場を明確にする方が良いと思い、義母に相談した。
するとタラを呼び、事の真相を問い
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