5.森のボスと戦うお話


 あれから五日たった。

 まだ俺たちは森の中でサバイバルをしている。


「ルートは開拓できているんだ。着実に人里に近づいているはず。本当に異世界に来てなにやってるんだろうなぁ」


 俺はメモを取りながら今日もマッピングである。


「あまり遠くへはいけないよな。夜はどうなるかわからないし」

「ぎー!」

「ん、ありがと。これおいしいよな」


 俺はメモを置いて、ブリンの持ってきたすっぱい木の実を食べる。

 そうしながら、体の宝石に触れステータスを確認した。



ユイ ♂ 18歳

 魔法使いLv4 操獣士Lv2

*能力

 意思疎通

 隷属契約 

 隷属能力強化

 隷属成長強化

 鞭術

 魔法(火/風/水/土)

*スキル

 スマッシュ(皮の鞭)

 アツア(火種のナイフ)

*隷属者

 マーチャン

 ブリン


マーチャン ♂ 0歳 ユイに隷属

 Lv2

*能力

 危険探知

 索敵

 飛行


ブリン ♂ 2歳 ユイに隷属

 Lv29 



 俺の視界に文字が浮かび上がる。


「スキルはレベルアップでは覚えられないのかこれ。あとレベルは職業によって上がりやすさが違うのも何か理由があるのか気になるな。マーチャンは戦闘に参加してなくても上がるからモンスターを倒したら分配されるのか?」


 わからないことだらけだ。

 ブリンは俺に相手してほしいのかやたら引っ付いてくる。


「でもブリンがなんだかんだで一番成長しているというか、下手したらこの森で一番強いまであるんじゃないか」


 俺はブリンのほっぺをぐりぐりしつつ、辺りを見渡す。


「ゴブリンが出なくなって二日目だな。マーチャンもその辺わからないか?」

「まぁ~」


 マーチャンはまだ眠そうだ。頭の上にいるだけで相手してくれない。

 俺たちがこの五日間主に狩っていたモンスターはゴブリンだ。

 というのも、襲ってくる頻度が高かった。


「少なくとも五十体は倒したよな、いやもっとか。でも三日目の十三体襲撃を最後にぱったりと止んだ」

「ぎー?」

「モンスターはどっかからポップするタイプかと思ったけど、実は生態系があって俺たちが全滅させちゃったとかないよな」


 もちろんほかにもモンスターはいくつかいた。

 大型の芋虫モンスターのグリワーム。

 とてつもなくうるさい鳴き声の芋みたいな植物マンドラゴラ。


 とはいえ、ゴブリンがこの中では一番殺意が高く危険だった。

 武器を使ってきたがどいつも振り回すだけ。


「ゴブリンだけはレベルが10あるやつがいたりして俺だけだと勝てそうにないのもいたのが恐ろしいよ」

「ぎー?」

「やっぱ目標は安全な人里に到着だな。あーでもブリンはどうすりゃいいんだろ。村の近くにいるって逆に危険だよな。討伐されたら困るし」


 これから長い付き合いになると考えたらその辺どうにかしなきゃいけない。

 悩みは尽きない。


「ブリンに人間の格好させるとか? それともモンスターを仲間にするのはこの世界じゃポピュラーかもしれないし……人間がペットにしてたりとか」

「ぎーぎー?」

「ん、あぁ! それ俺のメモ帳! なーに書いとるんじゃ。この棒みたいなの俺を描いたのか?」

「ぎゃっぎゃっ!」

「まっまっ!」


 考え事している間に、ブリンが俺の真似をしてメモ帳に書いたみたいだ。

 棒人間二体と丸が書いてあるので、たぶん俺たち一人と二匹だろう。

 ゴブリンって絵も描けるし子供くらいの知能はあるんだよな。


「まあいいけどさ、書きたいなら何枚かちぎってほらやるよ」

「ぎゃっぎゃ」

「マーチャンはいるか?」

「まぁ~」

「いらないか」


 ペンは予備があるのでブリンにあげる。嬉しそうで何よりだ。

 ブリンがふんどしの中に入れたのはちょっとばっちいな。


「ブリンは俺がやってたこと気になるのか」

「ぎー!」

「えっとな、人里……人のいる場所。俺みたいな見た目の生き物を探してるんだ」


 俺はちょっとした思い付きでブリンの知恵を借りてみる。

 もし人間という存在を認識しているなら――


「ぎ」

「え、知ってる? 知ってる!」

「ぎー!」


 ブリンが知っているからついてこいと、勇ましく歩き出した。

 俺は口をすぼめて、自分自身にあきれる。


「いやもっと早くブリンに聞いてみろってことだよ。まあサバイバルで毎日を必死に生きていたけどさ」

「まー」

「マーチャンは何か知ってる?」

「まぁ~」

「知らないか~」


 もしかしたらブリンは人に遭遇したことがあるのかもしれない。

 俺はもう慣れてきた森の中を進んでいく。


「ぎ―?」

「あー絵をかきながら歩くと転ぶぞ。俺は通った記憶ないなーここ」


 ブリンはその場所がよくわかっているのか、どんどんと先に進んでしまう。

 しばらく進んでいくと、ついたのは街……ではなかった。


「洞窟?」

「ぎー」

「もしかしてこの世界の人類ってあんまり文明進んでない? あいやもしかしたらドワーフみたいな種族がいてみたいな……」


 洞窟は谷の隙間に車も通れそうなくらい大きな入口が空いている。

 俺が考え事していると、ブリンが手を引いて洞窟の中を指さす。


「ぎー」

「あぁ、こん中なんだな。疑ってるわけじゃないから」

「まー! まー!」


 俺の足がぴたりと止まる。

 マーチャンのその叫び声の意味は、警告だと覚えていた。


「ブリン」


 俺はブリンの手をつかんで、一度離れようと提案したが、遅かった。

 地響きを鳴らしながら、何かがこちらに向かってきている。

 人じゃない。


「ぎー……」

「で、でかい……!」


 洞窟にいる何かを太陽の光がゆっくりと照らす。

 そいつは天井に頭が当たりそうなほど巨大なゴブリンだった。

 俺は息をのんで、そのモンスターを見上げる。


「ぎー!」

「ギガァアアアアァアアッ!」


 ブリンと敵ゴブリンの、二頭ゴブリンが叫びをあげて戦闘が始まった。

 巨大ゴブリンの持っていた丸太みたいな根方が振りかぶられる。

 ブリンはその雪崩みたいな攻撃を剣で受け止めた。


「う、うぉおっ! 負けてない、ブリン!」

「ぎー!」


 俺は横に飛んで、ブリンに攻撃を引き付けるよう頼む。

 巨大ゴブリンはそのでかさからか動きが鈍い。

 ブリンは力負けもしていないどころか、押し返してきている。

 やはりあれだけ上がったレベルは伊達じゃない。


「スマッシュ!」


 俺は鞭のスキルを放って、巨大ゴブリンの横腹を薙ぐ。


「っ、固いっ! 緩慢なんじゃなくて、避ける必要がないんだこいつ!」

「ギガァアアァ!」


 ブリンが巨大ゴブリンを弾き飛す。

 剣を打ち込むが皮膚にさえぎられる。

 巨大ゴブリンは痛みを訴え、形勢が不利と悟ったのか洞窟内へ後退する。


「あいつ洞窟に逃げやがった。どうするか……マーチャン! 中に手下のゴブリンがいる気配は」

「まぁ~」

「いない、単独なのかあいつ……いや、もしかして今まで戦ったゴブリンがここから来たと考えると襲撃がなくなったのは……」


 マーチャンの索敵を信じるなら中にいるモンスターは巨大ゴブリンだけだ。

 ブリンがぴりぴりとした警戒心をそのまま洞窟内に向けている。

 俺もそうだ。あいつは逃げたんじゃなくて反撃の準備を整えている。

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