問、嘘と本当の境目は?~真実が見えますか?~
幽美 有明
嘘つき
どれだけ塗り重ねられた嘘でも、実体はない。まだ、偽物の方が価値があると言えるだろう。物である以上、実態があり触れることが出来るのだから。
嘘は嘘でしかなく、経験にもならなければ意味もない。無色透明の虚言だ。どれだけ嘘を重ねても、根底にある自分自身に変化は訪れない。
わかっている、わかっていても嘘で着飾るしかない。
一般的と言われる高等学校の一般的な教室に集まる、美男子、美少女。アイドルグループの養成所かと見間違う程に、綺麗所が集まるこの教室で。僕も例外無く美男子と呼ばれる容姿をしていて。声はカッコイイよりも優しいと言われるような声をしている。みんなどこか似たような容姿の中で、眼鏡をかけているのが僕と他の人との違いだろうか。
非日常に思えるこの光景は、ありふれた日常として時間が流れていく。親しげに話す美男子、美少女の輪の中に入っていくことが出来ない。そこに僕の居場所はない気がして。場違いな気がして。僕の席から一歩たりとも動く事が出来ないでいる。
同じ場所にいて、同じような容姿であるのに。ここに居ずらいと感じるのだ。
空はあんなにも青いのに、吹く風は頬を撫でるのに。全てが虚構で嘘のように感じる。空に手を伸ばしても届かない。風に触れようとしても、触れられない。まるで嘘のように。
「ねぇ、貴方は他の人と話さないの?」
美少女が僕に話しかけてきた。声はそう低く通る声。少し声を変えれば男性だと言われても通用するような。そんな声。だからなのか、その容姿は美少女だと分かるのに。服が違えば美男子でも通用する見た目だ。男なのか、女なのか。見た目から判断するのは少し難しい。それでも、美少女なのだとわかった。前髪を垂らして左眼を隠しているのはファッションなんだろうか。周りを見れば珍しくもない。前髪で完全に目が隠れている生徒だって普通にいるのだから。
「他の人と話す勇気なんてないよ。ここは居心地が悪い」
「正直なのね、貴方」
僕が正直? 嘘で塗り固められた僕が正直なら、周りにいる美男子、美少女は聖人君子だろうか。
何もかもが嘘だらけなのに、真実なんてどこにもないのに。
「君は何で、他の人と話さないの?」
「私は嘘つきが嫌いなの。だから誰とも話すつもりはなかったけど。貴方はなんだか正直な気がしたから」
「自分は嘘つきだよ。君が嫌いな嘘つきだ」
真実なんてどこにある。嘘にまみれた服を着ている僕は、裸の王様と何ら変わらない。嘘で塗り固められた服は、無いのと同意義なのだから。
「貴方のどこが嘘なのか、私に教えて欲しいわ」
「全部だよ、見た目も声も。何もかも、嘘だらけだ」
「やっぱり貴方は嘘を言っていない。貴方は真実を言う人。私の好きな人だわ」
「君は、おかしい」
「おかしくない人間なんて、きっと探しても見つからない。みんな、どこかおかしいのよ。だからよろしくね、貴方」
「君は、僕とはよろしくしない方がいい」
自分は嘘つきだと言う僕の、どこが正直なのか。本当の僕なんてどこにも居ないだろうに。この美少女には何が見えているのだろうか?現実を都合よく見る目と相手の言葉を都合のいい言葉に変える耳と、話を合わせる口が標準装備されているのだろうか。
「誰とよろしくするか決めるのは私よ。貴方に決められる筋合いは無い」
「それは確かにそうだ」
「だから私は勝手に貴方とよろしくするの。私から逃げてもいいし、拒絶してもいい。だってそれは貴方の正直な気持ちだから」
確かにそうかもしれない。どれだけ嘘で塗り固めても、中身は変わらないのだから。嫌なことを嫌だと言うのは人間に残された唯一の真実かもしれない。もちろん心にも嘘をつくことは出来る。でも僕はそんな器用なことが出来ない。
「君となら話してもいいかもしれない。少しだけ楽しい気がする」
もしくは僕が気がついていないだけで、この楽しいと思っている心すらも偽りだとしたら。僕は、それを知っている。僕は、僕がそれでないと自信を持って言えない。楽しいのだと断言できないことが、心すらも偽りなのだという考えに拍車をかける。
「貴方は、偽りに囚われすぎよ。偽りだと思っている内は、本物になれないのだから」
「本物なんて存在するの?」
「誰もがみんな、本物を持っている。気が付かないだけで、誰もが本物なのよ同時に偽物かもしれないけど」
「やっぱり、偽物なんじゃないか」
「少なからず、貴方は本物よ。私が断言してあげる」
「君の言葉は信じられないよ」
「信じられなければ全てが偽りになるだけよ」
言葉だけじゃなく、自分すらも他人すらも信じられない。だけれど、信じられないものは偽りになると言われれば、そうかもしれないと思う。観測されないものが【存在してない】と同じであるように。信じなければ、本物ですら偽りに落ちてしまう。
「まずは、君の言葉を信じてみることにするよ」
「それは良かった。それじゃあ、これから友達としてよろしくね」
「それはもう少し考えたいかな」
「なんで!?」
信じ始めたばかりで、友達はハードルが高すぎる。もう少し僕らには時間が必要だ。例えばここから見える落葉樹の葉が全て落ちる程の時間が。
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