THE FILM

風座琴文(旧岩沢一)

000:校則特記事項

 私立桜来おうらい学園に合格した私は、春休み中に必ず目を通せと言われた校則の中の最後に書かれている部分が疑問で仕方なかった。


 以下、その文言だ。


桜来学園校則 特記事項

1.課外学習に『不思議記録』を設ける。

2.生徒は学園の敷地内で起きた不思議を記録し、担任へ提出する事を義務とする。

3.提出は月に三回を目途に、何度でも行なう事ができるものとする。

4.記録と提出は複数人の連名で行なう事も可能とする。

5.提出を怠ってはならない。


 不思議記録って? 敷地内で何か起きるの? それを担任の先生に提出? っていうか月三回もそんなものあるの? 連名でっていうのもよく分からない。


 何より理不尽なのは、他の校則は大体『破ったら学校がどういう措置を取るか』が書いてあるのに、この部分にはただ『提出を怠ってはならない』とあるだけな事だ。


 そもそも文芸部が充実してるって理由で選んだくらいだし、これは程々にしよう。


 そう思っていたのは、入学式までの間だけだった。


 入学式の間、奇妙な音楽が鳴っていた。


 バイオリンとかピアノとか、こういう全寮制の私立を思わせる物ではなく、竹笛みたいな物と和製の太鼓っぽい音だ。祭囃子に近いけれど、もっと間の抜けた感じ。


 私は最初、誰が鳴らしてるんだろうとか、どこにも楽器を持った人が見えないなとか考えていた。


 でも、その謎は学園長先生が晴らしてくれた。


「皆さん、この度は御入学おめでとうございます」


 老齢の学園長は、朗らかな笑みを浮かべていた。


「春休みの間に校則を読んでいると思いますが、丁度いいですね」


 生徒の間に『え……?』みたいな空気ができた。


「皆さんにも聞こえている笛と太鼓の音は学園が用意した物ではありません。学園に住んでいる『何か』が鳴らしている物です」


 咄嗟に何を言われているのか分からなかった。学園に住んでいる『何か』? なんでそこが具体的にならない?


「このくらいで済むなら今年は無事に入学式を終えられるでしょう」


 明確に、新入生の間にどよめきが起きた。


『今年は無事に』って、去年は無事じゃなかったの?


 学園の情報にはそんなの全然掲載されてなかったけれど……これが日常になるの?


 疑問に思っても、入学式の最中だ。私を含めて、誰も手を上げない。


「皆さん、早速ですから、この笛太鼓の事を記録してみてください。それが校則特記事項にある『不思議記録』です」


 意味が分からなかった。


 けれど、それから少し経った今なら分かる。


 化物が歓迎してくれるなんてまだまだ可愛いもんだと。


 これから、私の記録をあれこれ載せていく。中には全然怖くないものもあるかも知れない。でも、私にはもう判別も難しくなっている。


 ただ、この奇妙な学園で起きた事を少しでも多くの人に知って貰いたいから置いておく、それだけだ。


 提出を怠ったらどうなるのかについて、今の私は知らないとつけくわえておく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る