手のひらとコイン
紺狐
第1話
家は砲弾で吹き飛び、道路は戦車によって砕かれた街には、ガレキが山のように積もる。
こんな光景は、国中どこでも見られるものだった。しかし、それは人生を諦める理由にはならなかった。
人々は疲れきった顔をしていた。
それでも、まだ希望はある。
もう既にあの忌まわしき戦争は終わったのだから。
さて、ガレキをどかして生まれた広場には、多くの子供たちが集まっていた。子供たちの目はどこか虚ろ。
それでも集まっていたのは、まん中にいる若い男の姿が面白かったからだ。
シルクハットにタキシード。マジシャンの定番であるこの格好を見たことがある子供は、戦争を通してめっきり減ってしまった。
この格好は当たり前ではなくなったのだ。
「ここにあるのは銀のコイン。まんまるキラキラおたからです」
表、裏、表、裏、素早く相手に見せるように。子供の目に精気が宿りだす。彼も子供も服はススまみれ。
しかし彼には自信があった。
「今からみんなに魔法を見せるね」
コインを右手に包み込む。
左手は空気を包み込む。
次に手を開くと、コインは左手に移っていた。
「わぁ~!」
「すごーい!」
子供たちは歓声をあげて大きくはしゃいだ。
何年間も聞いていない子供たちの明るい声を聞き付けてナンダナンダと集まってくる大人たち。
「あぁ大人のみなさんもぜひご覧になってください。こんなご時世だからこそ楽しんでってください」
◆◆◆◆◆
マジックは大盛況、シルクハットに溜まる沢山のコイン。
彼が帽子にたまったコインを袋に移しているときに話しかけてくる子供がいた。
「コインのやつ、わたし見えたよ」
少女は薄手の服を着ているだけだったが、特に寒そうな気配はない。
「手に包んでるときに、手のひら使ってうまく弾いたんでしょる」
「そうだよ、よく分かったね」
「目は良いつもり」
女の子はいつの間にか、彼の隣に陣取った。
「私を弟子にして。私ならあなたと同じように人を騙せる」
そうして彼の懐にすりよった。
彼の手は一瞬止まったが、少女を無視して片付けの手を再開させる。もちろん荷物なんて、片手で収まる量しかないからすぐに終わる。
「お父さんお母さんとかは?」
女の子はあきれたようにため息をつく。
「それ聞く?」
「そうだね、悪かった」
しばらく気まずい沈黙が流れる。
「ひとまず、僕を騙してみてよ」
なんだそんなこと。と言わんばかりに右手にとったコインを見せた。
それは先ほど、広場で使った銀のコインだった。
「わかったでしょ? 私も魔法くらいかけられる」
「それはスリに近いけどな……」
彼は呆れた言葉を残しつつも、その才能には気づかされたのだ。
そうして彼は一言。
「いいよ、一緒に魔法をかけよう」
手のひらとコイン 紺狐 @kobinata_kon
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