同じ屋根の下で

紺狐

第1話

◆女の考え

 

 彼と結婚したいの。一年間同棲して、私にはやっぱり彼しかいないって気づいたの。

 ちょっとその理由を考えてみましょう。

 だってね、彼は私のことをいっつも一番に考えてくれるの。それにいつだって私のことに気をつかってくれるの。「大丈夫?」、「ちょっと無理してるんじゃない?」って、すぐに私の変化に気づいてくれるの。最高じゃない?

 そうするとね、仕事で疲れた私に手料理を振る舞ってくれるし、掃除とか洗濯までやってくれる。まさに、理想の夫ね!

 ……って、夫とか、はしゃいでて恥ずかしい……。

 いや、それも私からプロポーズすればいいのよ。

 あんまり女性からプロポーズするって話は聞いたことないけど、それでも女性がプロポーズをしちゃいけないなんてルールはないし。

 なんて言えばいいのかな。どこで言えばいいのかな。

 そうだ、スマホで調べてみよう。リビングに置いたスマホ、スマホ……。

 キッチンからおいしそうな匂いが届いてくる。


「今日はお肉がいいなー」

「そうだよ、チャーシューあるよ」


 やっぱり彼は気が利く素晴らしい夫ね。















◆男の考え


 俺は彼女と別れたい。同棲までしたけど、やっぱりもう限界なんだ。

 いや、嫌いなわけじゃないぜ。もちろん、いや、口にするのは恥ずかしいけど、その……、愛してるんだ。……それでも、このままだと結婚することになっちっまう。それだけは嫌なんだ。

 付き合ってるときはそんなに気にしてなかったけど、一緒に暮らしてると気分屋な性格にどうしても振り回されることになる。

 気分の浮き沈みは激しいし、掃除も洗濯も料理も含めて家事全部、「私忙しいんだよね」の一言で押し付けてきてさぁ……。気分が沈んでるときは、その傍らで慰め続けないといけないし。

 料理するのはまぁいいけどさ。なんだかんだ言いつつ、料理するのは好きなんだ。

 そんなことを考えていたら、ピピピとキッチンタイマーが鳴った。チャーシューの煮込みが終わったんだ。

「今日はお肉がいいなー」

 なんて暢気な声が奥から聞こえてくる。

「そうだよ、チャーシューあるよ」

 できる限り機嫌よく聞こえるように心掛けたつもりだった。

 母さんも大変だっただろうな。毎日ずっと家事してるの。でも俺は、二人で協力してくれる人が良いんだよ。

 どうやって別れようか。なんて考えているうちに、ますますチャーシューは煮詰まっていった。

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同じ屋根の下で 紺狐 @kobinata_kon

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