四月一日の恋人
@jk_novel05
四月一日の恋人
「好きです。付き合って下さい。」
ありきたりすぎて聞き逃してしまいそうになる。
「え、私に言ってるんですか。」
「そうです。他に誰がいるんですか。」
帰宅ラッシュの横浜駅の改札口は多くの人でごった返しているが、私の他に彼の言葉に足を止めた者はいなかった。
今日はエイプリルフールで、誰がこの日にされた告白を受け入れるというのだろうか。
365日×24時間あるタイミングの中で、今を選択するというセンスもロマンスもあったもんじゃない男と誰が付き合うというのだろうか。
生憎、この女の思考力は男の素晴らしく整った容姿に絡め取られてしまっていた。
「...私で良ければ。」
はにかむ男女。
そして二人は夜に堕ちて行った__ように思えたのは女だけだった。
朝、女がベッドの上で目を覚ますと、男は部屋を出る寸前だった。
「どこ行くの。」
男は少し驚いた様に目を見開くと、ドアノブに掛けた手を離し、こちらを向いた。
「あ、起こしちゃった?女の子の悲しむ顔は苦手なんだよねぇ。言いたくなかったけど、」
別れよっか。
わかれよっか、ワカレヨッカ、wakareyokka...
その言葉が何かの暗号のように、まだ夢から醒め切れていない女の頭を巡った。
「...私、何かした?昨日付き合ったばかりじゃん。」
必死になる女に、男は乾いた笑いを薄い唇から漏らす。
「そんなに俺、かっこよかった?ごめんね、毎年やってんの、この遊び。」
「え?」
「エイプリルフールでも女と付き合えたら、一流のナンパ師だって。」
師匠が俺に言ったんだ。
栗色の髪の間から、こちらを見据える真剣で狂気的な眼差しが、女を貫いた。
四月一日の恋人 @jk_novel05
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます