第13話 フェラーリでもランボルギーニでもジェット戦闘機でも

 結局のりタン先生は、屋敷に住むことが決定してしまった。




 ゆめが追い出そうと頑張っていたが、先生の粘り勝ちだ。

 最後は大理石の柱にしがみついて、動かなくなった。

 まるでセミだな。


 怪力な夢花から、よくひっぺがされずに済んだもんだ。

 のりタン先生も小柄な体に似合わず、なかなかのパワーだな。


 まあ屋敷の住民が1人や2人増えたところで、全く問題はない。

 部屋はあり余っているからな。




「まあ、賑やかになっていいんじゃないのか?」


「あら? ご主人様って、ぼっちが好きなのかと思ってた。アパートに、友達とか呼んでる気配なかったし」


「夢花は俺を、何だと思っているんだ? みんなでワイワイ騒ぐのは、嫌いじゃない。……俺にも昔は、仲間がいたんだ」


 もうだいぶ長いこと会っていない。

 みんな今頃、どうしているかな?


「ふーん。ご主人様って、ちゃんと友達作れる人だったんだ。あたし、何だか安心したな」


 夢花がまるで、親戚のオバチャンだ。

 高校生がオッサンを、子供扱いするなよ。




「アレクセイ。屋敷の案内を頼めるか?」


「お任せください。旦那様」


 銀髪執事は迷いのない足取りで、広大な屋敷を案内してゆく。

 その表情は、どことなく嬉しそうだ。




「うわぁ! すごい! お風呂が温泉施設みたい! これは掃除し甲斐があるわね」


「ふえ~。キッチンも、大きなレストランの厨房みたいです~」


 夢花と先生は、きゃあきゃあと騒ぎながらアレクセイのあとをついて行く。

 俺はというと、管理が大変そうだと悩んでいた。


 人をもっと雇うとは言ったものの、応募者が来るまでは自分達でなんとかするしかないだろう。

 幸い家事力には自信がある。




 俺達は玄関の外へと出た。


 出てすぐ正面には噴水があったが、いまは水が出ていない。

 その周りをぐるりと道路が1周。

 ロータリー形状になっていた。


 庭は恐ろしく広い。


 九州の田舎だから、土地はそんなに高くなかったんだよな。

 だから100億円も出すと、とんでもない広さの屋敷になるわけで。


 映画とかでよくある、お城の庭園そのものだ。

 東屋ガゼボもあるな。


 プールまであった。

 俺は貧乏性なので、水を張るのに水道代がいくらかかるだろうかと考えてしまう。




「うふふふ……、夏はプールで泳げるわね。ねえねえ、ご主人様。あたしの水着姿、見たい? スタイルには、結構自信あるんだけど?」


「プールに水を張るとは、言っていない」


「なによー! ケチねえ!」


 娘を止めて欲しいと、アレクセイに視線で助けを求めた。

 だが銀髪イケオジ執事は知らんぷりで、どんどん先へと歩いて行く。




「旦那様。こちらが車庫ガレージです」


 案内された先には、立派なガレージがあった。

 シャッターは電動だ。

 アレクセイがスイッチを操作すると、軋み音を上げながら上昇していく。

 油をささないとな。


 当然ガレージの中は空だった。

 車が余裕で20台は入りそうだ。

 1台も停まっていないと、やたら広く見える。


 


「懐かしいですな。以前はこのガレージに、5台のロールスロイスが停まっていたのです」


 ロールスロイスって確か、何千万もするよな。

 アレクセイが仕えていた前の主人って、本当にお金持ちだったんだな。




「ご主人様。次に買わなきゃいけないものが、決まったわね」


 夢花の目が、ギラギラと輝いている。

 会社設立の時といい、こいつは俺に浪費させようとするところがあるな。


「このガレージに入れる、車か……」


 確かに車は買わないといけない。


 この屋敷は、郊外にある。

 公共交通機関も近くを通っていないから、移動にはどうしてもバイクや車が必要になる。


 今日はタクシーでここまで来たが、毎回呼ぶのもちょっと面倒だ。




「よし。思い切って、軽自動車を買うぞ」


「はあ? 何言ってるのよご主人様。フェラーリだってランボルギーニだって、思いのままに買えるでしょう?」


「夢花、軽自動車を舐めるなよ。限られたスペースや価格で、恐ろしいほどの高性能を実現しているんだぞ。あれぞ日本の工業技術の結晶だ」


 俺の力説に、夢花も先生も不満顔だ。

 なぜだ? 解せぬ。




「旦那様。確かに日本の軽自動車は、素晴らしい工業製品だと思います。コンパクトで、取り回しもいい」


 アレクセイは咳払いを入れ、諭すように語りかけてきた。


「しかし旦那様は、会社を設立された身。企業の長は高級車に乗り、自社の経営が上手く行っていることを周囲にアピールする必要も出てきます」


 いや、上手く行ってるも何も、まだ全然利益を上げていないけどな。


 アレクセイには、ログインボーナスのことを話していない。

 俺が事業で莫大な収益を上げているとか、思っているのかもしれないな。




「何より旦那様が軽自動車だと、我々使用人も軽自動車にしか乗れません。主人より高級な車に乗るのは、さすがに外聞が悪いので」


 あー、そうか。

 それは考えが及ばなかった。


 アレクセイには、高額な給料を出しているんだ。

 なのに好きな車に乗れなかったら、気の毒だよな。




「わかったよアレクセイ。高級車を買う」


 俺の決断に、3人は満足げにうなずいた。


「そうと決まれば、明日さっそく自動車ディーラーに行きましょう。ご主人様がケチらないよう、あたしが付き添うわ。50億円ぐらいの車を買わせるから」


「そんな値段の車、あってたまるか。ジェット戦闘機でも買わせるつもりか?」


 ……ないよな?

 そんな高級車。


 あったら夢花に買わされそうで、怖いと思った。






■□■□■□■□■□■□■□■□■





 翌日。

 俺と夢花は自動車ディーラーへとやってきていた。


 のりタン先生とアレクセイは、屋敷に残っている。


 先生はホテル住まいの間に増えた荷物や、以前住んでいたアパートで燃え残った荷物を運びこむので忙しいらしい。


 アレクセイは、屋敷の設備点検だ。




 タクシーで降り立った先には、自動車ディーラーの巨大な建物がそびえ立っている。

 ここは複数の海外メーカーを扱う、メガディーラーなんだ。

 しかも高級車ばかり。


 意気揚々と、夢花が入店していく。

 俺はキャスター付きキャリーケースをガラガラと引っ張りながら、自動ドアをくぐった。




 すぐに営業さんがやってくる。

 なかなか美人だが、性格がキツそうな女性だ。


「いら……」


 「いらっしゃいませ」と、言おうとしたんだろうな。


 だが、すぐに口を閉ざしてしまう。

 そして俺達に、興味を失くしたようだ。




「すみません、車を見てもいいですか?」


「構いませんよ。ですが展示車両には絶対に、手を触れないでくださいね。ここに展示してある車は、何千万円もするものばかりなので」






 うっ……。

 この営業さん、見た目通り性格もキツいな。





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