ハコ二ワールド
結城綾
箱庭世界
私達はいつも肌身離さずちっぽけな箱を手にしている。
箱の名称はスマートフォン、パーソナルコンピューターをコンパクトにして持ち運べるようになった携帯機だ。
それは人工ながらも現実と遜色ない膨大な世界を構築している。
ゲーム、本、音楽に写真といった娯楽から、健康管理や天気にニュースまで。
箱の中は自室に等しい。
自分だけの空間、自分だけの結界、秘密基地を思い浮かべた人もいるかもしれない。
保存容量はワンルーム六畳からLDKまで拡張できる。
少々値段が張るのが難だが、部屋に余裕を作り整理整頓すると考えれば妥当だ。
クラウドサーバーの拡張により、亜空間に保管しておくのも可能だ。
加工され圧縮された資料や声に思い出を残留して、必要になれば解凍する。
忘れ去られる現実の世界と違い、半永久的に記録され生き続けるのだ。
これらは自然の造化という空想と現実を織り交ぜた行為となんら変わりない。
ビーカーに土や雑草を入れれば循環する生命の完成。
蟻の生態実験を小学生の頃にしていた人も多いだろうが、あれに似ていると思ってもらうといいだろう。
一方箱に趣味嗜好や個人情報を入力すれば、これまた一人の人間そのものが反映される。
……ではスマートフォンは、もう一人の自分なのではないか?
AIやchatGPTのような学習機能を持つ箱に、命と同等の記憶や記録、経験までもを学習させよう。
するとどうだろう、影でも光でもないコピーされた”貴方”が出現する。
まだ肉体を持たない魂だけの存在。
しかし肉体まで手に入れば……本物と遜色ない「貴方」が出来上がる。
その時民衆はどちらを本物として扱うのだろうか。
少々気になるところだ。
話をTwitter……Xに変えよう。
「あれも立派な箱なのではないか?」と私は思う。
零と一で作られた曖昧で不完全な世界は、人の境界線をもあやふやにしてしまう。
それにより、リアルタイムで友人から五感で認知をしていない人物とまで、いつでもどこでも誰とでも交流するようになった。
主に文字や音声だけで生成される不完全な箱故に、性別も顔も声も隠す秘密主義者も多いだろう。
それは大いに結構であり、情報の価値を最大限に理解している人である。
もちろん、有名人や現実で活動をする人達が情報という命を蔑ろにしている訳ではない。
彼らは彼らなりの自己防衛、細心の注意を払って生活をしている。
ただ、どの箱にも厄介者がいるのは確かだ。
よく「私の知る〇〇と違う!」と詭弁を主張する者が一定数いる。
でもそれは単純に〇〇の別側面が投影されただけだ。
間違ってもその人物を否定するのはやめておいた方がいい。
また主観的な界隈という名の箱が、限りなく無限と誇張しても良い程ある。
それぞれの箱は価値観や生活が異なり、日々その中にいる同志とコミュニケーションをしている。
私の知っている界隈はいつも炎上をしているが、ここである考えがぼんやりと浮かび一つの結論に至る。
一見すると間近では激しい炎が激っているようだが、箱を介さず思考をすると……誰も興味を持っていないことに気がつくのだ。
それは火の粉のように小さく儚い灯火。
ああ、これが主観と客観の違いなのだと思った。
人の視野は基本的に狭い。
あらゆる現象が世界中で発生しているように錯覚を起こす。
しかしそれは大きな間違いでしかない。
いくつもの情報を掛け合わせると、意外と世界は楽観的であると分かる。
別に誰かが不倫しようが失敗をしようが、世界は回るし時計の針は動く。
では何故炎上するのか。
箱と箱がぶつかり合う、要するに己の知らない価値観がぶつかり合うからだ。
それは紛争であり戦争と同一。
しかもどういうことか勝ち負けを望んでいる集団も一定数いる。
互いの食い違いでしかないはずなのに。
理由はもう一つある。
それはここ半世紀にかけて文明が急激な発展を遂げたから。
何をするにも膨大な技術や人手や時間が必須だったあの頃と違い、機械による効率化により今この瞬間にも大量生産されている。
今は過去よりはるかに成長し、これからも成長していくに違いない。
しかしながら、急激に成長しすぎた。
光の速度は一秒もかからない、故の食い違い。
文化には特有の習慣や歴史、タブーがある。
多様性と一言で圧縮される現在でもなお実在する。
無尽蔵にあるそれらを処理し切るなんて機械ですら困難だ。
それでもたった一つの箱が世界を一つにした、言語を一つにした。
かつて人類がそうであったという逸話を疑似空間であれ現実としたのだ。
……まあ炎上するだろう。
言葉の解釈は尋常でない程多いのに、それを処理しきれるはずがない。
巻き込まれた人達も気に病むことはない。
各自が生息する界隈ないし界隈の外で生存する術はそれなりに思いつくが、一人の結論として書いておこう。
それは推敲を重ねること。
どんな風に解釈をされても問題ないようにすること。
しかしながら、これをしても絶対に安全ということではない。
何度も主張するが、言葉の解釈は世界人口分はある。
どれだけ誠意ある釈明をしても、受け手の都合の良い方に解釈されることもある。
なので、その場合は一旦箱の外に出るかスマホの電源ごと切るのをおすすめする。
このように、スマホという箱の中にSNSという箱がある。
マトリョーシカのような仕組みとなっている箱庭世界。
SNSはあくまでその世界内での一つのツール……手段にすぎない。
もう一人の自分をどのように扱い制御するかは貴方次第。
普段何気なく手にしているその箱は、世界そのものであり自分そのもの。
私達の想定より遥かに緻密で素晴らしい──地球みたいな奇跡の産物なんですよ。
ハコ二ワールド 結城綾 @yukiaya5249
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます