第3話:悪魔と協力者



 アモンは過去を知り、未来を見て、求めるものに知識を与える存在らしい。


「シェイプスターがいる部屋の奥は研究室となっています。 そこに人がいるので、ソレの首に下がっているカードを使えば部屋を開けることができます」

(シェイプスター)

『あいよ』


 ひとまずここから出るという問題は簡単に解決した。 アモンの能力が破格すぎる上、彼が悪魔ということもあって空亡は魂を取られたりするのかと戦々恐々としていたが、それは本人によって否定された。


 時間が止まっているのであとはイデアを水槽から助け出して、歩いて逃げればいいだけだ。


「ここから逃げることは容易でしょう。 ですが丁度、協力者になり得る人物がいます。 彼とは縁を結んでおいた方が良いかと思われます」

「それはどうして?」

「ここから逃げ出した後、逃亡生活になるでしょう? それを手助けさせるのです。 それに彼はきっとあなたの目的の役に立つ」


 目的――そう言われて空亡が考え込んでいるうちに、アモンは「何か知りたいことがあればいつでも御呼びください」と言って消えていった。


――ここから逃げたい


――イデアを救いたい


――両親に会いたい


――家に帰って普通に暮らしたい


 アモンの言った目的とはどれを差すのか、それともどれでもなく空亡が未来に抱く目的なのか分からなかった。


 しかしその目的を訊ねても彼は答えてはくれない気がした。


「よし、行こう」


 扉が開いてシェイプスターと合流した空亡はそう言って部屋を出た。


「で、どうすんだよ? あの悪魔の言ってること信じるのか?」


 悪魔、と聞くと信じていいのか空亡は不安にぬったが、今は信じる他ないだろう。


「うん、信じるよ」

「どうなっても知らねーぞ」

「その時は助けてね?」

「……まあ報酬次第だな」


 シェイプスターと話ながらたどり着いたのは、協力者のいるらしい部屋だ。


 そこをカードキーで開くと、中にはおびただしいメモが壁に張られ、この中でモニターに映る白髪の少女を見つめる白衣姿の痩せぎすの男がいた。


「この人が協力者かな……?」

「いよいよ怪しいな。 どう見てもそっち側にしか見えねーけど」


 空亡が意を決して男に触れると、彼の止まっていた時間が動き出す。


「ん? 君は……?」


 男が何か言う前に空亡はアモンに教えられていたセリフを吐いた。


「時は来た。 第一発見者よ、奪われたカギを取り戻し脱出するための手助けを」

「……まさかこんな形で機が巡ってくるとは思わなかったなぁ。 君が何者なのかは気になるとこだけど、一つだけ――


――君にとって彼女は何?」


 男の問いに空亡は間髪入れずに答えた。


「妹、友人」

「ははっ、青臭いね! まあでもいいんじゃない? 若いんだし」


 彼はそう言ってパソコンで何か怪しげな操作をして、まるでいつでも逃げ出せるように準備していたかのように素早く身支度を整えた。


「じゃあ行こうか」


 白衣を無造作に脱ぎ捨てた男を連れて空亡はイデアの元へ向かった。





「あなたは何者なんですか」

「うーん、難しい質問だね。 まあ分かりやすく言えば僕は未知の第一発見者であり、ファンタジーの研究者だ。 あ、ここの連中みたいに欲にまみれた非人道的ではないよ? 異世界を真面目に夢見るダメな大人って感じ……だからそんな睨まないで欲しいな」


 男はお喋りなようで、止めないとペラペラと話続ける。 悪人には見えないが、変わり者だなと空亡は密かにため息を吐きながら思った。


「僕は昔から未知のもの、それこそ妖怪や都市伝説からファンタジー小説までなんでも好きでね。 いつか出会いと思っていたけど――」


 男は十六年前、突如現れた時空の歪みに遭遇し、陽炎のように揺らめく空間の先で異世界の景色を見たらしい。 そしてそこで人類で初めて未知に――イデアと出会ったそうだ。


 異世界はあったんだと。

 彼女が何かを知っていのだと。

 歓喜に包まれているうち、どこからともなく現れた集団に全てを横取りされ、口封じされ、なんだかんだ諦められずに研究員としてここに潜り込んでいたようだ。


(まあ全て自称だけどね)


「ところでここって何の研究施設なんですか? 僕は教育機関だと思ってたんですけど」


 そう言うと彼は鼻で笑った。

 

「まあ表向きはね? 実際ここは人体実験場であり、化け物の隔離施設――


――さあ、着いたよ」


 そして空亡たちは水槽のあった部屋へと入っていった。






「ちょっと時間頂戴」


 水槽を単に壊してイデアを助ける、とはいかないらしく色々手順があるらしい。


 その間、空亡は大人しく待っていたのだが――


――世界の時間が徐々に動き出してしまった。


「おい、主!」

「分かってる! だけどもう一度やろうとしても上手くできないんだ……っ」


 時間を止めた魔法は感情の発露による感覚的な方法で発動していたため、もう一度同じことをしようとしても空亡には方法が分からなかった。


「どうすれば――」


――ビィィィィィィ


 すると警報が作動し、外から大量の足音が聞こえてきた。


「まだですか?!」

「もうちょい……悪いけど時間稼ぎお願い」


 そんな軽く言われても空亡には戦いの経験も覚悟もない。 不安に苛まれているうちに扉が開いた。


「侵入者発見!」

「直ちに作業を中止せよ!」


 警棒を携えた十人の警備員はそう言って、厳しい視線を空亡たちに向けるのであった。


 




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