第20話 絶対に真似しないでください配信
六階、七階、八階と階層を進むごとに、視聴者達の緊張と興奮は膨らんでいった。
登場する魔物は他ダンジョンの同階層とは比較にならないほど強そうである。
呪いの熊、凶アナコンダ、ゴースト、毒毒コウモリといった魔物達が行手を阻む。しかしながら、右手に怪しく光る剣を持つ少年を止めることはできない。
全てが鏡で作られたような内装もがらりと変わり、今度は一面コンクリートのよう。ただ、灯りがほとんどないせいか薄暗く、お化け屋敷のような怖さがある。
視聴者達は、まるで心霊ドラマでも鑑賞しているような気分だった。怖いのだがやめられない。それだけフウガの活躍にのめり込んでいる。
「とりあえず、もうちょっとサクサク進めないと電池がまずい」
ただ、当の本人はあまり緊張感がない。フウガはゴーグルの充電をしっかり行っていなかったことを後悔していた。電池量は四割を切っている。
二年も活動してきて、こういった失敗をしてしまう自分を恥じていたが、幸いにも挽回する手がないわけではない。
ただ、それはきっと誰もが避けてきた道であることも確かだった。
「えー、この後も下に続く階段があるんですが、前情報ではその階段以外に、ショートカットできる道があるんです。俺の場合、ちょっと充電足りなくなってきてるので、そっちで行こうと思ってます」
:近道かぁ
:あ、それ知ってるかも
:フウガ兄貴、あれに挑む気か
:近道ってやばそう
:っていうか、今の階層一人で攻略してるだけで充分な気が
:いや、あれは絶対無理
:確か、Aランカーでも降りれないんだっけ
チャット欄では様々な憶測が流れているが、事実ははっきりしない。フウガもまた、前知識として勉強してはいたものの、実際のところはよく知らないルートだ。
「アイラ、あっちだったっけ?」
『はい。正面に見える階段は無視し、右に曲がり直進、しばらく進んだ先の扉を開けたところです』
あらゆる情報を前もってインプットしているAIのおかげで、彼は無駄に迷わず進むことができた。赤黒いドアはまるでホラー映画に出てきそうな雰囲気を醸し出している。
静かにドアを開いた先には、非常に長く大きな螺旋階段があった。階段はドアと同じ赤色をしている。
だがそれ以上に目を引いたのは、規格外の階段の広さと長さであり、にもかかわらず埋め尽くさんばかりの魔物達だった。
すぐ手前にやってきたゾンビ達は、生きの良い獲物に喜び、一斉に襲いかかろうとした。しかしフウガの片手間で放ったような前蹴りで吹き飛ばされ、ドミノ倒しのように他の魔物を巻きこんで倒れていく。
:うわああああ
:怖すぎるだろ
:何これ? 下の方うじゃうじゃいるし
:流石にやめたほうが良くない?
毎回迷路を進まなくていい分、魔物が多く存在しているという不思議空間。こいつらは普段はどうやって暮らしているんだろう。彼はいつもながらに思う疑問を胸にしまい、一つの決意をした。
「よし。ここからならけっこう深い所までいけそうです。あ、そうでした。今からすることは危ないので、絶対に真似しないでください。じゃ、行きます」
一言注意を添えて、彼は意識を集中する。ほんの数秒した後、フウガの周囲に風が集まってきた。涼しげな風は腐った腐肉と鉄の匂いを緩和させ、わずかだが体を癒してくれる気がした。
視聴者達は何をするつもりなのかと、疑念混じりに画面に食い入っていたが、まさかという行為に誰もが驚いた。
ただ自然に、ふらりと飛び降りたのだ。螺旋階段を降りるのではなく、真ん中に空いている空間へ。つまりただ単純に落ちているのだ。
:えええええええ!
:自殺行為だ
:それだけはダメだって!
:フウくーん!
:死んじゃうよ!
「あ、そうだ。こいつらは減らしておかないと」
彼は落下しつつも、少しでも魔物の数を減らすことを考えていた。剣を持った右腕を大きく回すように振る。
今までも登場していた風の刃が、一際大きな円を描くように飛んだ。狙われたゾンビやハイゴブリン、デスバッファローといった魔物達が一瞬にして切断されていった。
「あ、すみません。しばらく続けるので、目が回るかもしれないです」
言いつつフウガは、落下しながら全身で回転を始めた。すると回った分だけ風の刃が放たれ、魔物達は何もできずに死体に変わるしかなかった。
彼は落ちながら、さながら刃の竜巻と化している。それも高速かつ鋭利で、全ての角度において隙がなかった。
実はこの前春日武具店に行った時、店長から教えられた言い伝えを自分なりに解釈して練習したところ、新しい剣技を習得することができていたのだ。
一体何百体いたのかと思えた魔物達が、突如として落下してきた少年の剣技に圧倒され続け、ついには数えるほどしかいなくなった頃、ようやく床が彼の目に映った。
フウガは柔らかな動きで体を一回転させる。右手に持った剣が黒い光に包まれ、彼の全身を覆った。続いて激しい音と共に、足が床にめり込んだ。
「良かったぁ。とりあえず、かなりショートカットできました」
この時、チャット欄は止まっていた。フウガはもしかして電池が切れてしまったかと心配したが、一つチャットが流れてから怒涛の反響がくる。
:嘘だろ
:はああああああ!?
:すげえーーー!
:どうなってんだああああ!
:フウ君、ホントに人間!?
:マジでやばい!
:こりゃ伝説回だろ
:人間じゃねえええええ
:人は切れなくても、ゾンビには躊躇ないw
:この高さから落ちて死なないのか
:ゾンビになった人には容赦ない男ww
:強すぎだろ!?
:惨殺回だぁ!
:うおおおーーー
:異常すぎ
:ああああああ
:凄いよおおぉおお!!
同接数はなんと十三万を超えていた。
(十三万! 今、俺は十三万の人に見られてるのか)
彼はあまりの反響にビビってしまったが、あまり顔には出ない上にゴーグルをつけているので、周囲にはただぼうっとしているようにしか映らなかった。緊張感が格段に増してしまったが、それでも前に進む。
「この高さから落ちて死なないのか……ええ、まあ。魔剣の力を借りてるだけなので。これくらいは。あ、それと魔剣でバフ効果もさっき使ってたんで、大丈夫なんです」
:魔剣の力?
:いや、だってそれ普通に売ってるやつ定期
¥22,000:フウガさん、マジぱないっす!
:もしかして本当に最強なんじゃ
:この次もマジ楽しみだわ!
¥3,400:止まらない男
¥50,000:ファンになりました!
:頑張って!
:確かにその剣、めちゃくちゃ頑丈ではある
¥50,000:ゾクゾクしてきたw
:新記録いけそう!
どんどんハードルが高くなっているような気がする。反響は想像以上であり、自らの覚悟を軽く超えてきている。
目標は大体達成しているが、フウガはできればもっと奥まで、新記録を達成するまで配信したいと考えていた。
「そういえば今、大体何階くらいだっけ」
『現在は地下十五階相当と予測。恐らく、下層の終盤に差し掛かっていると思われます』
「じゃあ、とりあえずもうちょっと潜ってみようか」
降り立った先には何が待ち受けているのか。魔物にではなく、配信の緊張感に潰れそうになっているフウガだった。
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【作者より】
読者の皆さんのおかけで、ファンタジーランキングの40位以内に入ることができました!
本当にありがとうございますmm
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