第18話 ボス出現

 かくしてダンジョン内に足を踏み入れたフウガだったが、まずその風変わりな作りに興味が湧いていた。


「はい、とりあえず地下一階にやって来ましたが、どう見ても普段のダンジョンと違うというか。なんか、思ったよりキラキラ? してますよね」


 地面を見ると自分の顔が反射して映っていた。広々とした一本道はまるで全てが鏡のよう。通路奥から時折やってくるゴブリンやスライムを蹴散らしつつ、彼は余裕ある足取りで進んでいく。


:全部鏡みたい

:何の材質だろ

:頭おかしくなりそう

:魔物もこういうとこ嫌じゃないんだろうか

:他の配信者も驚いてた

:ひゃー、オラおでれえたぞ

:行ってみてえー


 しばらく続いた一本道の終わりには、これまた全てが鏡でできているような階段があった。静かに降りていくと、今度は迷路のように入り組んだフロアとなっている。


「あ、なんか魔物の数増えてるかも」

『魔物反応が三倍以上に増加。しかし危険度的には変化なしと判断』

「そうか。魔物はまだ変わんないのか」


:ちょいセクシーボイス

:AIちゃん有能

:フロアマップの魔物数把握してる?

:AI何気に凄くね?

:フウくんのゴーグルが気になる


 なぜかアイラも人気が出てきたようだ。今までは何をしても反応がなかったので、ちょっとしたことでリアクションがあることがフウガにとっては新鮮だった。


 迷路を進むうちに何度か魔物と相対したが、魔剣で軽く撫でるように切り倒していった。魔物の種類は確かにほぼ変わっていないが、巨大なバッタが登場するようになり、それが少々気持ち悪いというチャットが相次いだ。


 迷路を進むうちに、何度か同業者と出会った。彼らはみなチームを組んで悪戦苦闘しているようで、一人で涼しい顔で進むフウガを見て驚いていた。フウガもまた同業者と会うと大抵戸惑うのだが、外目は普通なので気がつかれない。


:みんなフウちゃんにビビっとるでw

:フウ君、挨拶めっちゃ小声ww

:そういえばなんでソロなんですか?


 ソロ活動についての質問があったので、フウガは少々答え方に悩んだ。理由自体は簡単なのだが、言い方一つでも好印象に繋がるようにしなくてはと、少々肩肘が張ってしまう。


「あ、えー、そうですね。俺がソロをしている理由っていうのは、前話したかな……。二年前から、流石に一人だけじゃ無理だろって思ったんでギルドに行ってみたんですね。ただ、ギルドっていうのがその、かなりコミュニケーションを求められるっていうか。結論から言うと、誰も組んでもらえなかったんです」


:二年前って、中二だよね?

:コミュニーケーションの壁かぁ

:意外と理由普通だったw

:今なら誰かに誘われないですか?

:私なら一緒にダンジョン潜ってもいいわよ

:早速一人釣れてるw


 魔物の数も増えているが、とりあえず雑談を続ける余裕はある。むしろ彼からすれば、こういった階層はまだまだ退屈な場所だとも言える。続く三階も特に困ることはなかった。


 しかし、迷路を抜けて地下四階まで降りて来たところで、彼にとっては新鮮な驚きがあった。同じように迷路ではあるが、歩き続けていても魔物が襲いかかってこない。しかし、どこかに奴らの気配が感じられる。


『ボスモンスターの反応を検知。すぐ近くにいるようです』

「ボスか。どんなボスかは分かる?」

『現在対象の情報までは特定できず。しかし、ご主人様に近い対象反応を検知』

「俺に近い……」


 しかし、それだけ伝えられても彼にはよく分からなかった。鏡に映る自分の姿を見ながら、同じくらいの体格ということかと考えていると、なぜかチャット欄がざわつく。


:ご主人様……!

:俺もこんなAIにご主人様て呼ばれたい

:フウ君ってば、そんな呼ばせ方して

:今までと違う意味でやばい


「あ、いや。この呼び名ですけど、俺が決めたわけじゃないんです。なんか呼び方直してくれなくて」


 変なところで誤解されそうになり少年は慌てた。最初からそう呼ばれていたのに違和感しかなかったのだが、長い付き合いともなると気にならなくなる。


「ぎぃやああああああ!!」


 若干慌てた配信者に視聴者達が和んでいると、突如迷路の奥から悲鳴が上がった。尋常ではない叫び方をしている。


「あ、なんか襲われてるのかな。助けに行ってきます」


 フウガは曲がり角だらけの迷路を駆け出した。角にきても曲がる際に上手く体を滑らせ、ほとんど減速しないまま進む。まるでレーシングゲームを見ている風景に、コメント欄が一斉に騒ぎになる。


:うおおおお!

:はえええええええ!

:ぶつかる! ぶつかるて!

:カーブが人間業じゃない

:さっきの叫び声凄かったな

:奇声発してるみたいだったw

:不謹慎だけど叫び声にじわじわくる

:絶対レースゲーム上手いよこの人

:飛ばしてー! 止まらないでー!

:マジ何キロ出てんの!?

:怖いよ漏れちゃう!


 チャット画面を気にしていないフウガが迷路を抜けた時、まるで体育館のように開けた空間があった。そこで襲われている男に、彼は見覚えがあった。


「あれは……」


 その男は剣を振り回しながら、真っ黒な何かから必死に逃げている。以前ダンジョンで一緒になった大人気配信者、鍛治屋敷キョウジであった。

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