もう一つの君の名前は、帝都に桜を咲かす
げこげこ天秤
第01話 初日
「帰れ。ここはお前が居ていい場所じゃない」
先輩の氷のような視線が、
「……えっと、どういうことですか?」
ポカンと口を開けたのは、
高大一貫校である
いま、術師着に身を包んだ男が、
今日は、単なる顔合わせで、先ほどまでやっていたのもただの自己紹介だ。名前と、趣味と、それから〈
「変なことでも……言いましたか?」
「お前はこの世界に向いてない。ただそれだけだ」
「いや、だからなんで――」
理不尽な対応に、
「お前みたいな奴は珍しくない。〈
そこまで言うと、
指名された同級生は、「この後に自己紹介をするのかよ」という空気のなかで、半ば緊張しながら名前を述べる。
自己紹介の流れが再開した。やがて、張りつめた空気が和らぎ始めると、今度は小さくクスクスと笑う声が聞こえ始めた。田舎者である
一時は、青ざめていた先輩たちの表情も、徐々に苦笑へと変わっていく。そのうちの一人は、「可愛そうに」と
(出身地……言わなきゃよかったのかな?)
(駄目だ。言わなかったとしても、方言でバレる? それともやっぱ雰囲気がいけなかったとか?)
いずれにせよ、とんだ貧乏くじを引かされてしまったものだ。でも、これが後輩いびりであることは、良識のある人が見れば明らかだ。少なくとも、目の前に並んでいる先輩たちはそれが分かっていて、このイベントが終わった後には「
(あれ? 私、悪いことしてないよね?)
ふと、
いいや。
だったら――
「――倒してやる」
「……? おい。なんか言ったか?」
ギロリと向けられた
「改めまして、私は
短い間ですが、宜しくお願いします!
そんな捨て台詞を吐いて、
そっちが帰れというから帰っているのだ。
いまさら戻るわけがない。
*****
「私のばかああぁぁぁぁぁああ! あほおぉぉぉぉお! 黙ってれば、それで済んだ話じゃあああん。なのに、なのにぃ……」
グラウンドを離れ、普通科棟の辺りまで来た
「終わった……。何もかも……」
平穏な学園生活の終了を告げるかのように。
あるいは、開戦のゴングかのように。
授業の鐘が鳴り響いた。
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