独身貴族を謳歌したい男爵令嬢は、女嫌い公爵さまと結婚する。

水鳥楓椛

第1話

▫︎◇▫︎


 わたし、オードリー・アイリーンは今日結婚する。


 お相手は女嫌いと有名な公爵さま。


 結婚が決まったのはたった1週間前で、参列者はお父さまとお母さまと小さい弟、あとは相手方の従者さんだけ。


 寂しい寂しい結婚式。

 結婚なんか絶対しないって公言していたわたしにも、結婚式に対する願望ぐらいはあった。真っ白なトレーンの長いドレスや白百合を繊細に編み込んだ白レースのベール、お友だちをたくさん呼んで、幸せいっぱいな笑みを浮かべて、愛の花言葉いっぱいの可愛らしいお花でブーケトスをして………、旦那さまにどろっどろに甘やかされて、愛されて、そうしてみんなにこう言ってもらうの。


 綺麗な花嫁さんね、

 幸せいっぱいの花嫁さんねって。


 そのはずだったのに………、今わたしが行なっている結婚式は何?

 既製品のエンパイアラインの黒いドレスに、薔薇を編み込んだ黒レースのベール、お友だちは誰も参列していなくて、それどころか家族の表情はお葬式。わたしが握っているお花は漆黒の薔薇でブーケトスをする相手なんていない。


 しかも、旦那さまとなる男性はわたしのことを親の仇の如く睨みつけてきている。


 女神さまに永遠の愛を誓うはずの教会の女神さまの像の目前で、神父さまの目前で、旦那さまはその完璧と言わざるを得ない造形のお口を開いてバリトンボイスを響かせる。


「お前を愛することはない」

「っ、」


 ねぇ、こんな結婚なんて信じられる?

 ねぇ、こんな結婚なんて耐えられる?


 わたしは怒りに震えるてで黒薔薇をぐしゃっと握り込んで、にっこりと笑ってやる。こんな男とまともな結婚を夢見たわたしがバカだった。


「えぇ。………あなたを愛することなって、たとえ天変地異が起ころうともあり得ませんわ、“旦那さま”」


 嫌悪感たっぷりでわたしのことに触れようともしない新郎の言葉に、神父さまはおろおろと怯えている。


 この国で最も地位の高い貴族家アーデルハイト公爵家の当主にして、王弟殿下であらせられるエドワード・アーデルハイトさま。

 わたしの旦那さま。


 わたしはこの男が大嫌いだ。

 けれど、わたしはこの日、この瞬間、この男と婚姻を結んだ。


 女の子ならば誰もが夢見るであろう誓いのキスも、指輪の交換もなかった。

 あったのはたった1枚の紙切れに綴った———誓約だった。

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