神はアタシに死ねという
五道 正希
神はアタシに死ねという
霊感☆美少女 神宮 司 最後の冒険
01
それがアタシの名前。
ちょっとスゴそうじゃない?いかにも神の使いみたいな。
巫女さん系の清楚な黒髪美少女を想像したでしょ?
でも残念。美少女以外は当たってない。
「ざけんなクソッ!!いくら掛かったと思ってんだよッ!!!」
清楚とは言い難い少々はしたないお言葉遣いでアタシは愛馬「ピンクパンプキン号」(ま、わかりやすく言うとスクーターだ。)に苦情を申し立てた。
つい先週、オイルやらバッテリーやら、いろいろとっかえてやったばかりだ。
それがどうだ。
我が城までの帰路半ばにして、信号待ちでいきなりストール。
セルもキックも一切無反応でエンジンかかる気配なし。
散歩をいやがるバカ犬の如く突然地べたにしがみつき、バイト帰りのアタシは華奢な身体に鞭打ってひたすら押して歩くほかなかった。
一瞬、取って返して「ミラ・ドンナ」の駐車場に置いておこうかなんて考えがよぎったが、夜は決して安全な界隈でもない。この子にイタズラされるくらいならこれもダイエット用エクササイズだと甘んじて受け入れようと思い直した。にしても。
「はぇ~…。」
小高い丘の上にある我が居城への最短ルートには結構な斜度の坂がある。そのふもとまで辿り着き上を見上げたら、思わずため息が漏れてしまった。
問題を先送りするのは性に合わない。同じ高度まで達するためにはどのルートを使っても結果疲労度は変わらないハズだ。ここにくるまではそんな屁理屈を脳内でこね回していたが、いざ坂を目の当たりにしてアタシはあっさりと前言を撤回することにした。
うん。かったるい。
ここまでの距離でこんなにHPを削られるとも思っていなかったし。
アタシはちょうど目に付いた自販機の脇に腰を下ろして小休止がてらプランBを練ることにした。
微炭酸のピーチ味の清涼飲料が体中に染みわたると、それに合わせて一気に汗が噴き出してきた。夕暮れ時。普段ならもっと人通りがあるはずだが、なぜだか誰もいないのがラッキーだった。
ド派手ピンクの髪でスカジャンにハーフフィンガーグローブ、メンズのシャカパン穿いた美少女が汗みどろで道端に座り込んでいる図なんて、無駄に衆目を集めてしまうことでしょう。アタシ、そういう目立ち方は好きじゃないのよね。
ぼんやりと道の向こうを眺めていたら、最短ルートの坂の一本隣に、斜めに上がっていく小路が目に入った。へぇ、知らなかったなこんな道、近所なのに。
視点が変わったおかげで新たな発見をした。
斜行しているぶん傾斜はだいぶ緩やかだった。
よし、こっち向かってみよう。プランBは決まった。小路がどこへ向かっているのか、その先は考えないのがアタシのチャームポイントだ。
行き止まりと切り返しを繰り返しながら、小路はだらだらと我が居城の方へつながっているようだった。
へへ、ラッキー。アタシは自分の運と選択眼を自画自賛した。
本当に運が良けりゃこんなとこに迷い込まないよってのは、ナシだ。
ラッキーはいいんだが、いよいよ陽が落ちかけて、ただでさえ陽の入らない小路はやけに薄暗くなってきた。申し訳程度しか街燈が無く、ぽつぽつとつき始めた道路脇の家の窓灯りがわずかに漏れてくるばかり。
手入れの行き届いていない庭から生えた雑木がガサガサと音を立てると、アタシはイヤな予感がした。
軽自動車でも通れないっぽい狭い小路の曲がり角になぜだかぽつんと立っているカーブミラーが、弱々しく明滅する街燈に照らされていた。
そのミラー越しからすでに、アタシは「彼女」の視線に気付いていた。
気付いてはいたが、いまさらここを引き返してさらに遠回りするような「大人の判断」が出来るタイプじゃないのだ、アタシは。
構わず曲がり角を抜けようとすると、向こうが声をかけてきた。
「こんばんは、司さん。すこしよろしいかしら?」
振り向くと、曲がり角の内側の死角に、白いブラウスに濃紺のスカートを穿いた女性が立っていた。
暗がりに隠れるような位置にも関わらず、彼女は消えかけの蓄光板のようにぼんやりと発光してみえた。
ツヤツヤの黒髪をまるくまとめたショートボブの楚々とした雰囲気。飾り気もなく、流行りではないかもしれないが和風な顔立ちの紛れもない美人だ。繊細で、儚げで。
歳の頃は、二十代後半?雰囲気は大人っぽいけど、見た目で年齢が推し量れないタイプだ。しかし、アタシはなにより向こうが声を発したことに驚いた。
もしかして普通に意思疎通が出来るのか。
向こうがこっちを知っているらしいとかは後回しだ。
「こんばんは、どうも。」
なにがどうもだか自分でもわからないが、とりあえず向こうの出方が知りたかった。
「あの、出来れば落ち着いたところでお話がしたくって。」
こんな薄暗い小路で待ち伏せしておいて言うセリフじゃないけども。
そんな経緯は彼女の本題に比べれば些末なことなのだろうと判断した。
「なるほど、そうですか。そうだと思うんですがご覧の通りこっちはバイト帰りのトラブルで少々ヘバってまして。また明日ってわけには、えーと。」
「それなら、もう問題はないです。お宅まであとわずかですし、ぜひ、お願いします。」
物腰のわりに結構強引に事を進めるタイプかも知れない。
彼女はいつの間にかピンクパンプキン号の脇に立ち、セルスイッチに手を伸ばす。
まるで何事もなかったかのようにエンジンがかかった。
見知らぬ他人のほうにしっぽを振る我が愛馬にアタシは結構傷ついた。
が、それを顔に出すのも癪なので
「えーと、メットひとつしかないですけど、2ケツでいいですか?ちなみにこの道の先ってどうなってます?」聞いてみた。
「この先は行き止まりなので一旦引き返していただいて。手前の坂を上っていただければすぐですわ。」
それつまり、いつもの帰り道ってことですよね。そいつを他人に説明されるのも癪に障った。
ようするにあれだ、最初っから罠に嵌められていたんだ。アタシは。
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