冤罪を受けた俺は親しい少女たちに追い詰められる
西基央
第1話 始まり
俺こと
「兄さん、起きてください」
「ん……雪乃?」
「はい、あなたの雪乃です。もう朝ご飯できていますよ」
朝は雪乃が起こしてくれる。
一つ下の義妹で、黒髪の和風美人といった容姿だ。
マジメでお堅い性格だがなんだかんだ兄である俺には懐いてくれている。今日もいっしょに登校しようと、俺をわざわざ起こしに来たのだ。
朝食を済ませて二人で家を出ると、元気なポニーテールっ娘が手を振っていた。
「おっはよう、みーちゃん!」
にぱっと明るい笑顔を見せてくれるのは、幼馴染の音無梓{おとなし・あずさ}。
幼稚園の頃からの付き合いだから、義妹の雪乃よりも共に過ごした時間は長かったりする。
俺にとっては男女を含めても一番親しく相手であり、昔からいつもいっしょに行動していた。
「おー、梓。おはよう」
「梓姉さん、おはようございいます」
「はいはーい、音無なのに大人しくない梓でーす」
いつもの持ちネタを披露しつつ、三人揃って学校に行くのがいつもの流れだ。
俺と梓は根取羅学園に通う高校二年生で、雪乃が一年生。明るく元気なポニテっ娘な幼馴染と純和風美人な義妹に囲まれて、わりと嫉妬される立ち位置にいる。
でも俺にとっては大切な人だ、周りにどうこう言われても離れる気はさらさらなかった。
「ふんふふーん。今日もいい天気だねー」
「だなぁ。暑くなりそう」
「ほんと、太陽が眩しいや。ところでアニオリで班○一角の卍解に強化が入る可能性ってどれくらいあると思う? 鬼灯の花言葉は偽りらしいけど」
「ないと思うしどうしてこのタイミングでその話題?」
「いや、眩しいなーって」
「やっぱりやめてそれ以上言わないで」
朗らかでさっぱりとした性格の彼女は、勉強苦手な運動得意、少年マンガとゲームが大好き。特にバトルマンガをこよなく愛している。
ちなみに去年の誕生日の時、雪乃と二人で服をプレゼントしてくれた。内容は雪乃が手編みのマフラー、梓が亀仙流の道着だった。
いわく「服の好みはそれぞれあるけど、この道着は男の子ならみんな好きだし」。
その時の晴れやかな笑顔を俺は絶対に忘れない。
「まったく、兄さんたちはすぐに私を無視して盛り上がりますね」
「いや、そういうつもりはないんだけど」
危険な会話をする俺達を、雪乃が冷ややかな目で見ている。
バカ話に呆れているのかと思いきや、話題に入れないことが寂しかっただけらしい。
雪乃はマンガもゲームも嗜まない派だからなぁ。
「ごめんごめん、雪乃ちゃん。じゃあ今度はみーちゃんの最新エロ本事情について話そうか?」
「それなら私も混ざれます」
「ねえ、なんで混ざれるの?」
梓と雪乃は仲良くお話で盛り上がる。
年頃の娘がエロ本談義で盛り上がらないでください。雪乃さん、「とりあえず妹ものは仕込んでおきましたが」ってどういうことですか。
買った覚えのない“らぶあま妹タイム~お兄ちゃん大好き~”は貴女の仕業だったんですね?
若干の引っ掛かりを覚えつつも、無事学校に到着。玄関で雪乃と別れ、俺と梓は自分の教室に入る。
「ウォォォォォォ! みずきちぃ! ウォォォォォォォォォ!?」
それと同時に俺に向かって女子生徒が走ってくる。
彼女の名前は藤崎瑠奈。あだ名は“るなちー”。
日に焼けた肌、茶に染めたロングヘア。背こそ小さいがスレンダーで均整の取れたスタイルをしたちょっとギャル風の美少女だ。
まあ今はその美少女っぷりをかなぐり捨てて疾走し、突撃かましてきやがったんですが。
「ひゃっほぉぉぉい!」
「ぐぉぉぉぉ⁉ 抱き着くというかもはやタックル⁉」
いや、たぶん本人的には飛びつき抱き着きの類のつもりなんだと思う。
ただちょっと気合が入り過ぎて、タンクトップばりの勢いがついてしまっただけなのだ。
「おっはよ。相変わらず足腰強いねー」
「そらこれでも鍛えていますから」
格ゲー好きな俺は格闘技に憧れて古流武術・桧木流を習っている。
道場の先輩には、そう年齢は変わらないのに頭おかしいレベルで強い男もいるけど、残念ながら俺はそこまでじゃない。
それでも細身なるなちーのタックルくらいはしっかり踏ん張って耐えることができた。
「るなちー、あんま無茶するなよ」
「そこはほら信頼的なサムゲタン? みずきちなら抱きしめてくれるというアレなアレなわけよ。もう全然前世から信頼してる」
「おそらくサムシングだし抱き留めるくらいにしといてくれる?」
容姿はスレンダーギャルだけど中身は純粋なアホっ娘、それがるなちーだ。
いや、普通に仲はいいけどね。高校になってからできた友人で、気も合うからよく放課後も一緒に遊ぶ。
たこ焼き友達でもある。
「おはよー、瑠奈ちゃん」
「うーっす、おはようアズちん。旦那さん借りてるよー」
「いいよいいよ、どんどん借りて」
旦那じゃないし貸し出す権利は梓にない。
的なツッコミを以前したけど華麗にスルーされたので今では放置している。
るなちーはボディタッチが多い。抱き着くのも普通だし、頬を寄せてすりすりくらいは普通にやってくる。ぶっ飛びギャルでも外見は美少女なので正直照れるし緊張もしてしまう。
スレンダーな彼女でも普通に柔らかいし。
「またバカ騒ぎしてんな、お前らは」
「ん? 結愛も混ざるか?」
「勘弁しろ。オレはそういうの苦手なんだよ」
そんな俺達を見て溜息を吐く女子生徒がいる。
彼女は綾瀬結愛≪あやせ・ゆめ≫。こんな喋り方だけど女の子だ、しかも飛び切りカワイイ。
髪はあまり整えていない、自然なミドルヘア。だけどもともとのルックスがいいから、気怠い色気みたいなのを感じさせる美人さんになっちゃっている。
加えて結愛はクラスでも飛び抜けて大きな胸をしていて、だからと言って太っている訳でもない。化粧っ気がなく飾らないスタイル抜群の美少女なので、男子生徒から妙な人気を博していた。
「そういや瑞貴、今日は道場くんのか?」
「うん、一応な」
「よっし、ならオレと手合わせしよう。今日はすごい身体動かしたいんだ」
ただしオレっ娘。
実は彼女、俺と同じ道場に通っている桧木流の門弟だ。
この容姿でもすげー強かったりする。
あと地味にこの娘自分の名前にコンプレックスがある。愛を結ぶと書いて「ゆめ=夢」。俺はキレイだと思うんだけど、そのキレイさが恥ずかしいようだ。
「やる気満々だな」
「当然っ。寺島センパイをぶっ倒すために、こっちは毎日鍛錬してんだよ」
そう言って拳を見せながら、快活ですがすがしい笑顔を浮かべる。
武術をやっていても別に乱暴者ではない。結愛はまっすぐで気持ちのいい性格をした女の子だ。
「おー、ゆめゆめかっけー。こぶじゅちゅってやっぱりエネルギー弾とか撃てるの?」
「言えてねえよ藤崎。あとそんなもん撃てるか」
物怖じしないるなちーは、結愛のこともあだ名で呼ぶ。
本人もそれを受け入れ入るようだから何も言わないけど。
昔からの幼馴染な元気ポニテっ娘、音無梓。
ちょっと愛重めな純和風美人な義妹、我妻雪乃。
ぶっ飛びスレンダーギャル、藤崎瑠奈。
オレっ娘武術家、綾瀬結愛。
学校でもトップクラスの美少女だけど、みんな気のいい奴で俺にとっては大切な人達だ。
つまり、俺の日常はとても楽しいモノだった。
皆でバカをやりながらこれからも過ごせればいい。本気でそう思っていた。
だけど崩れる時ってのは早いモノだ。
俺の日常は、大切な彼女達との日々は、一つの冤罪事件によって簡単に崩れ去ってしまった。
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