修二の決意
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あの日、里美からの妊娠報告。
その直後から始めた修二の禁煙も上手くは進まずにいたが、とある出来事が修二を決意させたのだった。
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「妊娠してるんだって…私。今九週なんだって。」
あの夜、送り届けた先でその言葉を聞いた時、様々な思いが脳内を巡った。
まるで人ごとの様に話す彼女のその姿を見ながら、伝えられたその言葉は嬉しすぎて夢なのではないかと思った。
その反面、まだ腹部も目立たぬこの時期、すでに体調不良で苦しんでいる姿を見るのは修二も辛いものがあった。
そして、いずれやらなければと思っていた事を行動にする時がやってきた。
…
冬には父親になるらしい。
そんな実感もない中、どこか自分が浮かれていることは分かっていて、家でも職場でも嬉しすぎて色々と手に付かずにいた。
「嬉しそうだな、賀城。そろそろ休憩、タバコ行くか?」
「自分、禁煙する事にしたんで。」
「そうなのか?急に?この間の健康診断、どっか引っかかった?」
「そうじゃなくて。まぁ、色々とあるんですよ。」
桃瀬は連日悪阻で苦しんでいた。
妊娠した女性なら経験する場合が多いらしいが、それにしてもここまで無理して出勤し、勤務を続ける理由は何なのだろうか。
家で吐き、職場で吐き、倒れ、寝込み、同じ部署の伝えるべき近しい同僚へは事情を話したらしいが、俺も周囲に伝えるタイミングとしてはそろそろかもしれない。
だが、まだ不安定な時期である。
入籍の相談もしたいが、今の桃瀬はそんな話をしている状況ではないだろう。
もしかすると、あいつの事だから結婚しなくても子どもは育てられるとか驚くような事を言い出すかもしれないが、修二は出来る事なら夫婦として新たな歩みを進められたらと思っていた。
…
「近々結婚するんで。」
「おめでとう、ちゃっかり彼女居たんだ?そういうの聞かないからどうなんだと思ってたけど。まぁ、お前に彼女が居ないわけないよな。」
細かい事は聞かれなそうだと分かった瞬間安心したが、その思いは間も無く掻き消された。
「桃瀬ちゃんだろ?お前ら一緒にいると、いつも仲良さそうにしてさ。ずっと付き合ってたんだろ?それに隠してるっぽいけど俺は気づいてたぞ。」
「…そんな感じですね。でもずっと付き合ってた訳ではないですよ。」
「それにお前らが車で駐車場から出て行く所、この間見たぞ。開発部のヤツに、彼女最近すげえ体調悪そうだって聞いたし、お前も禁煙するとか言い出して。で、結婚だろ。桃瀬ちゃん、妊娠してないか?」
先輩職員から最後の一言だけ小声で問いかけられると、もうそれを否定する理由は無かった。
全てが正解だった。
「孕ませたとかじゃなくて、俺らは欲しかったし出来ちゃったとか思ってないですよ。それから禁煙、協力して下さいよ。」
「色々と頑張れよ。お前もいよいよパパになるのか…」
産まれてきた子にタバコ臭いと嫌われては困る。
女の子だったら尚更だ。
何より桃瀬の悪阻をこれ以上辛いものとさせないためにも、禁煙して悪い影響はないだろう。
無事に産まれて健康な子に育って欲しいし、これから父親として長く生きたいからこそ嗜好を断つことを決めた。
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