第103話 【飛龍瞬殺】友釣の姉
俺達は魔導車内に集まっている。
車内は折りたたみ机を置けるほど広いので、作戦会議をするのにちょうど良い。
ローズの提案した初手は意外なものだった。
「まずは……シャルロット。少々危険だけど、貴方に手伝って欲しいことがあるの」
「このシャルロット。友人の頼みを無下にすることはありません。話を聞きましょう」
「ありがとう。簡単に言えば、ドラゴンを引きつけるために飛んで欲しいの」
「まあ! はぁい、ローズ先生。ガルト王国の領主様が法を破る事を望んで良いのですか?」
提案を聞いたシャルロットは、どこかから取り出した扇子で口元を隠しながら、自分が最近注意されたばかりの法について面白そうに指摘した。
その指摘に対してローズは、意外とある胸の前で腕を組みながら、法の抜け道と今回の目的を告げる。
「良い質問ね生徒シャルロット。狩り関連の特例法があるの。この特例法によりガルト王国の領主、ギルドマスターは自らの領地に限りではあるけど、狩りを理由にした飛行許可を出す権限があるわ。あなたなら楽勝でしょ? それとも難しいかしら?」
「その挑戦受けて立ちますわ。戦闘貴族の華麗な飛行術を見せてあげましょう」
ニヤリと笑ったローズが手を差し出すと、シャルロットもニッコリと笑いながら手を重ねた。流石は寮の同室、仲が良いな。
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「シャルロット、すごいね~」
「あの子、物心ついた頃には親に抱えられながら飛んでいたらしいわ。年季が違うのよ」
「へぇ~!」
作戦通り、俺達は両端を崖に囲まれた地点で待機中だ。
上空ではシャルロットが赤と青のドラゴン二体を相手に危なげなく対処している。
激しい攻撃を余裕もって避けつつ、複雑な機動で射線を絞らせないようにすることで厄介なブレス攻撃も封じている。
おねえちゃんの言うとおり凄いな。
俺では、ああはいかないだろう。
興奮極まった二体のドラゴンが同時に突撃を始めた瞬間、シャルロットは急降下を開始した。
アレは作戦開始の合図だ。
一気に降下したお嬢様魔法使いは、俺達の待つ地点目がけて急加速する。
目論み通りドラゴンたちは空飛ぶ彼女を夢中になって追いかけている。
一瞬で俺達の少し上をシャルロットが通り過ぎていき……今が攻撃のチャンスだ!
「いっくよ~! 『砕けろ』!」
おねえちゃんが青い剣を光り輝かせながら飛び上がり、宣言と共に振り下ろすと斬撃の撃流が二体のドラゴンを一網打尽にする。
激しい攻撃にドラゴンたちは墜落しながら、勢い余ってこちらへ転がってきた。
見上げれば、シャルロットは無事に空へ避難したみたいだし、このまま一気に畳みかける。
「ありったけの弾丸をご馳走してあげる!」
「当て放題だ!」
隙だらけな敵に対して、俺とローズも負けじと機械槍を連射した。
銃身を展開した連射モードとなった機械槍は、一気にマガジン内の弾丸を撃ち尽くす。おねえちゃんの一撃で生命力を一気に持って行かれていたらしいドラゴンたちは光となって消えていく。あとにはドラゴンの分厚い鱗と、同じ鱗を表面にたくさん並べられた盾が残された。レアドロップである。どうやら一体は俺がトドメを刺したらしい。
思わぬお宝も手に入ったし、完全勝利だ!
敵が撃破されたので、レベルアップしてしまう心配の無くなったシャルロットが降りてくる。魔法使いは交戦距離に気を遣うから大変だ。
「流石は大戦士ですわ! ドラゴンが鎧袖一触ですわ!」
「お疲れ様シャルロット。作戦がハマれば、こんなものよ。落ち着きなさい」
「落ち着きましたわ」
格上相手の戦闘で興奮した様子だった彼女は、ローズの言葉ですぐに落ち着いたみたいだ。落ち着くのが早すぎる……。
――あれも戦闘貴族のタシナミって奴だろうか?
「あとは住居と囲いね。面倒な徘徊型ダンジョンボスは片付けたし、木材を集めながら帰りましょ。早く戻らないと、アルテとエテルナが終わらせてしまうわ」
「は~い!」
この場にいないエルフ二人には、家の作成を進めて貰っていたのだ。
あの二人の出身は、ここよりも巨大な森のダンジョンである。
故に家の作成はお手の物だ。本当に手際が良いので、ローズの言うとおり遅くなると俺達の仕事が無くなってしまう。
鱗を腰の袋に突っ込み、大きな盾を両手で頭上に持ち上げたおねえちゃんが元気いっぱいに返事をしている。
ドラゴンの装備は皆特別な能力を持っているけれど、果たしてあの盾はどんな力を持っているのだろうか。
アルテはドラゴンキラーだし、何か知っているかもしれない。
あとで聞いてみよう。
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