第77話 【攻略不可】撃墜の姉
俺は灼熱の火炎弾が乱舞する広大な縦穴を魔導スラスターを吹かして飛び回っている。
火炎弾は次々と穴の内壁にぶつかり炸裂して火の粉を飛ばした。
縦穴の頂上から差し込む微かな光以外にも火の粉によるオレンジの光が舞い散り、薄暗い洞窟内を照らす。
照らされた空中にはブレス後で口元に火の粉を漏らす青いドラゴンが飛んでいて、俺の事を睨みつけている。
ドラゴンは俺を捕まえようと器用にも空中で後ろ脚を突き出してきた!
それをスラスターを吹かして急上昇する事で避けた俺は、行きがけの駄賃に顔面へ蒼いナイフを滑らせて牽制しておく。
俺の付けたわずかな傷は、ナイフの力による追撃で一気に開いて血が噴き出した。鼻面を切り裂かれたドラゴンは自分の血に目くらましをされて怯んでくれた。
なぜ俺が一人で戦っているのかと言えば、その理由は時間稼ぎだ。
ドラゴンを追撃するために入った岩の割れ目はこの縦穴と繋がっていて、そこには二頭のドラゴンが待ち構えていた。
逃げた赤ドラゴン以外にもドラゴンが居たのだ。
それがこの青ドラゴンである。
高い耐久力を持つ上に欠損しない複数のドラゴン相手に戦うのは、時間がかかりすぎて逃げられる恐れがある為、ちょっかいを出して片方を引き付けている。
戦力を集中して片方を倒す作戦だ。
青いドラゴンが立ち直り、俺目掛けて火炎弾を撃ち込もうとしているがもう大丈夫。
おねえちゃんとローズが赤いドラゴンを倒して駆けつけてきた!
青い魔導鎧を着たおねえちゃんは魔導スラスターを全開にして上昇し一直線にブレス準備をしているドラゴンへ突っ込んでいく。
通り抜け様に頭を切り裂き、口に貯めこまれた炎を暴発させてくれた。
突然の強襲に驚いたドラゴンはおねえちゃんを目視する為に頭を上げようとする。しかし下から断続的な炸裂音が響きその行動は妨害された。
音のした方を見ればローズが魔導鎧の腕部から伸びる砲、アームキャノンを連射している。
ドラゴンは全身に纏う小楯のような鱗を次々と砕かれ、全身から血を噴きだしながら絶叫を上げた。
魔導鎧に搭載されている砲は、強力な貫通力を持っている。
元々はドラゴンの幼生に効く程度なのだが、レベルアップに合わせて強装弾と呼ばれる破壊力の強化された弾を使っているらしい。値段は怖くて聞けていない。
上を取ったおねえちゃんも、ドラゴンへアームキャノン掃射を撃ち下ろす。
暗い洞窟で十字砲火の軌跡が明滅する!
上下から貫通力の高い砲の掃射を受けたドラゴンは、飛行を維持できなくなり墜落していく。
青いドラゴンが暗い縦穴の底へ落ち、痛々しい衝突音が響いた。
おねえちゃんとローズは砲を撃ち尽くしたのか射撃を止めた。
弾切れを感知した魔導鎧が畳まれていたリロード専用の補助椀でアームキャノンの箱型マガジンを外して背中のバックパックに片付け、新しいマガジンを素早く付け直す。
これはおねえちゃん達が装備しているニクス二型魔導鎧の基本機能で、戦闘中でも素早くリロードしてくれるので頼もしい。砲無しの機動力・防御力特化型な俺の魔導鎧には無い機能だ。
俺も使えれば良かったのだが、目が良すぎるので眩しすぎて使えない。
墜落したドラゴンはしばらくもがいた後に立ち上がり、こちらに威嚇の咆哮をあげてくる。その闘志に流石ドラゴンは丈夫だと感心してしまう。
そんなドラゴンの後方には俺達の中で一番強いアルテが黒い弓に矢を番え、ギュルリと引き絞って笑っていて発動句と共にドラゴン目掛けて撃ち込んだ!
「『貫け』! 後方注意だよ!」
撃ち出されたのは弓のスキルである貫通矢だ。
青い光を纏った矢が一瞬にして着弾した為、上から見るとドラゴンとアルテが青い線で繋がったように見える。
線はドラゴンの背中から首を通り抜けて洞窟の壁へ消えた。
壁には真っ黒な穴が残されている。
ドラゴンはバランスを崩してそのまま消えていく。
弱ったところに受けた強烈な一撃に、流石のドラゴンも耐久力の限界に達して撃破されたらしい。
あとにはドロップ品である肉の塊が残された。
「ドラゴン肉だ! ひゃっほう!」
その肉へとどめの一撃を華麗に決めたアルテが飛びついて喜んでいる。
あのドラゴンがこのダンジョンのボスだったらしく、洞窟内の一部の壁が崩れ落ちてダンジョンコアが現れた。
こんなに簡単にダンジョンコアが出てきてしまう場所を改良しても、すぐにダンジョンブレイクされてしまう気がして不安になる。
ダンジョンブレイクとは、ダンジョンの要であるダンジョンコアを撃破して、ダンジョンを破壊する事だ。
コアを破壊されたダンジョンは崩壊してそこから出てきたモンスターやダンジョンの構造物は消えてしまう。
ダンジョンブレイクにはレベルアップしやすいという単純明快な利益もあるので、簡単にブレイクが狙えるようだと危ない。
俺の考えている事に感づいたローズが俺にとんでもないことを言ってくる。
「大丈夫よクロ。試しにそのダンジョンコアを破壊してみなさい」
「良いのかローズ。優良なダンジョンに変えるんじゃ?」
「大丈夫、大丈夫」と勧められるがままに、俺はダンジョンコアへナイフを突き立てた。
奥の方でコソコソと逃げ出そうとしていたドラゴンの雛が消え去っていく。
生き物らしくしているがモンスターはダンジョンの枝葉でしか無いので、繁殖して増えてもダンジョンの崩壊と共に消えるのが定めだ。
……モンスターが消えたのにダンジョンの構造物が消える様子が無い?
可笑しなことが起きているので周囲を見回す俺に、ローズがこのダンジョンの事を説明してくれる。
「このダンジョンは複数のダンジョンが繋がっている複合ダンジョンなのよ。一つがブレイクされても他のダンジョンがその存続を補って、時間と共に破壊されたダンジョンコアを再生させるわ。ほとんどブレイク不可能なダンジョンね」
「なるほど!」
ローズが目を付けるのも納得の堅牢なダンジョンだ……!
敵の特性が面倒でもブレイクしづらいというのは重要だと思う。
「初日からドラゴン肉! 幸先が良いね!」
「二人とも~! 早く帰ってお昼にしようよ~!」
おねえちゃんの目はアルテが掲げているドラゴン肉に釘付けだ。
ドラゴン肉は戦士が昔を思い出して食べたがるので、価格が高騰してしまう食べ物である。
ドロップする以外ではなかなか食べる機会が無い。
まだ障害を排除しただけで開拓は全く進んでいないけど、せっかくの高級肉なので新鮮なうちに食べて英気を養おう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます