第2話 【幸運な弟】寝床の姉

 

 消えたコボルトの居た場所にはもう一本の剣が落ちていたので、運の良さは俺も自慢できそうだ!


 おねえちゃんの弟な時点で最高に運が良いのだが。


「やったね! 流石はクロだ〜」


 おねえちゃんが振り返り緑の目を緩めて、喜び褒めてくれる。


「ガオー!」

 それを隙と見たコボルトが踏み込み、剣を突きこむ。


「ーォン?」

 その突きに対し、冷静に一歩下がったおねえちゃんが突きの終わりを油断のない眼で見極め。


「よいしょ~」

 目算を狂わされたコボルトに鋭い踏み込み一閃。


「ーッ!」

 首が刎ねられて即死したのかコボルトがすぐに消えると、おねえちゃんが更に踏み込んで、一瞬の事態に呆然としていた最後のコボルトに剣を振りかぶる。


「えい!」 「キャイン!」

 踏み込んだおねえちゃんは剣の腹でコボルトの頭を叩き、昏倒させた。



 思わず同情しそうになるが、これもダンジョンの狙いだとすれば恐ろしい。


「トドメを手伝って〜? 良いの出るかな?」


 物欲全開のおねえちゃんが、俺に倒させようとする。


 そんなに上手く行くかな?


 剣は腰に差し期待にキラキラと輝く俺の愛しき人の明るい緑色の目の前。



 ナイフで動かない相手の急所を突くと、昏倒したコボルトが消えて床に新たな剣が転がった!?


「クロ! すご~い!」

 小さな手のひらを重ね合わせ、それを頬に当てて喜ぶおねえちゃん。



 その後、おねえちゃんの喜ぶ顔が嬉しくて、新品のナイフがボロボロになるまで頑張ってしまった。


 「クロ、大丈夫? 帰ろうね?」



 初のダンジョンアタックでレベルアップした俺達は、大量の剣のレアドロップと共に帰ってきて受付の人に驚かれた。


 別室で事情を聞かれる程だ。




 おねえちゃんの移住用の書類の力で借りた部屋の中で、レベルアップした為に立士と打ち直された銅板を見て、今日のことを思い出していた俺は一息つくと部屋を見回し、ベッドに寛ぐおねえちゃんに尋ねる。


「おねえちゃん、ベッドが一つしか無い様に見えるけど、俺は床で寝るね?」


 すると、不思議そうな顔で返される。


「夫婦なんだから一緒で良いでしょ? ローズからジョーシキだって聞いたよ!」


 ローズはおねえちゃんに移住用の書類について知恵を授けた、俺の一個下のお隣に住んでいた才女で、おねえちゃんの親友だ。


 彼女は頭が良くガルト王国の南方にある、アテナ魔法学園でエリートの仕事である開拓の勉強をしている。


 おねえちゃんが持ってきた都市への移住書類は夫婦用の物で、俺とおねえちゃんは書類上では夫婦になっていた。


 個人的にはとても嬉しいけど、世間的には危険では……?


 ローズよ俺を一体どうしたいんだ?俺が何か……色々したな。


 ごめんローズ。


 現実逃避してエアローズに語り掛けていると、おねえちゃんに強い力で腕を引かれる。


 レベルアップの回数は同じだったけど明らかに力に差があり、絶望的な才能の差をまざまざと見せつけられながら引き寄せられる。


「ほらほら? 昔も一緒に寝てたでしょ?」


 ベッドの白いシーツをキャンパスにしてレベルアップ直後で美しく輝く黒リボンを解いた桃髪が広がり、端正な顔には俺のことを映す緑の目、寝る為に丈の短い薄着と細い首筋、にこやかな口元へ散らばる少し濡れた桃髪にドギマギしてしまう。


 今と昔では、かなり差があると思うよおねえちゃん!


「こっちだよ~」


 腕を握られたまま動けないでいると、楽しそうな顔でベッドに引きずり込まれて抱きしめられ、おねえちゃんの薄着越しの柔らかな体に密着する。


「ふ~ん?」


 俺の反応をきらりとした緑の目で観察して、頬ずりしたり抱きしめたりして悪戯してくるおねえちゃん。


「んふふ~」


 抱き寄せられ柔らかな物にぶつかりながら、おねえちゃんの抱き枕にされる。


「おねえちゃん……む……」


 理性よ……試練の日々に培われた鋼の理性よ……。


 俺と共に旅する最高の鋼の相棒よ……。


 悪いが、このあたりが俺の器ってやつらしい。


 もし願うこと許されるなら、俺の罪を許しまた共に戦友として……。


 ぐぅ……。


「寝ちゃったの? ローズの話と違うな~? 疲れたのかな? おやすみ~」





 夢を見ている。

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