第50話 【開拓猶予】強者の姉

 ベクターの持ってきた傭兵ギルドの冊子ではこうなっている。


 ・『大長』になったあなたは戦士としては『隊長』五人分に当たります。

 ・『大長』は八つ目のレベル、レベル八の事です。

 ・貴方は個人で大隊戦力級、他国の切り札である騎士百二十五人と同等。

 ・収入面では従士からは日給、時価となります。これはあなたが戦士としてあるための収入となりますので更に戦士的にあれるように向上心を持ちましょう。

 ・『大長』は大戦士まで残り二レベル、関連の法令も学んでおきましょう。


 毎度の五倍だがおねえちゃんと一緒にローズの顔を見ると随分嬉しそうで、目標の大戦士へ近づいている歯ごたえがあるんだろう。

 しかし、新しく出てきた関連の法令とは何だろうか?


「ローズぅ! 関連の法令って何~? 」


 おねえちゃんがすぐに聞いてくれて助かる。

 興味の目を向ける俺を横目に、ローズが嬉しそうに語り始めた。


「大戦士になると王国内の未開拓地を開拓する許可が下りるのだけど、それに関する法令ね。 代表的な物として、申請さえしておけば大戦士になる前に開拓した開拓地を大戦士になった後、そのまま治める事を許される開拓猶予制度があるわ」

「大戦士になる前に発見した有用な場所の開拓権利を守る制度なのか」


 もし帝国でローズが勿体ないと言ってたダンジョンが王国に発見されたら、利益の為に大戦士が大挙して開拓しようと集まり、大変なことになりそうだから必要な制度だな。


「大戦士になる為に効率の良いダンジョンブレイクを未発見のダンジョンを探して繰り返すから、発見されてない有用なダンジョンや遺構を発見したら確保して自分のモノに、開拓地の目玉にしたいじゃない? 後は猶予三年という期限を設けることでレベルアップの抗老化で時間のある戦士たちを急かすのも目的ね?」


 確かに俺達はこれで六十三年はこの姿のままなので時間に余裕があるけど、国としてはドンドン大戦士として開拓してジャラジャラ税金を収めて欲しい事だろう。


 目を逸らしていたけど、この姿で六十三年……背は諦めよう……。


「若い姿なら若い姿なほど有能な戦士として扱われる。 それだけレベルを上げるのが速いと言う事だからね。 高レベルで若く見られるのは得なのよ?」

 目線を落とす俺の様子を見て俺と同じくらいのコンパクトスタイルなローズは手を広げて高レベルの若い戦士は有能な戦士だと力説する。


「全部、おねえちゃんのお陰なんだが……」

「人脈も力ね? 強者の仲間はそれだけで強者なのよ」


「いつも通り誇らしそうにしなさい?」とローズが笑い身も蓋も無い事を言うが、確かにおねえちゃんと一緒にいるという事実だけで強くなれてる気がするぞ!


 いつの間にか甘い芋に夢中になってるおねえちゃんを見て、思いを新たにする。

「おねえちゃんすごいよ……!」

 

「仕方ないな~。分けてあげるよ?クロ」

 急に俺が褒めだしたので勘違いしたおねえちゃんは緑色の優しい眼でこのあたりでは手に入らないガルト産の甘い芋を分けてくれて一緒にホクホクと頂く。


 甘い芋を齧り、宿泊船の中庭から水面の夕日を眺めていると、あの魔導盾に守られた都市アテナの宿が懐かしい、まだ旅を始めて十日もしないのに戦士と魔導鎧の機動力はとんでもなくて随分遠いところに来てしまった。

 

 こちらの席にエテルナが近づいてくる。


 いつも全員が揃って人数が多いと俺が落ち着かないだろうと言う事で気を使ってもらって、ありがたい事に付き合いの長い戦友たちとそれ以外で宿では別々の時間を作ってもらってるんだが何か相談だろうか?


「提案があるのだ」と口火を切った白いスーツ姿ののエテルナは続ける。


「なぁに?エテルナ」と芋から顔を上げたおねえちゃんが代表して応じる。


「レベルアップで疲労が抜けただろうから、旅の予定を前倒しにして明日オーヴァシーを発つ事を提案するのだ」


「皆元気いっぱいだから、いいよぉ!」

 小さな口の横にちょっと芋のついたおねえちゃんの即答により、明日は此処を発って少しだけローズから話を聞いているクレイドルへ向かう。


 俺はハンカチを取り出し肩を叩いて此方を向いてもらった、おねえちゃんの口元を拭きながらエテルナに聞いておく。「ありがと、黒!」


「どうして急に前倒しに?」


「歓待に無理をさせてる。 イーグルが効きすぎたのだ」

 確かに船の方からやってくる様な、目茶苦茶な歓待だったけどそういう理由だったのか……!


「お互い気持ち良く、歓待し歓待されようってことね」

 ローズが話を結び。 頷いたエテルナが宿の従業員に話を伝えると、昨日と同じく慣れてきた暖かい泉を楽しんだ後、全力を尽くす様に豪勢な夕飯に舌鼓を打つ。

 ダンジョンが無いので狙って狩りに行けないだろう肉まで出てきて、これは俺たちが森で得たものを高額で売り払ったものだったりするので、ベクターが気まずそうにしているのをアルテが笑い飛ばしてるのが印象的だった。


「悪いことをしている気分だよ」

「わはは! これが戦士の商売だよ!!!」


 夢を見ることも無く、橋の国の夜は更けていった。

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