第42話 【鷹宅急便】軍隊の姉

 薄暗い木陰に染められた魔樹の森の木々を目立つ銀の鳥がすり抜けていく。

 俺たちは蓋を外してどうにか胴体に括り付けたコンテナに乗せてもらって、荷物や戦利品はコンテナに詰めてイーグルが足で直接掴む鷹の宅急便だ。


 □森の中を飛ぶのも新鮮だけど、空高く飛べないのは残念だな~□


 眼下の橋に沿った上で細かい枝や他の魔樹に倒れ掛かった魔樹も、ぼやきながらスルスル回避していく。


 声はコンテナ内に固定した魔道具から聞こえてくる。


 □空を飛ぶのに邪魔な存在の生産場所を壊しに行くんだよね~?□


 制限とやらが解除されて、随分砕けた口調になった二頭身おねえちゃん改めイーグルが聞くがその姿は飛んでるのに余所見をしている緑の複眼が振り返って映し出している。


「危ないな!?」

 □高速演算があるから、大丈夫だよ~□


 悪夢の真っ先にやられた戦艦も自慢してたが、なんだか凄い物なのか。

 考え込んでいるとローズが嬉しそうに答える。

「そうね、ここにいるチェルシーが国に頼まれて、勇者として元を断ちに行くわ」

「そうだよ~!」


 おねえちゃんが同意するとイーグルは興奮し始めて飛行が荒々しくなる。

 □ユーザーは勇者!凄いね!勇者の手伝いをする私も凄い?□

「イーグルは凄いよ~!」

 

 おねえちゃんの更なる同意に銀の鳥は魔樹を障害に見立ててスラローム飛行を始める。俺たちに気を使ってゆっくりと飛んでいるけど、すごいお調子者だぞ?

 グルグルと切り替わる景色に皆参っていて、これはもう既に戦闘機動なのでは…?


 □アンノウン発見だよ~!□


 哀れにも銀の猛禽の通り道に歩いていたモンスター達が補足されてしまった。


 イーグルの横に魔物の姿が次々と流れて、復活したおねえちゃんが許可する。

「みんな敵だ~!倒してもいいよ~!」

 すでに一門だけ回転していたバレルの化け物が火を噴いて一秒もしないうちにモンスター集団は消えていった。


「ぶはは!ひれ伏せー!偶にはこういうのも良い気分だ!!」

 楽天エルフが無情な掃射を肴に新芽を咥えている。

 見つめていると一つ分けてくれるが、抜け目なく回収してたのね。


 □命中率97%かぁ対地目標に至近で不意打ちだから、こんなもんかな?□


 □前だったら、絶対許可されないよ~!□と楽しそうなイーグル、これって暴走してるのでは…?危険な暴走機械を開放してしまったのでは?


「あの連射でその命中率、恐ろしいんだよ?」

 □高速演算戦闘だからね~。当たり前だよ~。一日で撃墜マークがこんなに~!□

 黒騎士が危険度評価すると撃墜マーク云々まで言い始めたぞ!!?

 どや顔のかわいい二頭身おねえちゃんの横にC級魔物の撃破記録が流れ始める。

 気分転換に新芽を咥えるが、甘いはずの新芽の味がしない、不思議だ。


「撃墜マークは軍での物ね。気になるのだけど、どこに所属してるの?」

 怪しんだローズが所属をサラリと聞くと驚愕の所属が返ってくる。


 □勇者チェルシー軍飛行隊所属のイーグルだよ~!□

「なんて?」

 □勇者チェルシー軍飛行隊所属のエース!イーグルだよ~!見てね?□


 二頭身おねえちゃんの横に今までの転属先と思われる文字が流れていき最後、本当に勇者チェルシー軍に所属と書かれている!?


 □ユーザー登録の不具合修正の為にこじつけたんだ~!皆も登録してあるよ?□


 新しく流し始めた文字には皆の名前が有る!?


「最高の制御力を持つシールド氏以外が旧文明の軍事兵器にユーザー登録出来た絡繰りはそれだったのだ?」

 黙って様子を窺っていた花々しい騎士が確認すると□その通り!□と簡潔な答えが返ってきて続ける。


 □ユーザー権限が解放されてるから、好き放題に出来るよ~?□


「夢かなぁ?下手な暴走機械より危険だよ?あむ…現実だよ」

「おねえちゃん、すごいよ…」

「結局それなの?同意だけど」

 ベクターが遂に現実確認の為に指を噛み始めたがこれは現実だ。

 ローズも並んでおねえちゃんの凄さに同意してくれる。


 そんなことを話してる間に巨大な湖とそれに架かる途轍もない大きさの橋が見えてくる。


□凄いことをやるね?例の危険生物、ドラゴン?対策かな?□

イーグルが大きな橋に驚いている。


「あれが木工と水の国オーヴァシーなのだ」

白騎士が懐かしそうに告げる。


「検問は橋の前だからそこに下りて!普通に下りただけでも大騒ぎだろうな!!」

楽天妖精が楽しそうに告げて、俺達は巨大な橋の始まりへ降り立っていく。

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