第21話 【楽天妖精】新妻の姉

 現れたエルフは美しかった。

 精密とでも称するべき作りの綺麗な顔立ちに空色の目、ローズと違う銀にも見える長い金髪を前髪も後ろへ流して、銀のサークレットで留めている。


 背の高さは俺と同じくらい。平坦な体に白いコートを着ており、その内側には大量の護符が見える。横向きで背中に背負うのは大きな黒い弓だ。


「僕はアルテマ、エリンの森のアルテマさ。楽しいことが好きでね? 宜しく頼むよ!」

「これから旅の予定だし、遠出になるわよ?」


 話してみる事にしたらしいローズが確認する。


「僕はもう森を出て自由にしてるんだ。面白いものが見たくてね?」

「いいよ~! 東の町に出発~!!!」


 おねえちゃんが珍しい旅の仲間にテンションが爆発してる!?

 俺の意見は!?

 女の子ばかりで、俺が孤立してない!?


「……」

「諦めなさい。こうなったチェルシーは止まらないわ」


 ローズが俺の肩に右手を置いて慰めてくれる。


「黒一点とは君も面白いね! 魔導鎧も砲無し真っ黒! あまり見ない型だ!」


 エルフは、俺の状況と装備を見て面白がっている。

 

 エリンの森は周辺国から軍隊の焼き討ちを受けて、壊滅した森だ。

 森にすむエルフは、レベルの上昇無しに何百年も生きるという話を聞く。

 長寿命なら、戦士として期待できるだろう。


「私はチェルシーだよ~。クロのおねえちゃんで~、妻です!」


 おねえちゃんが自己紹介のついでに衝撃のカミングアウト!?

 一緒に旅をするなら伝えてあった方が色々とスムーズだけど、早すぎない?


「ふふふふふ!! 面白い! 君たち面白いよ! 良いね! こうでないと!」


 アルテマは爆笑している。

 面白がっているだけで否定はしてこないみたいでありがたい。


「私はローズ、参謀のようなことをしてるわ」


 ローズが赤い魔導鎧の胸を張り自己紹介をした。

 彼女は俺達の参謀役だ。一緒に活動するようになってから、物事がスムーズに進んでいる。


「僕、考えるのはニガテだからお任せするよ!」


 面白いの事のため、飛び出すくらいだから適当だな!?


「俺はクロ、夢見が悪いことが有る。迷惑をかける」


 事実を伝える。

 精神力が高まると言われても、まだ悪夢らしい悪夢を見ていない。急に迷惑をかけるのも良くないので、伝えておくべきだろう。


「トラブル込みで旅さ! 楽しもう! チェルシーの婿、クロくん!!」


 なんでも楽しそうな楽天エルフは俺をからかう。

 何でも笑い飛ばしそうなその様子に、少し救われた。


「行こうね〜新婚旅行だ〜!」


 おねえちゃんが俺とガッチリと腕を組む。


 柔らかい二の腕と大きな膨らみに挟まれて、腕が幸せだ……!


「行こうか。おねえちゃん!」


 そのまま二人で街道に優しく走り出す。


 やっぱりおねえちゃんのピッチについて行けなくて、待機状態の魔導鎧と荷物を背負ってるのに俺の足は宙を掻き始める。闘技場の時に理解したけど、こうなってしまえばお手上げで、おねえちゃんに身を任せるしかない。


 おねえちゃんの一歩ごとに景色が一気に流れていく。

 街道を傷つけないように優しいふわりとした歩き方だけど、その歩幅はとんでもないことになっている。一歩一歩の歩幅がとても長いので、まるで地表を飛んでいるみたいだ。龍魚を釣った大河を大きな橋で越え、少し小さな街道を往き、飛び出した小鬼を跳ね飛ばして木漏れ日の林を抜けた。


 二回目となると俺は慣れたものでおねえちゃんに身を任せている。


 結果、持ちやすくなった俺は、おねえちゃんの人間付き背嚢といったところだ。

 おねえちゃんが楽しそうだし、前方は見えるから問題無い。


「待ちなさい! チェルシー!」

 ローズは徒歩で追いつくのを諦め、赤い魔導鎧を展開しての魔導スラスターで楽しそうについて来てる。

 アルテマは……。


「本当に面白い!!」


 真横を走って俺達を観察している!?


 流石は長命種、小さいが実力者なのかもしれない。

 新しい同行者を加えて俺たちの新婚旅行は開幕した!

 親友と知らない同行者を加えて、ただの旅なのでは……?


 #####


 あれは何だろうか。

 街が襲撃されそうになっている。百人近くいる襲撃者の装備は統一されており、まるで軍隊だ。


 緊急時の行動は決めてある。

 まずは判断を仰ぐためにローズと相談だ。おねえちゃんは立ち止まって俺を横に置いてくれた。


「うふふ! くくくく! トラブルに愛されてるのかな? 僕を休ませて?」


 トラブルすら娯楽と豪語していた楽天エルフ。

 彼女は何が面白いのか、弓を放り投げて笑い転がっている。


 白いコートが草まみれになってるぞ。


「手を出すべきじゃない。あの町は大戦士がしっかり守ってるわ」

「ローズぅ! 大丈夫なの? 大戦士って何~?」


 おねえちゃんの質問にローズが嬉しそうに答える。


「大戦士は、レベル10以上の傭兵の事よ。大戦士は国から自分の土地を開拓する事を許されるの。街の開拓に成功した者は、そこの傭兵ギルドマスターとして、街を守っているの。ギルドマスターが王国の最精鋭というのは常識ね」


 ジョーシキが言えてローズが嬉しそうだ。

 おねえちゃんはさらにローズに絡みついて桃髪と金髪が絡んでいる。


「婿クン! 嫉妬しないとダメだよ! 嫉妬!」

「おねえちゃんが楽しいなら良い」


 面白そうな顔でアルテマが俺を煽るが、おねえちゃん原理主義の俺には効かない。


 遠く離れた町から、槍を持った巨大な襟のマントを羽織った老人が出てきた……?


「ローズぅ! あの町ってどこ? あの人だれ?」

「あの町はクルトの町よ。服装からしてギルドマスターね! ……! スキル攻撃が来る! チェルシーとクロは魔導鎧を起動して! アルテマは回避準備!」


「槍よ輝け」


 遠くに居るはずの老人の声が妙に響く。


「ジャベリンレイン! 地面と平行に流れる光槍の雨よ! 気を付けて!」


 即看破したローズの警戒が飛ぶ。アルテマは構え俺たちは魔導鎧を起動した。


「流れ弾でも絶対に当たってはダメ!」


 老人の言葉通りに槍が輝くと投擲、100人近い襲撃者へと光る槍が突っ込んで行き、老人と襲撃者の間で無数に分裂し、呆然とする襲撃者へ襲い掛かった。


 連続した衝撃音と絶望の叫びの後、襲撃者の居た辺りには大量のクレーターが発生していた。運良く生き残ったらしい数人が逃げ出していく。


「あれがギルドマスター、ガルト王国の最精鋭よ」

 ローズが誇らしそうに赤い装甲に包まれた胸を張る。


「ローズは成りたいんだよね! クロと一緒に手伝うよ~!」

「やれるのか? ローズ」

「当然だわ! よろしく頼むわね?」

「良いもん見たね!」


 ローズの高すぎる目標に、おねえちゃんの目は爛々としている。


 楽天エルフは、いつの間にか観戦モードになっており、干し肉をかじっている!?


 こちらの存在を把握していたらしいギルドマスタークルト氏が手招きしてくる。

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