第38話 なんちゃって武装集団

 ユキが引く馬車の横を歩くこと半日、夕暮れ前になって遠くに村っぽい集落が見えてくる。

「ふぅやっと着いたか~意外と遠かったな~」

「ホントね~」

「ミラは馬車に乗っていただけだろうが!」

「あ~言ったわね~ただ乗っているだけでも意外と疲れるんだからね。ねえ、アンナ」

「あなたは殆ど寝ていたでしょ。御者は私とフクに任せっきりにしちゃってさ」

「な、何を証拠に!」

「ミラ、口元に涎の跡があるぞ」

「うそ!」

 俺が指摘するとミラが慌てて口を拭う。

「ねえ、兄ちゃん。そんなことよりも、ほら! アッチで騒いでいるよ。アッチをなんとかした方がいいんじゃないの?」

「アッチ? ああ、村の前に人だかりが出来ているな。確かにこっちを指差してなんか言っているっぽいな。まあ、後ろの世紀末覇者の馬車を子供が牽いているんだもんな。遠目でもこの馬車は目立つか。まあ、しょうがない。行ってくるか。アンナ、お願いしていいか?」

「お供ですか。いいでしょ」

「あ、ズルい。なら、私も行く!」

「「ミラはダメ(だ)!」」

「もう、なんでよ~!」

 ミラが納得いかないという顔をする。まあ、顔は仮面で見えないがな。

 そして、不満を口にするミラに分かる様に俺が自分の頬をトントンと突くと、ミラが「何? 顔に何か着いてる? あ!」となり、察したようだ。

「そういうことだ。分かったなら、馬車で皆と一緒に待ってろ」

「分かったわよ。ふん!」

 ミラが馬車の中へと入り、ユキとフクには呼ぶまで動かないように指示してからアンナと二人で人だかりが出来ている村へと向かう。


 村の手前まで来ると、単なる人だかりと思っていたが手には武器ではないが鍬や鎌に棍棒らしき物まで手にしている。

「なんだか物騒ね」

「まあ、アレを見たら、そうなるだろうな」

 俺は後ろを振り返り、アレ……世紀末覇者の馬車を見る。


「それより、今はアッチだな。よし、行くぞ」

「あまり、気が進まないですね。ハァ~」

 アンナが気が進まないと言うが、それは俺も一緒だ。なんせ武装集団と正面からやり合わないといけないからな。

 スゥ~と一度、深呼吸をしてから一歩、集団へと歩み寄る。すると、その集団が一歩下がる。

「ん?」と思いつつもまた一歩進めると、一歩下がる。更に一歩進むと、また一歩下がる。

「アンナ、どうすればいいと思う?」

「そうですね。このままじゃ埒があかないですね。あの~いいですか?」

 アンナが武器を構える集団に声を掛けると『ビクッ』と反応したあとに一人の男が答える。

「あんたら、何しに来た!」

「何って、旅の途中で……出来れば、この村に寄らせて頂ければと考えております。ダメでしょうか?」

 アンナに縋るように見詰められ、男は一瞬、ドキッとするが周りから突かれ正気を取り戻す。

「ダ、ダメだ! 今、この村にはあんた達を世話する余裕はない! いいから、帰れ!」

「いや、帰れって言われても……ねえ、どうするのシン!」

「どうするって言われてもな~」

 チラッと集団を見ると集団が『ビクッ』となり手に持つ武器? を身構える。

「俺達でよければ話を聞きますよ?」

 俺がそう言うと集団が騒つく。

「言うだけはタダだ」

「ん、そうだな」

「でも、あんな若造だぞ?」

「いや、でもあんな馬車に乗っているのがいるなら……」

「子供に牽かせているんだぞ。最低な奴に決まってる!」

 やっぱり、訳有りみたいで皆手に持っている武器を下ろして話し合っている。目の前にいる俺達のことを忘れて……最低って言われたけどな。


 しばらく待っていると、集団での話しあいが終わったのか、さっきの男が代表として前に出てくると「頼みがある!」と頭を下げてきた。


「あの、顔を上げて下さい。まずはお話していただかないことには私達も対処が出来ませんから」

「あ、そうですよね」

 男が顔を上げ、そう答える。

「なあ、話は聞くから、とりあえず中へ入れてくれよ。絶対に損はさせないからさ」

 男が俺の言葉を聞き、後ろの集団を見ると、その集団の面々が『うんうん』と頷くのを確認したのか「分かった」とだけ言い、村の中へ入ることを了承する。

「ありがとな」

 俺はそう言って、馬車で待つフクと、その後ろの世紀末覇者の馬車の連中にも合図し、村へ来てもらう。


 村に着くなり、フクが馬車から降りると俺に言う。

「兄ちゃん、長いよ~」

「まあ、そう言うな。それに俺の勘だけどな。多分、この後にお前が好きなことが待っているぞ」

「俺が好きなこと? 何それ! どういうこと?」

 馬車で待たされていたことも忘れ、フクが俺に聞いてくる。


「それは皆が集まってからだ」

「え~いいじゃん、話してよ!」

「俺だって、まだ聞いてないんだよ。だから、お前も大人しく待ってろ。な?」

「ぶ~」


 アンディが牽く馬車もやっと村に入ったと思うと、村の子供達が馬車の周りを取り囲み、興味深そうに見ている。

 中には馬車にそっと触れようとしたところを「よしなさい!」と親に窘められシュンとなる子供もいたが、中から同じ歳くらいの子供達がゾロゾロと出てくるのを見て、顔がパァッと明るくなる。すると、自分を止めていた親を見る。その親はアンナを見る。そして、アンナは俺を見る。俺はアンディに「任せる」と便利な一言で済ませる。

「シン……いいんですね」

「俺はお前に任せる」

「分かりました。ならば、好きにさせてもらいましょう!」

 アンディはそう言うと、こっちに興味津々だった男の子のところに行き「皆と遊んでもらえるかい?」と聞くと男の子は力強く頷くと子供達の所へと掛けて行く。

 そして、それに触発された他の村の子供達も親の手を振りほどき一斉に駆け出す。

 俺はその光景を微笑ましく見ていたが、アンディの言った言葉が俺の胸をザワつかせる。

『いいんですね?』と言ったアンディの真意はなんだ?

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