第37話 世紀末覇者でも恥ずかしいと思うよ
散らばった馬車の残骸をかき集め、なんとか使えそうな部材を選り分け、さあ馬車を作ろうとしたところで、フクが妙なやる気を出して「作りたい!」と訴えてきたから不安は山盛りだが任せてみることにした。
「なんで任せたんだろう? もし、あの時に戻れるなら俺をぶん殴ってやりたい」
「すみません。言われていたので、気を付けていたのですが……」
「アンディも『格好いい』と思ったんだな?」
「はい、その通りです。でも、いいと思いませんか?」
「俺はいいよ。それには乗らないからさ」
「じゃあ「待て!」……え? どうしました?」
「俺は乗らないと言ったが、実際に乗る子供達とアンナ達の意見は聞いたのか? まあ、子供達は聞かないでも分かるが……な」
「分かりました。ちょっと聞いてきます!」
アンディが出来上がった馬車についてのアンケートを取りに行くと、ユキが俺の側に寄ってくる。
『シンよ。アレを私に引けと?』
「そうみたいだよ。大変だね」
『どうにかならないのか?』
「どうだろうね。だから、そうならないように見張りというか監視をお願いしたんだけどね」
『……』
「どうした?」
『私は止めた! 止めたんだ! それなのにアンディと一緒になって、いろいろとゴテゴテした装飾を始めて……そして、それを見た子供達が一緒になって……アレを私に止められると思うのか!』
「ご、ごめん」
放っておくと血の涙を流しそうなユキをなんとか宥めて、一緒にご満悦なフクの元へ向かう。
「兄ちゃん、どう? 僕的にはイマイチなんだけど、格好いいでしょ?」
『さあ、褒めてくれ!』とばかりに自慢気にフクプロデュースの馬車をお披露目してくれた。
そして、改めて近くで見た感想が自然と漏れる。
「世紀末覇者の馬車だな……」
「さっすが! 兄ちゃん。分かってくれたんだね。僕の狙いは、まさにそれなんだ!」
フクがはしゃぐ横でユキが俺のことを睨んでくる。暗に『お前のせいか!』と言われている気がするが、気のせいだろう。
だが、このままじゃ悪目立ちするばかりだし、ここは心を鬼にして言うしかない。
「フク、世紀末覇者が乗るのなら、その世紀末覇者は誰なんだ?」
「それは兄ちゃんでしょ?」
「俺が?」
「そうだよ! ピッタリじゃん!」
そう言ってはしゃぐフクの目を見て話す。
「いいか、フク。俺の格好をよく見ろ。どこからどう見ても一般の冒険者だろ?」
「ん~言われてみれば、モブ中のモブって感じだね」
「モブ……」
フクからそう言われ、思わず膝を着きそうになるが、なんとか気を取り直して、フクに話す。
「そうだな。俺はどう見てもモブだ。そんな俺がこの馬車に乗っていると近隣の村から攫われた奴隷にしか見えないだろ? それに元は子供達の為の馬車だ」
「そうか。兄ちゃんの言う通りだね。でも、その子供達は喜んでいるよ。ほら」
フクが自慢気に馬車を指すと子供達が世紀末覇者の馬車に群がっている。そして、その側で微妙な顔で見ているアンナ達女性陣がいる。
そして、ユキが俺を見て『どうにかしろ!』と圧を増してくる。
「フク、確かに子供達は喜んでいるが、今いろいろ目立つのは避けたいんだ。その理由は分かるだろ?」
「分かるけど、どうしてもダメ?」
「ああ、今はガマンして欲しい」
「分かったよ。セカンドチョイスってやつだね。じゃあ、しょうがないか」
「ん? もう一台あるのか?」
「うん、部品が余っていたからね。はい」
そう言って、フクが無限倉庫からもう一台の馬車を出す。
「うん、思いっきり普通だな」
「でしょ? だから、面白くないと思って、アレになっちゃった」
「そうか、ユキ! これならいいよな?」
『ああ、これなら喜んで引かせてもらおう』
「え~格好良くないじゃん!」
「じゃあ、世紀末覇者専用の馬車は仕舞うね」
そう言って、子供達をかき分けて馬車の元に辿り着くと子供達を下がらせてから無限倉庫に収納する。すると、一斉に子供達からブーイングを浴びせられる。しかも一番大きな声を出しているのがアンディだったりする。
「「「ブ~ブ~ブ~!!!」」」
「アンディ、隠れているつもりでも、一番声が大きいからな」
俺がそう言うとブーイングが次第に小さくなっていき、アンディがバツが悪そうに俺の元へと来る。
「すみませんでした!」
アンディが俺の元に来るなり、土下座で謝ってくる。
「いいよ、いいよ、気にしてないからさ」
その場ではそう言って、事を納める。
そして、子供達が不満そうにしているが出発することを告げ、ユキを繋いだ馬車に乗ってもらおうとしたんだが、子供達は乗ろうとしない。
『どうするんだ、シン。まさか、子供達が乗らないからと、アレを引けとは言わないよな?』
「言わない言わない。まあ、引くのはユキじゃないけどね」
そう言って、無限倉庫から世紀末覇者仕様の馬車を出すと、子供達は我先にと乗り込む。
そして、それを見たミラが俺に言う。
「ねえ、子供達を乗せるんじゃなかったの?」
「ああ、そのつもりだったんだけどな。とりあえず、こっちにはお前達が乗ってくれ」
「それは私達にはうれしいけど、アッチはどうするの?」
「まあ、考えがあるから任せとけ。アンディ!」
馬車に乗っていたアンディを呼ぶと「頑張れ!」とだけ、言ってユキが引く馬車の元へ。
「え? どういうことです?」
「言葉通りだよ。お前が頑張って、あの馬車を引くんだ。まあ、一つの訓練だと思えばいいさ」
「無理ですよ! 本気ですか!」
「ああ、本気だ」
「嘘だ! さっきのことを根に持っているんだ!」
「ほう、だからなんだ。それに『敬語』を忘れているぞ!」
「あ! すみません。でも、無理です!」
「そうか、ならちょっとだけ手伝ってやろう。『アリス!』」
『はいは~い! お任せあれ! えい!』
アリスが唱えた瞬間にアンディに『身体強化』のスキルが付与される。
「シン、これは?」
「ああ、『身体強化』スキルだ。このスキルを使えば、あんな馬車くらい訳ないだろう」
「わ、分かりました。やってみます!」
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