第35話 だから、イメージだって

 しばらくの間、魔法が発動出来たうれしさで、はしゃぎ回り疲れたアンディが息を切らしながら言う。

「はぁはぁ……あの、他の子達にも教えてもいいですか?」

「まだだ」

「どうしてですか?」

 アンディが何がダメなのかと詰め寄って来る。

「いいか、お前はまだ、やっと魔法が使えた程度だよな」

「はい、そうです」

「赤ん坊に例えるなら、やっとハイハイが出来た程度で、まだ走るどことろか歩くのもおぼつかない。だよな?」

「ええ……そうです」

 俺の説明に多少ムッとしながらも返事をする。

「その程度で教えていたら、アッという間に追い越されるかも知れないし、立ち上がろうとしているのを邪魔することになるかも知れない。転んで怪我をするかも知れない。その時、お前はどうする? 何が出来る?」

「シンは俺がアイツらに教えるのは、まだ早いと……そう言うんですね」

「要はそういうことだ。お前が教えて、何かあった場合に押さえ込むことが出来ないからな」

「でも……」

「焦るなって。それにほら、見てみろ」

「え?」

 アンディを振り向かせると、そこにはフクが子供達に魔法を指導していた。中には『火球』と『水球』を同時に発現させている子もいた。

「え! 俺はまだ教えてもらってないのに……」

 二つの魔法を同時に扱う子を見たアンディが悔しそうに俺を見る。魔法はイメージだから何も固定概念がない小さい子ほど習得しやすいのだろう。

 しかし、それを知らないアンディはただただ悔しそうに子供達を見ている。

「どうした?」

「俺に……俺に教えて下さい!」

「教えてるじゃないか」

「足りないんです! 俺は……俺はもっと強くなりたい!」

「どうして?」

「……」

 強くなりたいから魔法を教えて欲しいと願うアンディに理由を聞いても黙ったまま、何も言わない。

「どうした? 言えないのか?」

「守りたい! 俺はアイツらを守りたいんだ! だから、その為に強くなりたい! シン、俺を強くして下さい! お願いします!」

「守りたいって言うが、何から守るんだ? 魔物から守りたいと言うなら、どこかの村か町に入れば、その必要はないだろうし、それに強くなりたいのなら魔法より剣術とかじゃないのか?」

「それは分かっています。分かってはいますが、強くなるための方法が分からないんです」

「そうか、分かった。なら、約束だ」

「また……約束ですか」

「そうだ。また約束だ。イヤか?」

『約束』と言うとアンディがうんざりしたような顔になる。


「分かりました。約束します。だから、シンも俺を必ず強くしてくれると約束して下さい!」

「ゴメン、それは無理だ」

「なんでですか!」

「まあ、聞け。強くなるっていうが、どうなればお前は強くなったって納得出来る?」

「それは……」

「な、難しいだろ。それにだ、お前が強くなっても他のがそれ以上に強くなっていれば、どうなる? お前は俺を嘘つき呼ばわりするか?」

「ぐっ……」

「だから、判断基準がないから、約束が出来ないって訳だ。分かったか?」

「なんとなく……」

 必要なら手合わせだけでなく、他の子と試合なりすれば自分の強さも分かるだろう。だが、試合は試合だ。


「まあいい。で、約束の内容だが『焦らない』『頑張りすぎない』『調子に乗らない』の三つだ。簡単だろ」

「はぁ。『焦らない』ってのは、なんとなく分かります。『調子に乗らない』ってのも」

 アンディが魔法を嬉しそうに発動する子供達を見て言う。

「でも『頑張りすぎない』って、どういうことです? 強くなるのなら頑張らないとダメじゃないですか!」

「ソレだよ」

「え?」

「もう、『頑張らなきゃ』って焦ってるじゃないか」

「あ!」

『焦るな』『頑張るな』か……社畜時代の俺に誰か言ってくれてたら、人生変わったのかな~まあ、結果的にあの時と比べたら大きく変わったけどな。

「そんなに焦らなくても地道にやっていれば、十分に魔法も剣も使えるようになるから。いや、違うな。イヤでも仕込んでやるから心配するな」

 アンディにそう話した後にニヤリと笑って見せる。


「へ?」

「だから、俺が教えるんだから焦らなくても大丈夫だって」

「どういうことですか?」

「まあ、疑うのも分かるがな。まずは手始めに魔力制御から鍛えようか」

 やはり、魔法を上手に扱うのなら、魔力制御を覚えるのが一番だろう。コツさえ掴めば色んなことが出来る様になるしな。

「魔力制御ですか?」

「ああ、今は一つだけ発動しているだろう。これを二つにしようか」

「え! 無理です!」

「なんで?」

「なんでって……無理でしょ?」

「無理か? 俺は出来るぞ」

「それは……シンだから?」

 アンディの言葉に少しイラッとする。

「はぁ、そこからか。いいか? 魔法はイメージだと話したよな」

「はい」

「なら、出来ないってことはないだろ」

「ですが……」

「やってみたのか? 現にやっている子を見ただろ?」

「あ! 確かに」

 俺にそう言われ、アンディが子供達の方を見ると、互いに魔法を打ち合っていた。しかも右手で発動し、左手で障壁の様な物を発動させて向かってくる魔法を防いでいる。

「え? なんで?」

「やっぱり、少しは焦った方がいいと思います」

「そうだな。ビシビシと鍛えてやろう!」

「え? さっきと違う」

「過去を振り返るのは歴史学者だけだ。ほら、まずは五つ出してみようか。ほら!」

「え~」

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