第26話 決断

 チャーリーとカレントを会わせることでチャーリーの貴族としての考えをカレンに伝えることは出来たと思う。

 そして、チャーリーと話した内容は洞窟に残っていたオリヴィア達にも漏らすことなく伝えた。


「うそ……あの、お兄様が……」

「嘘じゃないぞ。俺も肉親と言うことで期待はしたんだがな。結局はチャーリーの身分が脅かされるものの一切を排除したいというのが、アイツの考えだ。まあ、俺でもそうするだろうな」


 オリヴィアとカレン以外は前に俺が話した内容と変わらなかったのでそれほどの落胆はなく、やっぱりねという感じだ。だが、カレンの表情は沈んだままだ。やはり、貴族としての考え方、平民の命の軽さを頭では理解しても腑に落ちないものがあるのだろう。


「アンナ、もう俺にやれることはない。カレンをチャーリーと会わせて、あいつの怯えていること、オリヴィアやアンナ達が生きている間は、それがずっとついて回ることはカレンも理解出来た筈だと俺は思う。だけど、それをカレンがどう理解しているかは、また別のことだ。だから、あとはアンナ達で話し合ってくれ。俺に着いて来るなら、ある程度の保証はしよう。だが、ここに残る、街に戻ると言うなら、ここでお別れだ」

「そうね、そうなるでしょうね。でも、お嬢さんは連れて行くんでしょ?」

「ああ、そうだな。アイツは戻っても殺されるのは分かっているからな」

「そう、分かった。話し合ってみるわ」

「あと、カレンが街に戻ってもカレンの家族だけじゃなくアンナ達の家族も処分されるだろうってことは分かってるんだよな?」

「そうよね。問題はカレンだけじゃないのよね。だけど、無理にカレンを止めようとすると……」

「他の連中がカレンを害するかも……ってことか」

「そう、それが心配なの」

「だけど、カレン一人がここに残っても、正直街まで辿り着くのは奇跡でも起きない限りは無理だと思うぞ」

「そうなのよね。結局、カレンはいつ破裂するか分からないのよね。違う街に着いてから、カレンが知っていることを腹いせに周りに吹聴すれば、いつかは私達の街に届くんでしょうね。そうなると、シンが予想していた通りのことが起きる……かも知れない」

「そういうことだ。俺としてはカレンを残して行くことをお勧めするがな」

「最悪、そうなるってことね。分かったわ。助言、ありがとうね」


 アンナと話し終え、ユキをモフっているとフクが言う。

「ねえ、その領主一家をどうにかしちゃえばいいんじゃないの? 兄ちゃんなら簡単に出来るじゃない」

「まあ、考えなくなはないがな」

「なら……」

「確かに簡単だろ。だけど、その後の領地の人達の面倒はどうするつもりだ?」

「それは、残った人達でなんとかするんじゃないの? だって、大人なんでしょ?」

「そうだな。でもな、領地経営は確かに子供じゃ無理だが、大人なら誰でも出来ると言う訳じゃない。俺でも出来ない」

「そんなの、やってみなけりゃ分からないんじゃないの?」

「そりゃな。でも、やってみて出来ませんじゃ皆が困るだろ」

「そうだね」

「それにな、領地経営は貴族が王から貴族が指名される形で運営されるんだ。だから、もし俺が領主家族を誅殺して領地を頑張って運営したとしても、王族からは『領地の乗っ取り』と認識されて犯罪者扱いされ、王国から兵が押し寄せて来るだろうな」

「変なの。なら、王族をどうにかすればいいんじゃないの?」

「ふふふ、それは領地が王国へと範囲が広がるから、とてもじゃないが面倒なんてみれないぞ」

「それもそうか。なんか面倒だね」

「だから、俺は手の届く範囲だけしか面倒をみないようにしているんだ」

「そっか」

 フクは俺から話を聞いて満足したのか、そのままユキにもたれ掛かると、そのまま静かに寝息を立て始める。

『フクなりにどうにかしようと頑張ったみたいね』

「そうなのかもな」


『シン、チャーリーに動きがあったわよ』

「なにを始めたんだ?」

『チャーリーに与する人間を集めているようね。親を追い出す準備を始めたみたいよ』

「そうか、こっちには手を出して来そうか?」

『それは分からないわね。でも、親のことが片付かないと分からないわね』

「一度には無理か。分かった。ありがとう」

『いいのよ。編集がひと段落して暇だったからね』

「まだ、続いていたのかよ」

『そうよ、今は小学校でウンコしてからのエピソードを編集中よ』

「お前、また俺の嫌な歴史をほじくり返して……」

『シンにとっては不幸でも、私からは悲劇でもあり喜劇なの』

「まあいい。どうせ、俺からは手出しは出来ないからな。また、なにか動きがあったら教えてくれ」

『は~い。分かったわ』




 翌朝、食事を済ませた後、アンナ達は一箇所の固まりカレンに対し説得を始めたようだ。

 あまり、執拗に迫ると爆発する可能性があるんだけど、大丈夫か?


 オリヴィアはその様子を見ながらオロオロしているだけだったので、こちらへ呼んでみる。

「オリヴィア、来い」


 呼ばれたオリヴィアはトコトコと俺の方に近付いてくるとなにか用かと聞いてくる。

「お前は、あの場にいても話には入れないだろう」

「ぐっ」

「ある意味、当事者だもんな」

「分かってるわよ! そんなことくらいは……」

「で、お前は決めたのか?」

「なにを?」

「俺と一緒に来るのかどうかだ」

「……」

「どうした?」

「ねえ、お兄様が言ったことは本当なの?」

「なんだ、俺を疑うのか? アンナとカレンも聞いていたのに」

「いえ、あなた達のことを疑っている訳じゃないの。でも、あの優しいお兄様がそんなことを言うなんて、とても信じられなくて……」

「気持ちは分かるが、あのチャーリーの気持ちが変わることはないだろうな」

「そうよね……」

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