第24話 家族に会いたい!

 朝になり、アンナが他の娘に話したのか少し表情が暗い。

「聞いた?」

「「「「……」」」」

「話したわ。話した結果がこれよ。頭で納得出来ても心が納得出来ないのよ」

 チャーリーに娘達の家族を捕縛させないようにお願いはした。だが、せっかく助けたその命も自分達が姿を表せば、全てがバレるのを恐れたチャーリーが凶行に走るだろうと言われたのだ。


「どうにかならないの?」

「カレン、やめなさい。さっき話した通りよ。今は、それ以上のことは出来ないのよ。お願いだから、分かってよ! もし、一人でも街に戻れば、皆の家族が危ないのよ」

「でも……せっかく助かったのに家族にも会えないなんて……ぐすっ」


「あのな、アンナも話したと思うが……もし、チャーリーが当主になっても、隠していた事実が公になれば爵位剥奪に領地も没収となる。そして、その後にどんな貴族が入ってくるかは分からない。まあ、今以上に酷くなることはあっても、よくはならないだろうな」

「そんなの分からないじゃない!」

「ああ、そうだな。やってみないと分からないよな。で、どうする? やってみた結果ダメでしたってことになったら?」

「……」

 カレンが俺の質問に黙り込む。


「言っとくが、俺に期待するのはやめてくれよ。その時には俺はこの地を離れているだろうし、そんな思い入れのない土地の人間なんて気にしていられないからな。それに、そんな貴族を一々気にしていられないってのも事実だ」

「なんでよ! シンならなんとか出来る力があるんでしょ! だったら、私達を助けたように皆を助けてよ!」

「カレン! だから言ったでしょ! シンが考えてくれた内容が一番いい方法なのよ」


 カレンに呆れたように話す。

「分かった。俺の提案が気に入らないのなら、好きにすればいい。俺は明日にでもこの地を離れるから」

「シン、待って! カレンは私が説得するから」

「カレンだけじゃないんだろ? 他のも同じように考えているんだろ。そいつらが納得するのを俺に待てと言うのか?」

「そうよ。お願い!」

「なら、カレン」

「なによ。もう用なんてないんでしょ。どこにでも行けばいいじゃない」

「そうか」

「「「「「……」」」」」

 カレンの売り言葉に俺が反応すると、オリヴィア達他の娘の顔が泣きそうになる。

 カレンは忘れているかもしれないが、今いるこの森はオリヴィア達のような戦闘の素人では太刀打ちできない魔物がそこら中にいる。

 もし、シンやフク、ユキがいなくなればあっという間に全滅だろう。


「カレン、よく考えて!」

「そうよ、少し落ち着きなさいよ」

「あなた、自分がなに言ってるのか分かってないのよ」


「なによ! 皆して! 私は落ち着いているわよ!」

 カレンが激昂して、反論する。


「「「「「どこがよ」」」」」


「もういい。明日朝までになにも変わってなければ、俺が助けてやれることはなにもない。よく考えるんだな」

「シン!」

 オリヴィアから声を掛けられる。

「なんだ?」

「あの……ごめんなさい」

 いきなり、オリヴィアが頭を下げる。

「それはなんに対しての謝罪だ?」

「なんに……そうよね。元は私の親のことだし。シンが出ていくのを止めようと思ったら、なんとなく謝ってしまったの」

「そうか。まあいい。オリヴィアもどうしたらいいか、一緒に考えろ。いいな?」

「うん、分かった」


 シンが洞窟から出ると、ユキが側に寄ってくる。

「護衛はいいのか?」

『フクがいるからいいでしょ。私だって、たまには鬱憤をはらしたいのよ』

「そっか。じゃ、魔物でも狩るか?」

『ふふふ、なら競争でもする?』

「俺相手にか?」

『あら、そんなこと言ってもいいのかしら?』

「それは俺に勝ってから言うんだな」


 ユキと別れて森に入ると、いきなり魔物が迫ってくる。

「鬱陶しいな」

 食えない魔物は、その場で首を刎ね消し炭に変える。


「こりゃユキに笑われるかもな」

 さっきから、俺の目の前に現れるのはゴブリンやコボルトとかばかりだ。

 オークかヘビ系の魔物でも出てこないと本当にマズい。


 そんな時にふと、辺りが暗くなり殺気を感じて上を見上げると、いつかのワイバーンが俺を目視すると俺を目掛けて急降下してくる。

「おいおい、俺を狙って来るのか。面白い! あの時とは違うところを見せてやろうじゃないか。来な!」


 急降下で迫ってくるワイバーンの初手を交わす。

 ワイバーンは、勢いのまま上空へと上がると静止した状態で、またこちらを見据える。


「来るか」

『ギャァァァ!!!』


「安心しろ。今度は避けないからな。ほら、来るがいい!」

 ワイバーンがまた、急降下で狙って来るので、その翼の根元に狙いをつけすれ違う瞬間に刀の切先を食い込ませる。

『ギャッ』

 急降下の勢いそのまま、突っ込んできたものだから、ワイバーンの翼は俺が力を込めずとも容易く切り裂かれる。

 結果、片翼になり飛び上がることも出来ないワイバーンは、勢いを殺すことも出来ずにそのまま、木を薙ぎ倒しながら地面を滑っていく。


 薙ぎ倒された木を無限倉庫に収納しながら、ワイバーンの元へ向かう。

 片翼になりバランスを崩したせいで、うまく起き上がれないようだ。

「もう、飛べないだろう。悪いな、しっかりと味わって食べるからな。成仏しろよ」

 もがくワイバーンに声をかけると首を刎ね、その全てを無限倉庫に収納する。


「もう、こんなもんでいいか。でも、どうするかな。ワイバーンなんて解体したこともないし、料理なんて出来ないぞ。アンナに頼むのもな~」

『シンよ、こんなところにいたのか? む、この惨状は……まさか、さっきのワイバーンか?』

「ああ、そうだ。なんとか仕留めたんだけどな」

『どうした? 仕留めたんなら、なにも問題はないだろ』

「いや、それが大ありなんだよ」

『そうなのか?』

「ああ、どうやって食ったらいいんだと思ってね」

『なんじゃ、そっちか』

「ユキは生食専門だから、問題はないだろうが俺はレアは苦手なんだよ」

『なら、焼くなり、煮るなり、いろいろ方法はあるだろ?』

「そうなんだけどな、血抜きとか失敗すると、すっごく不味いんだよ。せっかく仕留めたワイバーンだからな、美味く食うのも義務だろ」

『人というのは面倒だな』

「そうだな。まあ、それが楽しくもあるがな」


 ユキとの勝負もうやむやになったまま、洞窟へと戻るとアンナを呼び出す。

「なに?」

「いや、あのなワイバーンって、料理したことある?」

「は? なに言ってんの? 大丈夫?」

「なにがだ?」

「だって、ワイバーンよ。一体だけでも軍隊が出るほどの騒ぎになるのよ。そんなのをなんで私が料理出来ると思うの。目にすることさえ許されないわよ」

「そっか~じゃ、自分でなんとかするしかないかな」

「え? ちょっと待って。今、なんて言ったの?」

「自分でなんとかするしかないかなって」

「え? なんでそうなるの?」

「なんでって、せっかくやり合って仕留めたんだから、美味しくいただくのが筋だろ?」

「いやいやいや、待って! おかしいでしょ! ねえ? さっきの話を聞いてた? 一体でも軍隊が出るほどの騒ぎになるのよ。それをシンが一人で倒したっていうの?」

「ああ、まあアイツも飢餓状態で万全ではなかったみたいだがな」

「え? 本当なの?」

「だから、さっきからそう言ってるつもりだけど」


 アンナがなかなか信じてくれないので、刎ねた頭を無限倉庫からアンナの前に出す。

「キャッ!」

 そう言って、俺にしがみついて来るアンナについ、ニヤけてしまうが気を取り直してアンナに確認する。

「これで信じてもらえるか?」

 コクコクと壊れた人形の様に頷くアンナ。

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