第23話 これからのことを話しましょう
洞窟に戻るといきなりオリヴィアに抱きつかれる。
「おい、どうした? いきなりだな」
「ありがとう」
「え?」
「なによ! 私がお礼を言うのがそんなに意外なの!」
「まあ、そうだな。今までが今までだからな」
「それは……ごめんなさい」
「まあ、いい。で、飯は食ったのか?」
「いえ、それは今からよ。シンが戻るのを待っていたのよ」
「待っていたって、こんな時間までか?」
「ええ、そうよ」
奥に座っているアンナを見ると少し微笑んでいる。
オリヴィアとはなんとなく打ち解けたのかな。で、フクはと言えば、目の前の食事を我慢するのに忙しそうだ。
「すまんな。待たせてしまって」
「いいわよ。次期当主様にも会えたし。これ以上、悪い方には転がりっこないでしょうし。ね? そうよね?」
アンナが「うんと言って」と縋るように見つめてくる。
「そうだな、これからはチャーリーと密に連絡を取って、お前達が害されることはないように約束させよう」
「ありがとう」
「まあ、乗り掛かった船だ。気にするな」
『ふふふ、責任重大ね』
「まあな」
食事を終え、一人で寛いでいるとアンナが話しかけてくる。
「ねえ、残った私達だけが無事に帰ったと知ったら、先に殺された人達の家族はどうするかな?」
「さあな。まずは事実を公表するかどうかだな。事実を公表されれば、お前達が汚されたことも知られることになるだろう」
「やっぱり、そうよね」
「それに先に殺された連中の家族には、『なんでお前達だけが!』って怒りの矛先を向けられるかもしれないな」
「私達のせいじゃないとは言っても、残された人達には関係ないものね。見殺しにしたと言われてもしょうがないわ」
「だから、一番いいのは全員死んだことにして、その責任を現当主のあの父親に取らせることだ。そうすれば、怒りの矛先はあのオヤジにだけ向かうだろうからな」
「ちょっと待って! なら、私達やお嬢様は始末されるかもしれないってこと?」
「最悪のケースはそういうことだ」
「なんで? あの人はちゃんとするって言ってたじゃない!」
「お前は貴族の言うことを信じられるのか?」
「……でも、あの人は……」
「貴族は自分の立場を守る為ならなんでもするだろう。それにお前達は、アイツの弱みを握っているんだしな。だから、アイツに取ってはアンナ達が生きている間は、いつも胸にナイフを突きつけられているのと同じ状態だろうな」
「そんな……」
俺の話す内容に言い返そうにも、言い返す術がない。俺の話す内容全てがあり得る内容だからだ。
「だが、手はある」
「どうすればいいの?」
「まず、お前達には死んでもらう」
「そんなのなにも変わらないじゃないの!」
「そうじゃない。死んだと思わせるだけでいい。もちろん家族にも死んだと伝えてもらうから、家族に会うことも出来ないし、生きていると伝えることも許されないし、街に戻ることも出来ない」
「そんな……」
「助かりたいのなら、そこまでする必要があると言うことだ。もちろん、そこに隠れて聞いているオリヴィアにも同じことが言えるがな」
「え?」
アンナが振り返ると壁の陰からオリヴィアが出てくる。
オリヴィアは両足を肩幅くらいに開きしっかりと踏ん張り、両拳を握りしめシンを睨む。
「お兄様はそんな人じゃない!」
「そう思いたい気持ちは分かるが、そのお兄様が現当主の血が流れていないことがバレれば、せっかく当主の座についても貴族位は剥奪され、領地は没収だろうな」
「くっ……そうね。確かにそうなるわね。でも、それはバレたらの話でしょ!」
「そう、だからバレないように知っている連中を纏めて葬る。な? 考えられない話じゃないだろ? それに都合のいいことにその話を知っているのは現当主夫妻とここにいる俺達だけだ。あのお兄様じゃなく、普通の貴族ならどうするか考えてみるといい」
「「……」」
俺の言う言葉に一々尤もだと頷きたいオリヴィアだが、そうなると兄のチャーリーを信じていないことになってしまう。
だが、貴族としての対応を考えると俺の話す内容がオリヴィアとしては一番納得出来るだろう。
「どうすればいいの? ねえ、これ以上、アンナ達を傷付けない為にはどうすればいいの?」
オリヴィアは考えれば考えるほど、悪い方向にと進んでしまうことにどうすればいいのか分からなくなり、瞳から涙が溢れ出てくるのを止められないでいた。
「ベストとは言えないが、グッドな案なら、さっき話したように全員が死んだことにすることだな」
「でも、それでお兄様は諦めてくれるの?」
「諦めないだろうな。貴族は蛇みたいにしつこいからな」
「戻ってもダメ、逃げてもダメって、じゃあ、どうすればいいのよ!」
俺の提案に対し頷きかけるが、結局は死ぬまで追われることになると聞き、オリヴィアが憤慨する。
「だから、グッドな提案だと言っている」
「それはなに?」
「俺と一緒に旅することだ」
「「え?」」
「俺が転移出来ることはチャーリーも知っている。もし、一緒に旅しているお前達になにかあれば、俺は即座にチャーリーに対し報復できる。これなら、チャーリーもそう易々と手は出せないだろう」
「そうね、確かにそれならベストじゃないけど、グッドとは言えるわね」
俺の提案にアンナが納得する。
「ちょっと、待って。その中には私も含まれるの?」
「そうだな。お前がこのまま家に戻ってもよくて幽閉、悪くて……」
「そうね、そうなるでしょうね。いいわ、分かった。お兄様のことを信じられないのは残念だけど、貴族なら、しょうがないわよね」
オリヴィアも俺の提案に乗るようだ。少し賑やかになるが、チャーリーが諦めた頃にどこかの村にでも落ち着けばいいと思っている。
「じゃあ、アンナは他の連中にちゃんと説明を頼む。オリヴィアはチャーリーが戻って来いと言ってもちゃんと突っぱねるように。いいね? で、俺はアンナ達の家族になにかあったら、即座に報復することを分からせてチャーリーを牽制することにしよう」
「じゃあ、これでこっちの方針は決まったってこと?」
「ああ、アンナの言う通りだ」
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