第10話 治療を受けてくれたんだけど……

 フクが一緒に行ってくれたお陰なのか彼女達は治療を受けてくれることになった。

 アンナさんが俺の元に来て「まだ、男性に対して恐怖心があるので出来るだけ静かに話してもらえますか?」と言われた。

 俺はまだ少年の姿なんだけど、これでも怖いのか。


 アンナさんに着いて彼女達の元へ行くと一瞬身構えられるが、アンナさんが「大丈夫だから」とフォローしてくれる。

 こんなに離れた状態では、彼女達の治療も出来ないので少しだけ近付かせてもらう。

「アンナさん、彼女達に横になってもらうように伝えてくれますか」

「いいわよ。ちょっとみんないい? 今から彼が治療してくれるから、そこに横になって貰える」

「「「「えっ?」」」」

「大丈夫よ。ほら、私を見てよ! ほら、ね? 傷なんかないでしょ。全部彼が治してくれたの」

「「「「ホントだ」」」」

「痛くない?」

「ぜんぜん!」

「抑えつけたりとか?」

「ぜんぜん!」

「後から何か請求されたりとか?」

「ぜんぜん!」

「……え~っと……ダメだ、思い付かない」

「いいわよ。大丈夫だから、ね」


「「「「分かりました。お願いします」」」」

「では、これから治療しましすね。『ヒール』」

 彼女達の身体が一瞬光った後、彼女達の身体からゆっくりと傷が消えていく。

「へぇ~こんな風に治療されたんだ~」

「何か他人事ですね」

「そう?」


 彼女達に治療が終わったことを教え立ってもらう。

「わぁ~ホントだ、消えてる~」

「よかった~」

「治った~」

「……後は身体の中だね」

「「「それは、言わない!」」」

「アンナさん、それって……やっぱり?」

「ええ、そうよ。シンの考えている通りよ。初めてのもいたのに……」

「もしかしたら、元に戻せるかも知れません。どうします? 後、中の洗浄と言うか、もし望まぬ結果がそこにあれば一緒になかったことにしてあげられますが」

「本当に!」

「え、ええ」

 急にアンナさんが詰め寄って来たからびっくりしちゃったよ。


「アンナさん、落ち着いて! ね、落ち着いて下さい」

「あ、ごめんね。つい……で、本当に出来そうなの?」

「そうですね、まず再生させることは可能です。中の裂傷なんかはさっきの治療で治ったと思いますが、中にある望まぬ結果は怪我ではないので、もし存在するのであれば、そのままです」

「そうよね、お腹の中の子に罪はないと言っても生まれて大きくなってあいつらの顔に似て来たらと思うとゾッとするわね」

「そうなる前に手を打てればと思いますが、どうされますか?」

「そうね、ちょっと相談させてもらうけど多分お願いすることになると思うわ」

「後、身体の記憶が無くなるのに頭の中に残っているのは不快じゃないですか? いっそのこと記憶の中からも消してしまいませんか?」

「ええ! 何、シンはそういうことも出来るの?」

「望むなら……ですがね」

「そうなの? 例えばどんな風に?」

「そうですね、まず山賊に囚われて乱暴されたのはなかったことにします。例えば馬車で走っていたところを山賊に襲われかけたけど、近くを通り掛かった俺と他数人で助けた……とか」

「もうちょっと捻りが欲しいわね。それにあのお嬢様はどうするの?」

「あなた方の話次第では放ります」

「え? 放るって、その辺にポイッて捨てるってこと?」

「ええ、そうですが?」

「いやいやいや、待ってよ。相手は貴族のお嬢様なのよ。あのお嬢様に何かあったら、私達の家族もどうなるか分からないじゃない! そんなの絶対ダメよ」

「あ~でも、あのお嬢様が無事に帰ったとしてですよ。あなた達に待っているのはどんな状況ですか?」

「そうね、まずは職場に復帰……は出来ないでしょうね」

「それに家族には山賊に傷物にされた女性として腫れ物のように扱われて、まともな商売、ましてやお付き合いに結婚なんて無理でしょうね。またお嬢様もあなた達に対して感謝もしなければ謝罪もしない。それどころかあなた達のせいで山賊に捕まったと言い出すかも知れない。そうなれば、結局あなた達は処刑され、残された家族も白い目で見られることになる」

「あ~ありえるわ~」

「ですが、ここで身体の奥から治療して、ついでに記憶も改竄して、お嬢様なんか知らないって状態になりますよね。もちろん元の家族のことも忘れてもらいます。元々住んでいた場所も忘れてもらいます」

「私達の記憶をある程度、変えるのは分かるけど家族の記憶まで消すの?」

「まず、お嬢様が無事に帰って来ない。だが一緒にいたあなた達が帰って来たとなると、お貴族様のことだからお嬢様と一緒にいたあなた達と、その家族にまで危害が及ぶと思います。アンナさんは絶対にそうならないと言えますか?」

「……そこまで考える?」

「考えるだけなら、最悪のパターンまで考えますがね」

「そう、そうよね。あいつらならそれくらいのことなら平気でするわね」

「ここまでの道中で何があったかは、後で皆さんの記憶を読ませていただいてから自分でまとめるので無理して話す必要はありません。まあ、あのお嬢様の気の強さから、自分を主人公にした魔物相手の冒険譚でも描かせようとしてたんでしょ」

「もう記憶を除いたの?」

「いえ、まだですが」

「……そう、ほぼシンの言った通りよ。これ以上は……ごめんね」

「いえ、では記憶の改竄内容に付いて決めてしまいましょうか」

「ええ、お願いするわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る