第6話 やっと出れたと思ったのに…

 昨夜はやたらと興奮しているフクを宥めながら、食糧を出来るだけ収穫してから寝た。

 そのせいか、フクが起きて来ない。

 昨夜の収穫祭で疲れたんだろうか。分身なのに……


 いつまでも寝顔を見ている訳にもいかないので、フクを起こしてから、ここを出る準備を済ませる。

「なあ、兄ちゃん。この岩の家も持ってくのか?」

「ああ、持てるだけ持って行くぞ」

「じゃあ『収納』っと」

 やっぱりスキルは使えるんだな、とか関心しているとフクがこっちに向かって来る。

「兄ちゃん、ぼんやりしているけど大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ。そっちもいいのか?」

「俺は大丈夫。忘れても取りに戻ってくればいいから」

「え?」

「えって何だよ。兄ちゃんも使えるだろうが。『転移』だよ。『転移』」

「え?」

「俺が持ってるんだから、兄ちゃんも持ってるはずだぞ」

「アリス、カモ~ン!」

『何、今いいとこだったのに。で、何よ』

「あのな、俺が覚えたスキルをフクが使えるのは分かった」

『ええ、そうね。で?』

「フクが覚えたスキルも俺は使えるのか?」

『あら、言ってなかった?』

「ああ、聞いてない」

『あら、そう。じゃそういうことなの。これでいい? じゃ、続きを見るのに忙しいから当分呼ばないでね』

「ああもう、何なんだアイツは! もう、俺の中から追い出してフクのところに行けばいいのに!」

「兄ちゃん、それはやめて」

「分かった善処する」

「約束はしてくれないんだ」

「それでお前はいつ覚えたんだ?」

「いつだったかな? 少し遠くまで行った時に帰るのも面倒だなって、思ったらアリスが『転移使えばいいじゃん!』って言われて覚えた」

「そうか、次は何か覚えたら言ってくれな」

「うん、分かった」

「じゃ、そろそろ行くか」

「出よう!」



 地図スキルで聖アスティア教国の場所を確認し、その方向に歩き出す。

 しばらく森の中を歩くとフクが愚痴り出す。

「なあ、兄ちゃん歩き辛い。どうにかして!」

「どうにかって……」

「俺と違って長く生きてるんだから、何か知恵があるでしょ。何とかしてよ」

「ったく、俺の分身のハズなのに随分とワガママになったもんだ」

『あら、他人事のように言ってるけど、これもあなたよ?』

「そうだぞ」

「まあ、そうなのかもな。アリス、倒した魔物から自動でスキルとか取得出来ないか? 後は無限倉庫に自動で素材を放り込んだりとか」

『出来るわよ。「スキル奪取」と「自動回収」を取得すればいいわよ。でも何で今なの?』

「いや、今からやることで魔物が倒せれるのなら、勿体無いじゃん」

『ふ~ん、まあ好きにしてちょうだい。私はドラマを見るのに忙しいから』

「ったく、人の半生をドラマ扱いしやがって……え~と、『スキル奪取』、『自動回収』取得っと」

「兄ちゃん、ちゃんと取れたよ」

「そうか、なら次は……でっかい岩をクリエイト!」

「こんなん作ってどうするの?」

「フク、教国の方向を確認して」

「ああ、ちょい待ち。え~と、あっち!」

「あっちだな。よし、じゃお前も手伝え、この岩を押すから」

「え、押すだけ?」

「ああ、押すだけだ。いいか、一、二の三で行くぞ。いいか、一」

「ちょっと待って!」

「何だよ」

「ねえ、三で押すの? それとも『一、二の三、GO』で押すの?」

「あ~これもあるあるだな。じゃ、どれがいい?」

「『GO』でお願い」

「分かった。『一、二の三、GO』の『GO』で押すんだな?」

「そう」

「よし、行くぞ。一、二、三「ちょっと待って!」何だよ」

「掛け声が違う!」

「何が違うんだ?」

「さっき。『一、二、三、GO』って言おうとした」

「ああ、それが?」

「約束したのは『一、二の三、GO』だった」

「ん? そうか?」

『そうだよ、シンが変えたね』

「悪い、じゃ『一、二の三、GO』だな」

「そう、それでお願い」

「分かった。じゃ改めて行くぞ。一、二の三、GO!」

 岩が転がされ、進行方向の木々が倒されていく。


 倒された木々も自動回収の対象になるのか、無限倉庫に次々と回収されるので、岩が転がった後は非常に歩きやすかった。

「なあ、兄ちゃん。さっき『性豪』ってスキルを拾ったみたいだけど、これどうする?」

「そんなのポイしなさい、ポイって」

『ああ、無理だから』

「こんなスキルどうすんだよ」

『まあ、一応持っとけば? 使うことあるかもよ。とりあえず隠しとくから』

「あと、『窃盗』とかもあったけど?」

「そんなのは後だ。とりあえあず岩が止まった所まで行こうか」

「分かったよ」


 転がした岩は街道まで届かず、途中の岩山にぶつかって止まっていた。

 で、その岩の下には赤いシミが出来ていた。

「一般人じゃありませんように」

 拝みながら鑑定すると、『罪人』『山賊』の文字があったので、ホッと胸を撫で下ろす。

「フク、さっきの『窃盗』はこいつのスキルだったみたいだな」

「そうだけど、中に人の気配がするよ。岩が入り口を塞いでいるから焦ってるみたいね」

「そうか、じゃこの岩をどかしたら、中からワラワラと出て来る?」

「来る」

「マジか~じゃ、放置で新しい岩を作るか」

「兄ちゃん、ちょっと待って。中に少し違う気配の人がいる。多分、捕まっているっぽい」

「え~面倒だから、今回はご縁がありませんでしたってことで、よくない?」

「よくない! それに盗賊のアジトなら、何かあるはず」

「何、この正義感の塊は? まあ、俺の分身なら当然なのかな。なんちって」

『違うよ』

「違うって?」

『見過ごせないのはフク君オリジナルの考え方で、アジトに残されているお宝目当てがシンの考え方』

「それって、つまりは……どういうこと?」

『フクの中に自我が形成されつつあるわね。しかもシンを反面教師にして」

「マジか~」

「兄ちゃん、とりあえず助けるから手伝って」

「は~い」

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