第59話 2023年の漫画ベストテン

 今日は仕事が休みで執筆もオフ。

 一字も書いてない。

 その代わり今年読んだ漫画のベストテンを考えたので書いておく。

 もちろん個人的な趣味で権威性などゼロ。

 順番もありません。




『ハイパーインフレーション』住吉九


 半裸の美少年ルークを主人公にした架空世界の金融バトル。

 一応舞台のモデルは19世紀のアメリカ大陸らしい。

 金融バトルは今考えた造語で、とにかくどんなジャンルにも属さないしどんな漫画にも似ていないのがこの漫画の特徴。

 強いていうならスタンドがいないジョジョといったところか。

 ただし知略戦のすごみはジョジョ以上で、さらに贋札や金融への博学な知識、8時だよ全員集合! 的なギャグ、美少年の鼠径部への執着(!)、また精通や出産のメタファーとしての贋札、など本来いっしょになるはずのない要素が混在している。

 全6巻で一気に爆走するこの迫力を見よ。



『放課後ひみつクラブ』福島鉄平


 今いちばん好きなギャグ漫画。

 ミステリアスですっとぼけた美少女蟻ケ崎千歳と、線は細いが頼りになる少年猫田悠一の会話がビリー・ワイルダーの映画みたいに粋で楽しい。

 千歳の目的はただ純粋に学校の秘密を探すこと。

 だったがだんだん謎めいた大きな存在が出てきて、最近は「陽気なツイン・ピークス」みたいな感じもある。



『she is beautiful』江坂純 凸ノ高秀


 練り上げられた設定のSFミステリー。

 舞台は近未来で、主人公くるみは箱庭ファミリエと呼ばれる施設で暮らす10歳の少女。

 がある朝目覚めるとくるみは24歳になっていて、さらに10歳から今日までの記憶がまったくない!

 くるみは記憶障害があって眠るたび記憶がリセットされるのだ。

 だから起きるたび今自分がどこにいて、何をしているのかさえわからない!

 まさに絶体絶命だがくるみは持ち前の健気さと10歳までの記憶を頼りに困難に立ち向かう……

 今自分がいちばん応援している主人公は彼女です。



『新しいきみへ』三都慎司


 2014年を舞台にしたタイムリープものだが、すべての悲劇は1995年あの地下鉄サリン事件の年に始まる。

 そのことと「だれかを断罪して留飲を下げる」ラストではなかったことに感動した。

 全6巻完結。

 個人的にハイパーインフレーションと並ぶ2023年のベストワン。



『サンダー3』池田祐輝


 超スケールのSF。

 主人公の少年三人が異世界に入った瞬間、絵のタッチが劇的に変わるのが最高。

 今5巻で連載のペースが遅いのが残念だが、この緻密な絵は月刊でなければむりですな。



『女騎士とケモミミの子』たーぼえんじん


 今好きなファンタジー漫画は葬送のフリーレンとこの漫画。

 女騎士はカッコいいしケモミミのノアはかわいい。

 また登場するクリーチャーのデザインがどれもグロテスクで最高。

 今いちばんカッコいい【怪獣】はこの漫画に出てくると思う。



『ベイビー・ブルーバー』はるにわかえる


 高校の映画部を舞台にしたギャグ漫画。

 主人公の女子高生ハンナはホラー映画が大好き。

 なにがなんでもホラーを撮ろうとするハンナに部長のサイモンは振り回される。

 この二人のやり取りが最高におかしい。

 この漫画が3巻で打ち切りになったとき「今はギャグ漫画冬の時代なんだ」とわかって悲しかった。



『妹尾の頭部』伊原大貴


 ジャンプの読み切りで、今年読んだ短編漫画の中でいちばん印象に残った。

 基本ギャグだが主人公の「頭部をなくした」高校生妹尾と、クラスメートのギャル姫宮のやり取りがおもしろくかつせつなく胸に迫る。

 ギャグというより青春漫画といったほうがいいかもしれない。



『血の轍』押見修造


 おそるべき母親の支配とそれから逃れようとする息子の苦しみを描いた大河ドラマ。

 17巻で完結した。

 この漫画のすごいところは「狂っていく人間の内面を絵として描いた」ところ。

 たぶんムンクの怪奇絵を参考にしていると思うが、「これが狂っていく人間が見る心象風景か」と戦慄した。

 むかし小説でよく感じた「長い人生に付き合った」ような疲労感を最後に味わった。

 自分が主人公静一だったらこの地獄からどうやって抜け出す? と考えたが


「抜け出せない」


 と最後に思った。



『あやかしトライアングル』矢吹健太朗


 こちらも今年16巻で完結した。

 最後まで勢いがある和風ファンタジー+ラブコメ+バトル+性転換もので、モチーフの欲張りセットなのに破綻がない余裕の語り口はさすがの矢吹神。

 主人公の祭里と「少年漫画史上最凶のヒロイン」すずはともにかわいい。

 さらに二人ともスタイル抜群で清潔感がある(ここ大事)のにちゃんとエロい(これも大事)。

 十代の男の子が喜ぶエロシーン満載だが、エロい熟女(祭里の母)も出てきて驚いた。

 今どきの若者は趣味がいい(?)。

 ラーメン屋でジャンプを読んでいた男の子が、あやかし~を読むときだけ雑誌をテーブルに立て、こっそり読んでいたと聞いて


「ハレンチ学園の伝統がまだここにある」


 とうれしくなった。

 矢吹神の次回作が楽しみである。




 このほかに


『青のミブロ』安田剛士

『雀児』平岡一輝

『ハンサムマストダイ』アストラ芦魔

『イチゴーキ!操縦中』林聖二

『天幕のジャ―ドゥーガル』トマトスープ

『きらぼしお嬢様の求婚』英貴


 も印象に残った。来年も楽しみです。

 ではまた。



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